空蝉

第1話 空蝉の君とのお話4

「それで小君とはどんなお話をなさいましたの?」

 兄に話の続きを促す。

「愚痴ってしまったよ。」

「どんな愚痴を?」

「わたしはこれまでこんなに人に憎まれたことなかったのに、こんなことが起こると初めてわかって、恥ずかしくてこのままではいられない。と」

「そ、そうですの…」


 世間の皆さま、こんな兄でごめんなさい。

 初めてフラれて絶望して出家したいと言ったようですわ。

 いや、わかっていたけど、自信過剰。自己肯定感の化け物だ。


「小君は涙まで流して同情してくれてね…。かわいいやつと思って触れてみたら、ほっそりとしてて姉君のようで切なく感じたよ。」


 そう。源氏物語には男色もある。この空蝉うつせみ巻の冒頭文が男色のシーンだ。


「そうですか。」


 あ、ダメ。口調が素にもどる。


「それでその日は終わりだよ。暗いうちに帰ったよ。」

「お疲れ様でした。これからはどうされますの?諦めますか?」

「気に食わない女だと思わないか?こんなに強情にならなくてもいいじゃないか。」

「そうですわね…。わたくしでしたら、おにいさまのような方を恋人とするのはちょっと…」

「姫宮もそうなの?」

「わたくしは忠実人まめびとが好きなので。」

「君は同母兄弟だからそう思うだけだよ。」

「ふふふ」


 源氏物語の論文書いてる時から好みじゃないよ。


「彼女は気に食わない。でも、このままではやめられないんだ…」


 あらら…落ち込んでしまった。

 あら、ふと御簾みすの向こうを眺めると簀子すのこの方に童が見える。


「おにいさま、あそこにいるのが小君でございますか?」

「そうだよ。

 ちょっとそこの君、小君を呼んでおくれ。」


 小君が戸惑いながら御簾みすの前まできた。これが小君か。確かに細っそりとしているし見た目も悪くない・


「小君、私は君の姉君に対して、ひどい、忌々しいと思う。だがそう思っても諦められないのだ。どうにかして、会えるようにしておくれ。」


 丸投げ…これぞ、今まで思い通りにならないことはなかった(藤壺以外)の男の発言。恐ろしい。

 でも、源氏物語のワンシーンが生で見れて嬉しいな。


「はい。」


 こんなわがまま、いくら良くしてくれても厄介だなと思うよね。

 がんばってね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る