第5話 空蝉の君とのお話3

 さて、あれから数日経った。兄とは会ってないが新しい情報が入ってきた。


「光源氏さまが、故衛門督えもんのかみの忘れ形見の童をお気に召して連れ歩き、衣もあつらえてあげたそうよ。」

 と。注目の的だねー。お話は順調に進んでいるようだ。


 小君に空蝉うつせみの君に文を託し、返事がもらえないことが続いているはずだ。空蝉の君も不倫の手紙を弟に運ばれるなんていたたまれないだろうな。

 あの光源氏にそこまでされてもなびかないのはすごいが。しかし、光源氏は、逃げれればしつこく追う。ご愁傷様。

 ちなみに小君は、

「私のほうが先に関係をもっていたのだ」

 と言われ、納得して協力している。


 さて、兄が方違えかたたがえに再度、紀伊守きいのかみの屋敷を訪れたという話を聞いた。そろそろ文を書かねばならない。


「姫宮、いかがお過ごしかい?」

「変わりありませんわ。おにいさまこそ、いかがでしたか。」

「聞いてくれるか。この切なさを。」


 もちろん!と思いを込めて、兄を御簾みすの中に招き入れる。

 ふふふ。相談相手の座を手に入れた。これでこれからも簡単に話を聞くことができるだろう。


「先日の方違え、また紀伊守の屋敷に行ったんだ。」

「はい。」


 この行動力。尊敬するよ。


「彼女の弟の小君にも、彼女にも行くということを昼から知らせていたんだ。」


 素っ気なくされているはずなのに、びっくりするほどの自己肯定感の高さだ。


「そうですの。」

「夜は、一緒に行ったものたちを早く寝させて、小君に案内するようにといったんだが、どこにいるのかわからなかったようで、必死に探して渡殿わたどのの女房たちがたくさんいるところで見つけたらしいんだ。」

「まあ。」


 小君かわいそうに・・・


「小君が泣きながら責めたが、彼女は応じず、気分が悪いのでという伝言をもらったよ。」

 うなずいて、次をうながす、

「ここまで強情だとは思わなかった。私は、和歌を送ったよ。」

「返歌はあったのですか?」

「ああ。」

「手強いお相手でしたわね。」

「でも、その強さに惹かれたんだ。小君に無理にでも連れていけと言ったが、人の多いところなので無理だと言われたよ。その夜は小君を代わりにそばにおいて寝たさ。」

「まあ。小君とお眠りに?」

「小君の方がよっぽど可愛いと思ったよ。」


 そして、兄はお茶を口にした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る