第4話 空蝉の君とのお話2

「それで、そのあと朝までお休みになられたわけではないでしょう?」

「お見通しか。」

「はい。」

「そのあと、障子しょうじ(今のふすま)の向こうが気になって眠れなかったんだ。だっておかわいそうではないか?」

「おかわいそうではありますね・・・」

「そうしたら、先ほどの少年の声で、どこにいるのかと問う声が聞こえたんだ。その返事が似た声で聞こえたものだから、その方が障子の向こうにいると確信したんだ。」

「まあ。それで・・・」

「私の話をしていたんだ。興味があったんだろう。」


 いやいや、この世界であなたに興味がない人なんていませんよ。


「そして、みな寝ている気配がしたんだ。彼女は私と障子を隔てた向こうに一人で寝ているようだった。」

「不用心な・・・」

「君ならしないし、家人もさせないだろうね。」

「もちろんですわ。」

「それで、掛金かけがねを外してみたら、障子が開くものだから・・・」

「入ってしまわれたのですね。」

「うん。それに中将を呼んだから・・・」

「それは、女房の中将では?」

「そうであろうね。」

「中将をお呼びですから参上しましたとでもお言いになったの?」

「その通り。見てたのかい?」

「いえ・・・」


 読 み ま し た。


「それで、一夜を共にしたわけさ。小柄な方でね。どんなに優しくしても泣くんだ。誠実にお話ししたのに、全然受け入れてもらえなくて・・・」

「無体なことをされたからではなくて?」

「そうなのかな。でも何しなかったら後悔すると思わないかい?」

「どうでしょう。」


 百聞は一見に如かずってこれだなあ。読んでるときも強引だなと思ったけれど、本人から聞くと、身勝手極まりなくてコメントすらない。


「お文もどうやって送っていいかわからないし、送りたいと言っても拒否するんだ。」

「まじめな方ですのよ。」

「好感持てるよね。」


 うん、まあ、そうであるけれども・・・

 恋に浮かれた兄とは会話にならないと知った。


「それで今は落ち込んでいるんだ。どうにか、再びお会いする手はないものか。」

「そうですわね・・・どうにか見つかればよろしいですわね。」

「げに(本当に)」


 ああ、お気の毒に、その代わり老後?の生活は兄が見ますの

 でお許しくださいませ。空蝉の君さま・・・


「紀伊守に探りをいれてみてはいかがです?」


 空蝉の君、悪いが話は誘導させてもらう。私は源氏物語の流れを変える気はないのだ。


「そうだね。近いうちにそうしてみるよ。」

「はい。また後日談をお聞かせくださいませね。」

「ああ、聞いておくれ。」




「やあ。」

 夫が帰ってきた。

「兄君がおいでと聞いたが・・・」

「先ほど帰られましたわ。」


 あー落ち着く。


「今日も楽しいお話をしてもらったのかい?」

「ええ。今日も大変興味深うございましたわ。」

「そっか。よかったね。姫宮もあのような華やかな男性のがよかったかい?」

「いえ、わたくしはわたくしを唯一の妻としてくれるあなたがよろしゅうございます。」


 私はモブとして、楽しく源氏物語を鑑賞したいのだ。


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