姉妹の恋の仕舞い方③真の恋とは…違うコレじゃない。等身大では負ける恋



『喪があけました…いよいよですね?ヒロさん…』


 何かお爺さんの遺影の横に昔っぽいスマホが置いてある。

 何アレ?パンフレットを持って男性…ヒロさんに近付く…


『研一の爺さんも言っております、タツにゲーミングスマホを買ってやれ…と。』


「意味不明な世界設定は要らん、壊れた楽チンスマホの代わりは中古の型落ちアイポン決定。ほら、シアさんが来てるよ…お前が呼んだんだろ?」


「いえいえ!呼ばれた訳では無いのですが…」


 チラっと私を見た後、タツさんはソファーに座るヒロさんに、真正面から向かい合い跨る様に座った…


「ちょっ…タツ…聞いてんのか…」


『フフ…愛の負け犬、シア…恋愛師範であるオレの…真の愛…おねだりを見せてやろう…』


 何を初めてるのか分からないが、ヒロさんはずっと私が来ているからと、繰り返し伝えているがタツさんは聞いている様には見えない…

 

「そのスペックでは足りないんですよ?SDカードも挿せない。4Kエ□、VRエ□、3DCGエ□…そしてありとあらゆるゲームが出来るのがゲーミングスマホ…七色に光るスマホ…分かりますか?…」


 語りかけながら上下ジャージの休日のおじさんスタイルのヒロさんのズボンの中にタツさんは両足を突っ込んだ!?


「タツ…やめろ…客人きてるのに…おい…」


「そして博之さんは言う…一番大事なのは通信速度と…しかし私がちょっとした冗談で博之さんのPCでエロサイト見てウイルス混入させただけなのに家のPCとWIFIのパスワードを国家機密ばりに隠蔽し、一番改造しにくいアイポンを渡し、公共WIFIでダウンロード出来ないようにしつつ、速度制限のかかったシム、電話線時代のインターネット速度を強要する…通信速度意味無いじゃないですかぁあああッッ!?」


 今度はジャージの腹をめくって侵入し、今や一着の洋服を2人が着て、互いに向かい合って密着状態に…


「タツっ!?おい!馬鹿!やめろキサマァ!後、仕事用のPCにウイルス入れるのは冗談ではすまされない!」


旦那ダンナの弱点、それは世間体…私は散々、社会的に死んだから分かる…だが私は引きません…今いるのは私にとっては淫乱聖水アイドルのシャーと昆虫自慰プレイの淫売根暗という弟子のみ!しかしヒロさんにとっては知らぬアイドルと妹のような存在!オレの勝ちだぁぁぁ!!さぁこのパンフレットのゲーミングスマホ!GTR1919の23万の分割許可を!もしくはヒロのポケットマネーで一括払いでもOKっ!」


「うるさい!お前は中古のアイポン!今回の件で型落ち度数を更に下げる!お前なんか頭痛予想と天気予報と電話だけでOK!」


「オラは虫でそんな事しねえだよぉ!」

「私も聖水アイドルではありませんが…」


 一応、私も言っておく…


「やかましぃっ!暗転!貴様はクワガタに豆挟ませて切れたからキ◯カン付けて『泡が出て痛い』と泣き叫んでいただろうが!シャーは昨日道行く一般人男性に自分の聖水『やめてええええっつ!!』やめるか馬鹿!既に昨日、和やかな家族の食事時間に話題として上げたわ!フハハハッッ!」


 この人は…


「ヒロ!楽チンスマホをくれたサンタさんは…オレが大人になったからもう来ない!オレは何を信じれば良い!?ヒロの言う通り楽チンスマホにお経をあげたぞ!?『俺はそんな事言ってない!』死んで地獄に落ちた研一ジジイも買えと言っている!『言ってないし研一はスマホ知らない!』あー言えばこういう!ヒロの悪いク『ぎゅるるるる〜』セだ…あ…お腹が…ウンチ出そう…」


 ヒロさんがタツさんとジャージで一体化しながら顔面蒼白になっていく…

 身体を動かそうとするが2人は一体化しているので上手く行かない…いや、タツさんが…


「ヒロオオオ!!ゲーミングスマホを認めるまで…オレはこの場で耐えて魅せる!」


「タツ…お前は結婚し家庭を作り…アラサー…子供は学校に行く程大きくなった…そして今は間違い無くタツ…タツじゃないなんて言えんぞ…それでも…まだ…お前は…」


「待て!ヒロ…その言い方は卑怯だ!普通は…みたいなのが一番ズルい!ヒロが悪いんだ!サンタを辞めて夢を奪い!オレの行動に制限を『ブリョッブリッ』あ…」


 その後一体化した2人はクソを撒き散らしながらヒロさんが殴ろうとするのを止めるみたいな事をやっていたが、もう一人いた暗転さんが2人まとめて風呂に投げ込んで…今に至る。


「んで…どーしたんだべさ?メグミなら元気だーよ?アイツは道具の扱いが上手いから、今は医者の真似事しでるよぉ」


「そうなんですか…メグミ…元気にやってるなら良かったです。」


 メグミも頑張ってるのに私は…


「シアちゃん…シアラちゃんだっけ?テレビに最近出てないべな?もうやめちゃったのけ?」


 まぁ…やっぱり皆そう思うよね…でも…


「正直言えば…歌も演技も…今は出来ないというか…難しいですね…」


 私はとりあえず、メグミの師匠?である暗転さんに相談した。

 事情が分かってくれればタツさんを止めてくれると思ったからだ。


「とまぁ、あのクリスマスの件で私をこの世界に入れた母は亡くなり父は疎遠に、妹は九州で治療してますが先が見えず…何だかやる気というか……」


 暗転さんが暫く無言で唸っていた…この人も至る所に傷があり目がどんよりしてるが、濃ゆいカーキのワンピースが良く似合う、ウェーブのかかった髪が素敵な綺麗な人だ。


「それ、組織で言うとやれる人がやらない困ったちゃんだな…いや、一緒にしちゃ良くねえけども。それにタツ姉さんが一番わりいんだけどな?…やっぱり…それだけ歌が上手かったりとか、人をひきつける才能があるならやった方がええんでねぇか?」


「え?」


 「いやいや、別にヒロ兄さんの子供達がシアラちゃんのファンだからとかは置いといて…例えばタツ姉さん、あの件をもっと前から解決出来たんだけどな?『そんなファンタジーな事ある訳ねぇだろ馬鹿か』と聞く耳を持たなかったんだな…ワラシみてぇに大事な時に時間稼ぎしかできねぇもんからすると何でやんねぇんだって思うわけさ…メグミも悔やんでたしな…ドラッグ抜くのだってさっさとあの人がやってりゃ…ブツブツ」


 暗そうな人だと思ったら凄い喋る…しかも愚痴…


「幼馴染のアイカさんが攫われて、旦那さんのヒロ兄さんがキレて、ようやっと腰を上げたんだよ…普段はダラダラゴロゴロ、あーやってヒロ兄さんに間違えた誘惑かけて、ケツ穴にコケシ挿すだけの生産性のない役立たず…クカッ!?」

 

 うあぁ!?気付くとバスタオル姿のタツさんの腕が暗転さんの首を締めていた…


「貴様らのファンタジーVRバトル話は誰も望んでいないし何でもかんでもオレのせいにする…その、心。腐っている…それにNTRラブコメをNTR耐久卿達は望んでいる…裏切り者の…なんでぇ?…をな。」


「な、な…してぇ?…わら…し…を…カクッ」


 ラブコメ?気絶しちゃったけど…何言ってるの?この人は…


「タツさんがあの時の事を解決したんじゃないんですか?私の妹も…治せるん…」


「待て待て待て待て、お前らまだVRの話してんのか?急にワラワラ人の家の前に来て『光を倒せるのはお前しかいない』とか言われた奴の気持ち分かるかな?知り合い共がヤバい宗教にハマったと思ってドア閉めたら家の前で泣きながら名前を叫ぶ…狂っている。田辺某が来たからあげて最新のVRゲームやって、やった後に海外旅行に行ったと思ったらそれもVRだったという納得のいく理由を説明された奴の気持ち分かるか?何かおかしいと思ったんだ、アイカが居たから意味わかんねぇ教会に置いて来てざまぁしたと思ったらCGだって…ヨーロッパってパンフレット見たら全然違うじゃねーか。だから、いつか行ってみたい本当の海外。快楽に一番近い島は三千倍…」


 パサリ…ペラペラ口を動かしてると思ったらバスタオルが落ちて全裸、それでも喋り続けるタツさん。


「もう良いです、もう良いですから…仕切り直しましょう…」



 そして改めて下着だけのタツさん、ジャージを着ているヒロさん、まんぐり返しの姿勢で縛られ気絶している暗転さんの前で話し始めた。


「それでですね、私は…えー…と」


 話し始めて思った。この人に会うとすぐ目的を忘れる…私は何しに来た?昨日の事を弁解しに、タロァに言わせない為に来たのだ。


「昨日の事は勘違いなんです。タロァに言わないで貰えますか?」


 ヒロさんが目を逸らした…恥ずかしい…このタツさん…ペラペラ喋りやがって…

 するとタツさんが遺影の近くにあるボロボロのスマホのメール送信画面を見せてきた。


『タロァ君、我が弟子であり無敵のアイドル気取りのシャーは、君がいなくなって崩壊した。町中で、アイドルに群がる大きな少年(心のみ)達に、まるで戦後の米軍のように『ほらほらお飲みよファッキンス◯イブーん?』とチョコを配るかの如く黄金水を蒔き散らしながら仰り、幼子のような目をしたファンは『ギブミー黄金水!』と群がっておったんじゃー。君にも責任があるやいなや?同じ様な事を繰り返し『後◯園遊園地で私の前門と貴様の肛門が握手!』と去り際に言ってますが、無敵のアイドルは嘘をつくそうなので大きい子供達を遊園地に集めてネバ―アイランド、マンションから子供を落す振り、よろしくお願いします』


 私は驚愕した…捏造と文章力のバランス…怪文書だ…そしてその返信が…


『シアがどうかしたんですか?連絡先分かりました?ヒロさんか鬼頭さんに説明してもらえますか?』


 とタロァからの返事…タロァは私を信じている…と思ったらヒロさんが机に張り付くように頭を下げていた。ナゼニ?


「そしてヒロはこう返事したよ。」


 タツさんがヒロさんのスマホ画面を見せて来た…ヒロさんは頭を下げっぱなしだ。


『博之です。肝心の電話番号は聞いてないようです、すまん。タツの文章力ではあんな感じだけど、ペラペラ話をしていた内容を推測すると、どうやらシアさんは太郎君と付き合えない腹いせに、通りすがりのファンに黄金水一気をさせているらしい。腹がパンパンになったファンの腹を踏みながら『アンタ達、こういうのが良いんでしょ?』と言って大事な部分を見せつけていたらしい。本当かどうか分からないけどタツは嘘自体はつかないのでそれに近い事はやっていたようだ。やっぱり芸能人は違うなぁ』


 それに近い事はやっていたようだ、って…いや、やりましたが…ヒロさんが汗をかき、手振りをしながら言う…


「いや、あの!タツとイクエか同じ事すると『キチかよ…』とか思うけど有名人がやると何か意味があるのかって…すいませんでした!直接電話した方が良いと思うんですよ?誤解だってあるだろうしね、なぁタツ?」


「誤解何かあるもんかよ、オレは見た!それに眼鏡がコイツの本質は獣だって言っていたからな。綺麗な外国人顔した発情犬、それがシャーだよ。弟子だからしつけてやるって言ってんのに逃げ出した犬、それがシャ…イテッ!?」

 

 話が進まないからと怒られるタツさん。

 


 電話…タロァは落ち着いたら連絡するって言ってた…でも…私の携帯番号は事務所の電話だから、あの騒ぎで変わって…


「あああああああッッッ!?!?!?」


 新しい番号教えてない!?

 馬鹿の一つ覚えのように待っていた私…私もまた、馬鹿の1人だった。


「うああ…とりあえず電話してみます…ありがとうございます…」


「待て、シャー…今告白という暴挙に出れば貴様は死ぬ、恋愛敗北者になるだろう…修行しろ、オレの元で…そしてインタビューで素晴らしい師の元で修行したと言え…だから」


 何かペラペラ話しているが、この人に関わってはいけない…意味無いから…多分恋愛偏差値は名前書けば入れる所ぐらいのはずだから…


「私は私の…やりたいようにやります。助けてもらったり感謝はしています…また改めて来ますが、今日はさようなら!」


 素早く家から飛び出る…


「待てっ!シャーっ!」「タツッ!おっぱい!あーあ、タツのせいでまたサインもらい忘れた…」


「ヒロ、オレがまた代筆するって、バレないって」

「いや前回バレただろ、『タツじゃない淫乱対魔忍・シャー』って書いて、龍博に誰のサイン?って聞かれてじゃねえか」

 

「サインはまた、書きに来ます!」


 それだけ家の外から伝え…私は家に帰った…頭の中はタロァ一色だった…電話番号の事もだけど…私はタロァの事になると馬鹿になる…そして…

 

 プルルルル…プルルルル…『もしもし?』


 何も考えず…電話してしまった…


『た、タロァ…くん?』


『おぉ!?シアか!何だよ、タロァ君って(笑)元気にしてたか?ずっとテレビ出てないから心配したよ!』


『え…あ…うん!元気!元気だよ!タロァは元気!?今、何やってるの?私はね…』


 止まらない言葉…荒波の様にうねる感情…本当の私が溢れ出る…

 

 誰かが言ってた。

 仲の良かった幼馴染…何時だってに戻してくれる…私の止まった時が再び動いた気がした。


『シアは今どこにいるの?ちょうど実家に帰っていたんだよ!ちょっとしたでも会えるか?』


『うん!タロァに会いたい!そうだ!美味しいケーキ屋があるんだよ!』


 そしてタロァと会った…私が…狂う…

 思えば高校の時…タロァがもし一緒に何処かに逃げてくれるなら…私は多分ついて行っただろう。

 今考えれば中卒の男女が誰も知らない所に逃げるなんて無茶苦茶な話だ。

 

「それでね!タツさんがね!酷いんだよっ!?何かファンに悪戯してるなんて嘘ついてさ!…」


 とりあえずタツさんが嘘ついたことにした。

 更に言えば、例のクリスマス前にしていた感度100倍トレーニングとか言う馬鹿のやる事を全部タツさんのせいにした。

 いや…実際そうだし…


 しかし何ヶ月…いや、何年ぶりだろう。こんなに喋ったのは…今までの事も…サラの事も…忘れてしまう程…私はこの人に恋をしている…依存している…

 

 話しながらも気付いているんだよ?

 騒がれるのが嫌いな私、タロァが帽子とサングラスを貸してくれた、その優しさ。

 自然の流れで一番の奥の席に誘導してくれていた事。

 さり気ない所作に懐かしさと優しさがある、前から変わらないタロァだ。

 昔から私が一方的に喋っていて、私が馬鹿みたいにはしゃぐからすぐバレちゃったけど…

 最後の記憶では辛そうなタロァを前にどうして良いか分からなかった…だけど、今のタロァは違う。


 優しく微笑みながら相槌をうち、私が一番欲しい言葉を奏でる、返事の一つ一つに吸い寄せられる。

 きっとタロァは、動物園の時のような事が起きても動じないだろう。

 それは諦観なのか、経験から来る余裕なのか分からない。

 親と子、大人と子供、どれにも言い表せない魅力。

 配慮出来なかった私を昔から許容してくれた。

 今は、変わらない私を抱擁するように包み込む。


 人気のモデルや俳優、ミュージシャンやらダンサーやら、色んな人を見てきたが…この人に比べると路傍の石にも満たない…わたしにはこの人しか…タロァしかいない…

 あぁ駄目だ、枷が外れる、歯止めが効かなくなる…

 そしてやってしまった。駄目なのに、分かっているのに…


『あ!あのね!あの…タロァ!私はタロァが好き!タロァは私の事…』


 言ってる途中でしまったと思った…私はもう、言葉で表現できない程、この人がとてつもなく好きなのだ。


『ん?おお、ああ…そういう感じ、いや懐かしいなと思って…そうか…そうだよな…昔の話が宙ぶらりんだ。クリスマスがまでにはまた帰らなきゃいけないしな、九州に。』


『え?そ、そうなの?』


『おばちゃん1人にしておけんしな、それまでには…キチンと返事しよう思うけどそれで良いか?』


 何か勝手に決まってしまった…

 

 そして数日後…私の人生をかけたポロリと出た告白の結果は…あっさりとお断りを頂きました… 

 サラを待っている…と。


 そして今、体育座りをして部屋で腐っている。


※あっさり、そろそろ新しい事は程々に、まずはシア編の完結を目指します。

 次からタロァ視点で進みます。

 

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