姉妹の恋の仕舞い方② あの日から今日まで、私はサラに、タロァに。

 

 私の運命の分岐点は…高校三年のクリスマスの日だった。


 結局…あの日関わった私の幼馴染やその関係者…ほぼ全員、卒業式には出れなかった。


 サラはあの日から意識が朦朧としているか、寝てるかのどちらか…誰かが見なければと九州のおばあちゃんのところに行った。

 正確にはおばあちゃんの家の近くの病院だ。


 お母さんは…亡くなった。でも不思議と悲しく無かった。

 ドラッグでおかしくなる前からおかしかったから。いつかこの日が来ると、どこかで思っていた。

 常に野望に向けていたその目を、多分、家族には向けてなかったんだと思う。

 蘭子の家、タロァの家、そしてウチの家。

 仲良い家もあれば私の家のようにどんなに押し留めても輪にはならない家がある。

 それをもっと早く認めていれば未来は違ったかも知れない。


 だから…お父さんとも距離を取った。憎くてではない。

 私達は崩壊したから、だから新しい家族を大事にして欲しいと強く言った。


 タロァはサラを追うように、卒業前には九州に行った。

 皆、タロァのせいじゃないと言ったけど『ちょっと早い旅行みたいなもんだから』と聞かなかった。

 卒業証書は高校三年生で出来た友達、ヨータ君が預かり蘭子に渡したそうだ。


 蘭子は日増しに大きくなるお腹を撫でている。

 そして…新しい命が生まれた。元気な男の子。

 どうか私達のようにはならないで欲しいと願う。

 蘭子の家族とはたまに会っている。今、地元にいるのは彼女しかいないから…というのもある。


 メグミは…タロァの犬山家…母親が別れた旦那さんと再婚した。タロァか強く推した。

 メグミの母が、それでも犬山を名乗ると言ったがタロァが反対したらしい。

 名字は菊竹?よく覚えていないけどタロァは犬山ではなくなった。


 後から聞いたが、私の家が解散した事と、生みの母親に会いに行って既に亡くなっていた事で考えが変わったそうだ。

 名字は大事なモノだけど、今生きてる大事な人を犠牲にしてまで守るものじゃないと。


 メグミも再婚した親と家族になっているが、高校を辞め、あのクリスマスの日にお世話になった人の所に身をおいていると聞いた。

 もう一年近く会ってない…最後に会った時に、メグミは自分が大事に出来る人はとても少ないから。

 だからなるべく人に関わらず生きていくと言っていた。



 そして私は…



「そろそろ歌えそうか?…まだ…キツイか」


 マネージャーに言われ、クビを横に振る。

 私はあんな事が起きた後にすぐ復帰出来るほど強くない。

 自分の弱さを認める事は、周りに迷惑をかけない事を知ったから。 


 あのクリスマスの日までに私への世間の注目は頂点に達したが…あの日、皆が憧れる世界の人間が多数消え、その話題で私の存在は掻き消えた。


 ただのドラッグだったら売人が捕まって終わりだったと思う。

 ただ、あのドラッグは…反動が強過ぎた。

 ドラッグによる剥き出しの欲望は…その中毒性故に失う事への絶望と、そして、騙し騙され、大切なものを失った者の膨れ上がった憎しみだけが残った。

 3ヶ月ぐらいだろうか、精神的なものをきっかけに殺人事件がそこかしこで起きた。

 社会問題としてマスメディアが煽った。

 専門家は偉そうに語るが…何も解決に至らなかった。


 今はフランスで日本人のマザーテレサと呼ばれる人が帰国し、ドラッグ被害者の支援活動をしている。

 主に中毒者のカウンセリングをしている様だった。


 私も…と一時期思ったが…サラは私が近くにいると、より強く殻に閉じこもり反応が無くなる。

 それは他の人も同じだった…私という存在は…もしかしたらあの日、ライブ、ネット、テレビ、ラジオ…あらゆる電波に乗っていた私は、この国の人ににとって、潜在的に悪夢の象徴なのかもしれない。


 結局1年近く…私がコンサートで襲われ、サラが操られ、何が何だが分からない状態から逃げ出したあの日から、何も変わっていなかった。


 思い出すあの日…今でも夢の様に思う。


 コンサートではアンコールの前の楽屋で突然、天使の様な化け物に襲われた。

 警備に来ていた人達は次々に倒され弾き飛ばさた。

 そして私に光の首輪を付け歌でドラッグを撒き散らす様に強要した。


 日本全土にドラッグを撒き散らす…この悪魔の様な計画にサラも加担していると知って悲しくなった。

 そして天使に『貴女に勝つために彼女は覚悟を決めた』と言われた。 私は結局、誰も…妹さえも幸せにしていない事を知る。


 天使達の圧倒的な力、成功するであろう計画…私は歯車のまま、絶望に向かっていた…が、恋愛師範T…と名乗るタツさんが来た。

 何が恋愛師範なのか全く分からない程の圧倒的な拳の力、常人には全く把握出来ない技術、頭脳戦という言葉が一切感じられない野生、恋愛という言葉も一切感じられない単一による無差別な暴力と欲望、ひたすら見えるもの、向かってくるものを殴っていた。


 重力を無視して飛び回り、天使のいる所、サラのいる所に飛び殴りまわっていた。


 敵意のあるものは暴力として、敵意が無いとまるで憑き物だけ殴るように拳がすり抜ける。

 見ると完成された筋肉に包まれた阿修羅像のようなタツさん。

 顔が狂気の笑顔で満ちていた。


『ビロロぉ♥たのしいらぁ♥ビロロン♥』


 今でもあの品の良さとは対極の言葉と顔が蘇る。


 話によると愛する人を自分の股の…穴という穴に入れては名前を叫び…その勢いで愛する人を奪おうと考える輩を武器としてブン回したりしていたらしい。本人曰く、それが愛だと…


 私は何でこの人が恋愛師範を名乗っているのか、良く分からなかった。

 恋愛要素が無いと思うけど…


 そんなタツさんに暫く会ってなかった。

 正直どこに住んでるのか、どうやって生きているのか全く知らない。

 ただ…救ってくれた恩人なのに…何故か今は会いたくない…







「ナンダヨ、モデルならシテクレルッティウからタノンダノニ ヤルキゼロダナ…」


 今日はモデルをタレントをしていた時代に仲の良かったファッションデザイナーのレビィの所に来ていた。

 

「レビ…今日はマネキンだけって聞いたから…」


「ハナシカタモ フツウダナ…オモシロクネーナー」


「もう私もちゃんとしなきゃなって…だけど良くわかんなくって…」


「ソーカァ…ナンギダコト!アァ、ソーイヤ、レンアイマスターが、シアのコト サガシテタゾ?マァ、トリアエズ、イマキテルノヤルヨ!ジャージ以外モキロヨナ、タロァ二、ワラワレルゾ(笑)」


「タロァの名前出すのはズルいよレビィ(笑)」


 しかし…恋愛師範T…タツさんは何で私を探しているんだろう?

 ふと、海での修行やら変な全身タイツや浣腸を思い出して、まだ会わなくて良いかなと思った。


 またクリスマスが近付いて来る、今は秋…


 夜道をタンクトップにコート、ローファーに白のニーハイ、ショートパンツのラフな恰好で家路につく。

 月か綺麗で、ついついアンニュイな気分になってしまう。

 

『シアさんはジーパンに白のTシャツだけでも、何着てもキマりますもんねぇ』


 どこぞのカメラマン言われた台詞…つまり何着ても、何をしても一緒だと言われてる気がした。

 

 私は本当にあの日から成長し…


 ふと、後ろから気配がした…足音を殺し近付いてくる。

 私をシアラと知っての事だろうか?それとも偶然?

 

「女、動くな…」「貴方は?それと私を知ってる?」

 即答で答えるとカタカタと震えながら私の背中にナイフ…それを持つ手と声も震えている…


 私を知らない、クリスマスの時の様な化け物ではない一般人…

 私は仕事を始めてから護身術を習っていたし、一時期タツさんに教えてもらった武術がある。


 平常心で…ナイフを持つ手を弾き、顎に掌底、グラついた所をハイキックを入れ転がした。


「いだぁ!?何で!?」


 相手が悪かったと思って頂きたい…というか大人しそうな男性…他に凶器はないか確認し頭を踏む…相手が戦意喪失するまでが闘いと言っていた。


 グリグリ顔を踏んでいると…何をしても良い相手と思ってしまったら…私の抑えていたイラつきが出てしまった…


「許して欲しかったら靴の裏を舐めなさいよ…」


「はぃ!はいっ!!」


 靴を舐める男…私…壊れそう。

 タロァが、欲しかった、タロァだけだった。

 女優やらモデルやらアイドルやら…過去を遡る…私にはいつも…私を見ていない奴らが集まってくる。


 水着までならと言って際どい写真を撮って…ドラッグで意識が朦朧としている時はファンクラブ限定でヌードを撮った…本当に何も覚えて無いけど証拠は残っている。

 そして…接待を名目に行くとこまで行った。


 それでも我慢した、タロァに会う為に。私の意思では無い事だけを証明に…だから心は折れなかった。

 でも、もう遅い…タロァはサラの所に行った。


 イライラする…自分にあった負の感情が湧き上がる…屈辱を与えてやらないと…

 

「貴方みたいな人のせいで…私は…ムカつく…」


 私はやめれば良いのに…イライラが嗜虐的な気持ちに変わりショートパンツを半分脱いでいた。

 もうタロァとは一緒になれないと思うと歯止めが効かなくなる。私は駄目な女だ。


「全部飲んだら警察は勘弁してあげる…分かった!?」


 靴を舐めながらコクコク頷く男…そんな男に私は思いっきり排泄した。


「溢れてるわよ!飲みなさいよ!自分達ばっかり要求してさ!人の気持ちを考えた事あるのかしらっ!?」

 

 強い言葉で罵る程、勢いが増していく…悲しいは、越えた…今は悔しい、ムカつく、何で私ばっかり、羨ましいとか凄いとか、皆煩いんだよ!


 ばしゃびしゃばしゃばしゃ!!


「良いわね!アンタ達はこれで満足出来てさっ!ほらほら!コレが良いんでしょうがっ!?私に感謝しなさ…『ほう、コレが今のシャーか…見事な暗黒面…ネコと同じ堕ち方か』ふあぁッ!?はぉっ!?♥」

 

 ズン!!ビーっ!…ビチャァッ!!


 心臓がとまりかけた…声が…この声は…駄目…直後…私は無防備な下半身にいきなり浣腸をされ、焦り過ぎて出している最中にも関わらずショートパンツを履き、ズボンを濡らしながら男から足をどかした。


「恐ろしい弟子だ、先手必勝浣腸は正解だったな…ファンにピラミッドを建てさせるアイドル、このままだとオレをそのピラミッドにぶち込むつもりか…シア帝十字陵建築を止めねば…な。。。」


 振り返ると案の定、そこには恋愛師範Tがいた。

 何だろう…現場作業員?鳶職の人の格好でツルハシを肩に担ぎ顎を触り思案していた。


「違います…コレは私の…」


 喋っている途中でツルハシの先端を私のアソコに当て宣告した。


『この事はタロァマンに言う』

 

「違うんですっ!この人は悪い人で私は…」


『このクソドSポエマー、この事はタロァマンタロウに言う』


「聞いて下さい!コレはタイミングが…」


『タロァマンマンに言う…あ、ヤベ…本当にクソ弟子ばかりだな…とりあえずまた、今度!』


「ちょっと待って!聞いて下さいっ!ヒィッ!?」


 走り去ってしまった…タロァに言う!?何を!?

 去っていった逆方向から時速30キロぐらいの水色の巨大ムカデが走ってくる!?


『ナオタキュー!♥ナオタキュッ!♥ナナナナオタキュー!♥ナオタキュッ!♥』


 ズゾゾゾゾゾゾゾ…………

 

 謎の呪文を唱えながら、私を一瞥すらせずムカデはタツさんの後を追いかけて行った。

 あの人は何に狙われているのか…

 気付けば寝ていた男は霜がかかり気絶した。

 そして何故か急に冷えて…私は全部漏らし…フラつきながら家に帰った。


「くああああああああ!!!♥タロァああああ!♥!♥!」


 その日の夜は…昔と同じ様にトラウマの百倍何とか浣腸で気が狂いそうになった。


 


 次の日…昨日の痴態をタロァに伝えるのを阻止すべくタツさんを探した…ら、あっさり分かった。

 普通にレビィ経由で家がすぐわかった…


 ちょっと顔が強面の男性…海の時にいたタツさんが苦手な筈の人が玄関に出てきた。


「すいません、タツさんはいらっしゃいますか?」


「え?あぁ…申し訳ありません、タツがなにかしたでしょうか?」


 ペコペコしている。この人達の上下関係はどうなっているんだろう?奥から別の女性の声がした。


「ヒロ兄さんや、亀吉が秋なのに冬眠しねぇ…死んじまうだよぉ…おや?メグミの友達でねぇか?ほら、ヒロ兄さん!シアラだよぉ!芸能人の!」


「ああ!シアラさんか!?タツがご迷惑を!!とりあえず中にいるのでサンドバックでも何でもして下さい…」


 あっさり入れてくれて呆然としているとそれは奥にた。

 スマホに向かって祈祷している…タツさんがいた…







 

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