サラは4に向かい逃げる、逃げた先が大事な人を9るしめると知らず、13テーションは約束の海の底へ19

「それでですね!私の登場の時にタタロ君もドバーっと七色な感じで登場ですよ!まさに先輩も一緒に踊る感じで!」


「それは派手だなぁ…でもあのキャラクター俺に似てないけど?でも、夏休みはもう店に来れなそうだなぁ。9月にはデビューだっけ?それまでに大量のイラストと作曲するんだろ?俺、作曲出来るなんて知らんかったから。無理はするなよ?」


「ご…ごめんなさい…言わなくて…」


「えぇ?いやいや、いきなり謝るなって…」


 8月頭…悪夢と展開が違った。

 悪夢では、まだこの時期は少なからず店に来ていた、そして夏休み明け、9月か10月にポプラとかいうおっさんに呼び出される筈だったのに…既に全く店に来なくなっていた…やり取りもチャットか電話のみ。

 そして…謝るんだよ…サラが。やたらめったら謝る。


「何でそんなに謝るんだよ?俺はサラの先輩!我儘も言えよ?頼れる先輩だぞ!(笑)」

 

 自分に全く合っていない台詞も言ってみたりするが…

 

「そ、そ~ですよね!ごめ、ごめんなさい…」


 なんとな~く、俺はもしかしたら最後のチャンスかも知れないなと思った。

 全部想像だけども…もしかしたら全部知ってんのかもなとか、悪夢をサラも見たのかな?とか…都合の良い様に考えて…俺はやってみる。


「なぁサラ…やっぱり会って一度話したいな。夜でいいからさ、せっかくの夏休みだし。俺本屋で待ってるよ。だから何時でも良い、明日…24時間営業にして一人でいるからさ…来てくれよ…忙しくなる前に1回あって応援したい!どうだ!?」


「え…それは…その…忙しくて…時間が…」


「いや、何時でも良いんだ。時間あけたら来てくれよ、待ってるから…ずっとさ…頼むよ…」


 ちょっと強引だったかな?でも…良いよな…これぐらい…オレの気持ちが強いうちに…

 もし、サラが真実を俺に言うならすべて受け止める。

 もし、サラが逃げたいんだったら…俺を頼ってくれるんだったら…どこまでも逃げてやる…どこまでも…

 鬼頭君は頼れないけど…鬼頭君に紹介されたヒロさんやタ…ツさんはちょっとアレだけど…とにかく助けてもらう…何だってするんだ…


「せ、先輩…」「んじゃ、またな!待ってるからな!」


 無理するなよーと言いながら一方的に通告する俺…メチャクチャだな…そして電話を切って思った、何となく、届かないかも知れないと思った…それでも俺は俺のできる事をやるしかない。

 隣のメグミの部屋に行く、あの人に会いに。


「フッフッフッフッフッ…うおぉあ!?お兄ちゃん!?何急に!?」


 なぜ腕立てをしているのか…そして話があるのは…腕立てしているメグミの上に立つ暗転さん。


「どした?夜這いかい?ワラシとメグミ、どっちかな?ヒヒヒ」


「いや、そういうんじゃなくて…暗転さん、もし俺がサラから助けを求められたら…暗転さんを頼って良いですか?メグミが…妹が信頼してる人なら自分でも信頼出来ると思うから…その為にほ…その…何でもするので…」


「太郎君や、それ以上いうな…メグミ…お兄さんを助けたいかや?」


「なんかよくわからないけど…フッフッフッフッフッ…力になりたいとはいつも思っているよ…たった一人の兄妹だからね!」


 直後に虫が暗転さんに集まる…まるで人型の甲虫のような…怪物がメグミの上に立っていた。

 

「ソウイウ…ギギギ…コトダ…ギギ…ワラジガ…ビロニイザンヲ…オモウ…オナジダ…ギギギ」


「わ、私の上で虫呼ぶのやめてぇっ!」


 知らなければ怖くて気持ち悪いかも知れないけど…少しだけ見える暗転さんの寝不足で隈のある濁った目が、とても優しく見えた。

 


 そして次の日、俺はバイト先に居た…1日…昼にはシアやメグミ、蘭子が来た…そして夜になり…満天の星空の下で…俺はずっと待っていた。

 

 店の明かりが深夜の街に似合わず、まるでコンビニのように道を煌々と照らす。

 オーナーには言ってある、営業してると行政から指導が入るのであくまで俺はこの家に泊まりに来ている事になる。

 

 今は丑三つ時ってやつか?もっと遅いのか。

 良くないとは思うけど…少し道路に出て鬼頭君の吸ってたタバコ、1箱くすねたアメリカっぽいタバコに火を付ける。

 気持ちは落ち着くだろうか?

 少しでもサラの気持ちが分かるのだろうか?

 

 タバコの煙を肺に入れて…吐く…溜息の様に…吐く…よくむせるって言うけど…驚くほど煙は肺に染み込んだ。


「フー…ハァ…やっぱり…か…知ってたけどな…」


 多分…辛いのかな…いや、辛いな。

 身体がおかしいのか気持ちの問題か分からんが…驚くほどタバコが身体に染み込むんだもの。

 これは裏切りじゃなくて…もっと仕方のない事で…

 そして何となく気付いてた…サラは来ない事。

 2本目…3本目…隣の店、バイク屋の入口にある灰皿でタバコを消す…今日は8月半ばにしては涼しいな…

 

 そして新しい1日が始まろうとする寸前…太陽の光の筋が見えた時、俺の中で何かが弾けた。

 

 バイクのエンジンに火を入れる。

 違ったら良い、勘違いならそれで良い、好意が無くても仕方ない。

 でもサラは恩がある。

 絶望から救ってくれた、大恩が。

 

 かっ飛ばす、サラの事務所へ。

 結局…自分勝手、でも俺の勝手。

 誰にも何も言わせないし、関係無い。

 確認?会いに行くだけ、一人で決めて一人でやる、誰かを助けを求める前に俺はやったか?

 助けを乞う前に、やるだけの事はやったか?

 これじゃタツさんの事、笑えないぞ(笑)

 

 事務所に着いたらすぐ気付いた…貸テナントの張り紙…そこに事務所はなく…ガラス越しに後ろを見ると女の人が立っていた…一瞬サラかと思ったけど…すぐに気付いた。別人である事に。


「暗転から聞いてたけど…本当に来たのね…恐らく想像通りよ…もう、結構前から、ここには居ない…足取りを消された…次の会う時が多分…最後のチャンスになると思う…それまでに決断する事ね、心の向きをね…」


 悪夢を見せてくれた人…イクエさん…だっけ?


「他の子と違い逃げ出してばかりの幼い小娘にも…チャンスをあげるわ…そして太郎君、ここまで来たなら…踏ん張りなさい。踏ん張り、耐え、立ち向かう姿に君主が君主の大好物よ?動かしたいなら…耐えなさいな…貴方は君主に捧げる、耐久という名の供物なのだから…」


 虹色のモヤが俺の頭を通過して消えた…と同時に脳内で声がした。姿が現れた…サラが…


―――あへぁ♥アヘェ…♥しゃえんぴいにみょおしえれぇ♥―――


―――お姉ちゃんより有名になって…皆が私を認める…先輩と一緒に…だからもっと昂ぶらなきゃ!何だってやってやる。―――


―――ありぇ?シェンパイもおんにゃじことしりゅのぉ?キモチいいもんにぇ♥―――




「そしてここからね、思い出させてあげたの…人の心をね…結果、立ち向かわず、逃げず、結局耐えられず、壊れた」




―――先輩は私と知ってる皆としているの?何でこんな気分が悪いの?イライラする…自分にも…みんなにも…先輩にも―――


―――私は…私は何をやってるの?先輩は誰とキスしてたの?お姉ちゃんは!?メグミちゃんも何でコソコソ!?何で!?叶わないのに!先輩も!お姉ちゃんも!なんで?なんで!?―――


―――そうですか…結局皆、嘘つきで…誰も信用できないという事ですね…分かりました…貴方の言う通りにします…―――


―本当にこれで良いの?―


――本当にそれで正しいの?――


―――もう…分からない…何もかも…でもぉ…お姉ちゃんがやってた事…先輩が見て…泣いて悲しかったって…それを私もやっていた?…一緒に歩くとか言って…やって…いやだぁ…私はもう―――


―――私がシャカラ?あの人誰だっけ?た、ら?もう良いや、分かんない…それより皆を騙さなきゃ、大きな嘘が、皆の望む嘘、だから沢山騙すの、視覚と聴覚、そして嗅覚から!ねぇ王子様、見てますか?王子様って…なんだっけ…?―――

 


 最後に一瞬見えた頭の中のサラの顔は…張り付いた様な…ピエロのような笑顔…俺にはその下のサラの顔が泣いてるように見えた…


 

 それから必死に探した…9月、10月、11月…どこにも居ない…けどネットではサラの音楽活動が話題に登る…相変わらずどこにいるかは分からない…

 学校は平穏そのものだった。何でサラはいないんだろうなぁ…放っておくしかないとか…もうそんな風に思えない所まで来たんだよ…

 

 12月…とうとうShaka釈華の名前を捨てたサラ…ヨータが見ていたスマホのニュースに出ていた。

『顔出しと同時に改名!今注目のあのアーティストが参戦!』

 ラヴィエル・シャカラ…と大きく書かれ、シアに程近い化粧、シアを明らかに意識しているんだろうけど…何かゴシックな人かギャルみたいな感じになっている。そしてイラストは意味ありげなアートな感じになっていた。

 サラ、お前はもっとタヌキっぽい感じでポやんと…してただろ…お前の描くキャラクターは…そんなスカした感じじゃなくて…もっと小生意気だけど純粋だったろ…


 その画面を見ながらシアが呟く。


「その下の所…獅子川社長が言ってたのってコレかぁ…サラに勝つって言っても…ねぇ…私、勝ち負けで歌を始めた訳じゃないし…」


 その下にインターネット投票による都内の野外フェスにてクリスマスワンマンライブ争奪戦と書いてある。シアが顎の手を当てながら考えている。


「もう大分、悪夢からはズレてるね…個人的にはタロァが不幸にならなければ別に良いけど…タツさんと知り合いの今の事務所の社長に言われたんだよ…サラは、サラの背後にいる人達はコレでサラがワンマンライブをやれば、クリスマスに都心にいる人間にラヴィをバラ撒けると思っている…違う方向に悪い方に向かっているね…」


―――大量の人を集めラヴィで壊す、壊れた人間がその日に他人に感染させる、東京に蔓延し、その人達が地方に帰り、やがて日本全国へ―――


 何か大事になってるけど…シアがワンマンライブの権利を取れば…いや、取らないと大変な事になるんじゃないの?

 そこでヨータを始めて口を開く。


「いやぁでもシアちゃん、普通に俺等と喋っているけどさ…昔みたいにヒットチャートでミリオン、テレビにバンバン出るって感じじゃないけどさ…多分今、誰でも知っている歌手の一人だよ?太郎ってそういうの興味無いかもだけど凄いんだよ?」


「私がその本人だけどヨータ君さ…何が凄いのか何も伝わらないんだけど?」


 ヨータがスマホをポチポチ押して見せてくる。


『何故か脳裏に焼き付いている!?人気絶頂で消えたmiONの再来、歌姫のシア!』

『魂が震える歌声!楽曲は伝説のバンドが提供!原風景が、蘇る!』


 しゅ、しゅごいな…しゅごいのか?


「んんー…本当は人気があろうが無かろうが…太郎に聞いてほしいだけで始めて…私の辛かった時と同じ気持ちの人に届けば良いなぐらいで歌ってるから…正直、大きな所でとか興味無いんだけど…今は毎日が充実してるし」


 シアの話だと…正直なんだそりゃ?って感じだけど…シアの事務所の社長の話ではmiONというアイドル、現在はアラフォーの元アイドルらしいが、その人の生き恥がかなりの人数の深層心理に入っているらしい…?

 それをmiONの再来と銘打ったシアを露出…宣伝する事によってシアとmiONがすり替わる心象改変が起こる筈だと…しかし、逆に皆の心の琴線に触れる結果になったらしい。


 ヨータと二人で見ていると動画サイトでは凄まじい回転数でシアの曲は回っている。

 その隙間にサラの曲も広告として入ってくる。

 どちらが良いんだろう…

 ウ~ン…サラ、何だか、キャッチでポップな曲だけど…何か歌っていうよりかはBGMというか…

 

 俺は歌に関して詳しく無いけど…この勝負について、シアの事務所の社長がインタビューで言った言葉が分かりやすかった。


『歌の世界にジャイアントキリングなんてのは、ほぼ無い。完全に周到な準備と実力勝負。ヤラセなんてさせない。海外勢がどんなに頑張ろうと負けない。我々は強いからね、個人や縦横の繋がりも、ネットにも…そしてシアの実力も。唯一、負けるとすればシアがファンを裏切る事だけど…それはないね。シアはもう揺るがない。しかしまぁ、どちらにせよヴォーカロイドに失礼な程の中途半端に機械で弄り回した声でやたらゴリ押しされてるシャカラには、シアが負ける気はしないね」


 何でサラの事務所の社長がちょっとプロレスっぽいのかは別として…素人目で見てもサラは無理だと思った。

 何かで露出した時に俺はこの機にサラとコンタクトを取ろうと思ったが…何せサラはPV以外では出てこないのだ。


 それにひきかえ…シアはメディアで詩い語る、モデル・女優には向かず、騙され、恋に破れて今の幸せがある事を…赤裸々に。

 そして歌う、ステージで、等身大で。

 しかし…唄声響く、誰にでも、どこまでも。

 余裕や自信ではなく、その詠は芯から発する。

 様々な音で老若男女がシアになる。

 子供達は道端で歌い、大人を揺さぶり、年寄りは涙する。


 サラはメディアのゴリ押しで『この時代の音楽』として、消耗品の様にそれなりに売れていた。


 だがその姉は、その存在を『シアという時代』として、皆の心に残していく。


 将来、彼等彼女等が思い出すのは…そして未来を変えるのはどちらか、誰が見ても明らかだった。

 俺にはわからない姉妹の違い…生き方…



―――大丈夫、私はもう揺るがない。ねぇ…タロァ、タロァや皆のおかげだよ―――




※また注意勧告が出た!今度はあのアイドルが(笑)ウケる!そんなクマシオ作品よろしくお願いします!愛してますよぉ

 

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