12月24日まで、そして始まり。〇〇ルートエンド確定しまた。

 12月…俺の知る、悪夢とは違っていた。

 だからこそ、ここからは考えて…決めていかなければならない。


 インターネットの視聴回数、SNSアカウントでの投票、そしてネットライブ動員数…シアは圧倒的な支持でクリスマスのワンマンライブの権利を手に入れた。

 2位は地下アイドルからコツコツと、地道にファンを増やしていた容姿はそこまででもないがキャリアで言えば10年近い年上、シアと同じ事務所のアイドルだった。

 そのアイドル大きく引き離し、シアは時代の寵児となっていた。


 悪夢のシアと違うのは、シアは望んでそこに立っている事。

 犠牲は要らない、諦めもいらない、自然体でいるからこそ、誰もが認めた。


 サラは4位…世間は言うだろう。

 嫌がらせに近いゴリ押し…テレビのCM、ネットの広告、街の至る所にシャカラの姿。

 アレだけやって…この結果。でも、俺は言いたい…サラの良い所は何も出てない。


 ハッキリと覚えていないが…悪夢の中のサラがシアの為に書いた曲とイラストの方が良かった。

 残念ながら、サラは表に出て力を発揮するタイプではなかったと言わざる得ない。

 そして…シアが前に言っていた事と繋がる。


『日本にドラッグをバラ撒くために、サラは利用され、それにサラ自身も乗っている…』


 暗転さんに聞いた…もしサラが来るなら…サラのバックにいる者は…サラにシアのライブを乗っ取らせ、無理矢理決行するだろうと。


 向こうもシアが守られている事は知っている。

 この2ヶ月、ドラックをバラ撒くような海外のマフィアより危険な人達が関わっている事を知った。

 鬼頭君からは危険だからこれ以上は関わらない方が良い言われた。

 

 それでも俺はサラに会わないといけない。

 気持ちを聞かないといけない。だってサラは…その危険な人達と一緒にいるんだろ…

 同じ学校のストーカーとは違う…それでも…



 二学期の最終日…クラスで話し合った。

 俺、シア、蘭子、ヨータ、メグミ…クリスマスのライブが24日…そして25日に…皆で会おうって約束した。

 鬼頭君も…そしてサラも…皆で会おうって。


 約束は願うものじゃない、叶えるものなんだ

 

―――――――――――――――――――――――――

 


「シア、珍しいな…緊張してる?シアならいつも通りやるだけで大丈夫だよ!多分…」


「ん~ん、大丈夫!それよりタロァも忙しいのに来てくれてありがと!えへへ、申し訳ないけど嬉しい…」


「オトコガイルカラカ?ウケル!シア、ウブオンナ!」


「レビィ!煩い!そんなんじゃない!」


 そしてクリスマスライブ…12月24日、イブの日。

 シアの楽屋に呼ばれていた。開始まで後6時間…

 楽屋にはスタイリスト代わりに来ていた、シアの親友という程、仲の良いレビィさん。

 シアの事務所の社長を含め、一緒に出る2位だったアイドルと事務所の関係者。


 そして…屈強な肉体を持つ男女、風神雷神の様な格好の女性の双子、色んな人が居た。

 シアが緊張していた、だけど歌う事じゃない。

 口には出さないがそれ以外の全てに緊張していた。

 自分が狙われている事…そして、その狙う相手にサラが含まれる事。

 俺は詳しい事を教えられていない。暗転さんに知っていると狙われる可能性があると言われたから。

 だから逆に、何も知らずサラと向き合ってほしいと言われた。

 ついでにメグミ以外は関わりたいと言っても足手まといだから無理とも言われた。


「た、タロァ…そんな難しい顔しないで!私達がやれる事をやろうね!それと…そういえば…今日、タツさんは来ないんですか?こういうの好きじゃないんですか?何か祭りとか好きそうじゃないんですか?」


 シアが緊張をほぐそうと、思い出したかの様に珍獣の様な人の事を社長に聞く。


「タッちゃんとヒロ君はね、騒がしいのは好きじゃないし、基本的にこういうの作戦的なものに参加しない…あの人達は…何だろうね…騒がしいの嫌いなくせに問題ばかり起こすし、人の命令に従うのを嫌うからネ…まぁとにかくボクはヒロ君は怖いから居なくても良いかな…」

 

 その言葉に仲の良さげな若い男性が「駄目っ」と注意した。ヒロさん優しかったけどな、鬼頭君と同じで何で皆怖がるんだろう。


 それに暗転さんもメグミもこの場にいない。

 二人からは余り離れない程度に近くの喫茶店か何かで待機してほしいと言われた。

 サラの場所が分かったら教えるからと。


 何となく分かってる。この場所にいる人達はシアのライブを成功させる為、そしてシアを守るためにいる。


「んじゃ、俺行くわ!シア!楽しんでこいよ!何も無ければ…皆で見に来るからさ!」


「うん!例え来れなくても…タロァに届く様に歌うから!」




 俺はシアに手を振り、シアのライブを招待されている蘭子と鬼頭君が、ライブ開始の夜まで時間を潰している10分程の近くのファーストフード店へバイクで行った。

 蘭子がこっちこっち~と手を振っていた。


「どーだった?シア、緊張してた?(笑)」


「いや、歌うどうこうより何か物騒な雰囲気だったよ…」


「え?ヒロさんいんの?」「いや、いないよ…」


 物騒と聞いた瞬間にあの人の名前を…鬼頭君は相変わらず怖がってるな…途中でヨータが彼女のハルコさんとやってきた。

 「俺達来ちゃって良いの?」とかいいながら、合流し、クリスマスならやっぱり〜と、ポテト摘みながら学校と同じ様にダラダラ喋っていた。


「雪が降るかもって…受験大変なかもね?って大学受験組いないし(笑)」


 ヨーダが手を叩き、笑いながら自虐する。

 何だか学生らしいクリスマス。俺は気付いたら3年になっていて、気付いたら卒業間近で、最後の最後で不思議な経験をしている。

 だけど日常は楽しくて、悪夢で見ていた様な後悔だらけの毎日は無く…今の幸せに図浦姉妹はいないけど…会った事に後悔は無い。

 

 そして俺は、後から考えればこの日まで、ただの学生らしい、最後の日常を楽しんでいたと思う。


 


 メグミから電話が入った。

「もしもし?メグミ?どうした?」


「お、お兄ちゃん…そ、そっちはどう?かな?」


 何だか緊張してるのか、声が震えている。


「こっちは…いつも通りだよ。学校と一緒。シアはちょっと緊張してたけどね。」


「へぇ…シアさんでも緊張するんだ…そっか、そうだよね!学校って事は…蘭子さんとヨータ君がいるの?」


「後、鬼頭君とヨータの彼女のハルコさんもいるよ」


「あ、ヨータ君の彼女…会ってみたいな。皆のところに行って…一緒にシアさんのライブ行きたかったな…」


 少しだけ寂し気なトーンのメグミ…アイツも…


「何時でも来て良いって言ってたし、ヨータの彼女だってまたすぐ会えるよ。明日も来るみたいだし」


「うん…うん!まず私は…友達のサラに言ってやらなきゃ!ガツンとね!…お兄ちゃん…もう…すぐだから…頑張ろうね…」


 メグミの声の後ろから聞こえる…車の音や金属音…


『クソコケシ役立たず!…結局逃し…何だよ海外旅行って!…』『まぁま…落ち着くのですわ…』『だか…ワラシはタツ姐さ…やめとけって…2万人と拠点を無効化した…化け物…』


 何か物騒な事言ってるが…すると緊迫した声でメグミが話す…


「お兄ちゃん…サラは東京アリーナの横のホテルにいる…本当に乗っ取るつもりだよ…私達が今から先行するから後から来てね…絶対皆でまた会おうね!」


「分かった…でもすぐ行くよ。」


 気付けば夕方は過ぎ…冬の早い日没は既にあたりを暗くしていた。

 俺はバイクを飛ばしホテル横の駐車場へ向かう。

 

 

 人間、何かあると思考が止まる…正確には止まるのではなく脳が遅くなる。

 信号待ちで止まっている俺に…明らかに車がこちらに向かって来ている。凄まじい速度で。



 あぁ、きっと何度も世界は変わったのに…これだけは変わらないのな…

 一度目は指を送り裏切られたつもりで復讐した。

 手紙を書いた。シアに俺を殺して貰った…


 二度目はただ曲を聞いた。ケーキを買って妹と幼馴染を祝おう、そして成功した二人を祝福し、優しい手紙を書いた。

 でも車に乗って俺を轢き殺したのはサラだった…


 今回は…クラスメイト…俺をボコったストーカー…また、お前か…


『イヌヤマあああぁぁぉぁぉ!!!!』


 お前…いや、世界はそこまでして俺をクリスマスに殺したいのか?


 サラの時に…車に轢かれて見えた流れ星…やけに近いな…しかしまぁ…車は来ると分かっていても避けられないな。だって頭が遅くなってるだけだから…


 俺…このまま死ぬのかな?…何も知らないまま…何もできやしないまま死ぬのかな?


 悔しい…悔しいな…ライトが目の前まで来た。

 と、同時に流れ星が明らかに俺の横、車との間に落ちた!?


「おい!タロァマン、普通、海外旅行帰りは家に帰って撮った写真を眺めて楽しむのにオレの幼馴染は旅路がどうしたと…お?

『ドオオオオンンッッッ!キキキキキキキーーー!ー!!』


「グォッ!?」「うおおおああッッ!?」


 シアとサラがいる場所で…高級車と…でっかい熊みたいな女の人と…バイクと…そして俺…


 全員まとめて吹っ飛んだ…

 

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