第六寝 サラがシアとは違う方向で困った事と、僕/俺と家族の話

「それ!それと!せ、先輩…お昼まだですよね!?マ○グ!買ってきましたよ!コーラ!スプライト!どっち良いですかッ!?どっちもLっす!」


 口調がおかしな事になってる、緑髪の化粧というかメイク?濃ゆめの女の子、白シャツに安全ピンの付いたピッタリしたレザーのジャケット、ミニの細いチェーンの付いたタータンチェックのプリーツスカート、網目の荒いタイツ、レースアップブーツを履いているが…やたら靴とジャケットが高級品で後は何か安っぽい…ロック?な女の子…


 そんなヘンテコな女の子が俺の働いているワンオペ古本屋にやってきて、謎の宝塚風美男子が描かれた、タイトル『太郎様 LOVE』のイラストを渡してきた…どうやらサラの様だ。


 サラはどうやらお昼を買ってきてくれたらしい。

 しかも炭酸しか選択の無いジュース。明らかに人に買ってくるのに慣れてない。


 何だこの状況?とりあえず…

 イラストをジト目で見ていると、右下の所に『釈華shaka』って書いてある。

 これが言ってたサラのペンネームか…何かファーストフードで買ってきた昼飯をあたふたおずおずしなごら並べてるサラを横目に、店のクソスペックパソコンでペンネームを検索する。

 おぉ!?何か凄いカラフルな色合いの絵が出て来た…個人のホームページかな?

 見ていると漫画じゃなくてグラフィックデザイナーって感じなのかなぁ?

 カートゥーンっていうんだっけ?お洒落だな…

 おぉ…上手いなぁ…凄い凄い…てか、普通に賞取ったり、仕事しとるやんけ…スゲェな図浦家は…才能がほとばしってるわ…


「これ、イラストと全然画風違うじゃない?何でも書けるんだねぇ…サラはすげぇなぁ」


 俺が『すご~い』みたいな、知らないジャンルなので、最低限の驚きと賞賛を贈ると、急に俺の身体とパソコンの隙間に入ってきて、俺の手ごとマウスを掴みタブを閉じた!?


「ウワァッ!?見ろって言った時は見ないのに!今更恥ずかしいから見ないで下さいっ!駄目ですっ!先輩にみら!みら!みられ!あ…ちがっ!?あの!そのっ!あ…」


 俺は鈍感系主人公ではない…そもそもここまで分かりやすい好意に気付かない訳はないが…

 サラがまるで椅子に座る俺の身体の前内側にスポッとハマった体制であたふたしている…懐かしいな…子供の時…よくシアをこんな感じで内側に入れて抱くようにしながら頭撫でたり、ギュ~っ抱きしめたりやってたなぁ…いや、やれって言ったのはシアだけどね?


 サラが…2歳しか違わないのに、余りに小さく幼いもんだから、昔のシアを見ているようで可愛くてついついギュ~っとやってうなじ辺に顔を埋めてしまったー…やってしまったー…

 いやはやなんとも、髪は緑だけど、胸は姉と違い少し控えめだけど…抱き心地が全く同じだった。後、香り…懐かしいなぁ…


「せ、先輩♥抱き!?しめ…匂わ…ない…で♥はずかっはずっ…あっ♥うーっあうーぅ…」


 あ、やべぇ…サラって事忘れて昔のシアのノリでやってしまった…

 サラはマウスを持っている俺の手の上に置いていたが、手の指をブルブル震えながら俺の指と指の間に絡ませてくる。抱きしめている左手からサラの心臓の音が爆音で鳴り響く。


 サラは振り返り、潤んだ目で俺を見るが…ハンバーガーを口にズボっと入れて誤魔化した。

 モグモグこちらを見ながら食べる小動物の様なサラ…ヤバいなぁ…こういう勘違いは一番させてはいけないよな…まぁドキッとしたのは確かだけど…

 

「サラ…ごめんな。こういう事はしちゃいけないよな…すまんかった」


 正直に謝ろう、そう、それが一番。これまでもこれからも。


「ひど…!?謝らないで…下さいよぉ…別にいいですよーだ、私だって知ってますから!姉さんとの事は…この間、蘭子さんとも会って聞きましたし…」


「え?なにを?」


 ちょっとだけ頬を膨らましながら上目遣いでモグモグするサラ…うえぇ?筒抜けになってんのかな?簡単には説明したけど、どこまで知ってんだろ?まぁ良いけどさぁ…恥ずかしいなぁと思いながらジト目で見る…

 

 「ま、まぁそれはまぁ良いとして!せ、先輩!そーいえば!バイク乗ってるんですよね!?乗ってるってことで良いんでスよね!?」


「いや、ノッテナイヨ…」


「嘘つきっ!嘘つきです!昨日、白馬に乗ってたす…白馬の王子…じゃなくてバイクで助けてくれたの先輩ですよねっ!?」


「さぁどうだろう…あぁ、いやまぁそうだよ。白馬ではないが…偶然通りかかったら何か人がいて揉めたから…アレ、サラだったのかぁ…まぁ良かったな、助かって」


「なっ!?♥くあっ♥くぅっ♥しぇんぱひっ!♥正体不明のヒーロー気取り♥ですかっ!?♥正体不明気取り!♥あ、熱いですねっ!♥」


 何かクネクネもじもじしてるけど…大丈夫か?


「正体不明気取りって何だよ…でもアイツどうなったんだろうな…警察来たけど…」


 すると、今度はちょっとムスっとした顔でサラが言った。


「お咎めなしですよっ!姉さんの知り合いで?何か何だか波風立たせたくないからって姉さんと母さんが…妹にちょっかいだした悪者放置って…フンッ!」


 あぁ、そうか。まぁそうだよな。おばさんもシアには期待してたからな…確かもう離婚してて…何かシアのおばさん、スゲェ働いてたっぽいからなぁ…仕事してみて分かるけど、働くって大変だもんな。波風立てたくないのも分かるわ…でも娘二人とも仕事してんだもんな…稼いでるなぁ…


「それよりバイクっ!バイク見してください!エンジンかけてみてください!」


 まぁ、そんなこんなでバイクもバレてしまい毎日毎日乗せろ乗せろ言いながらやって来るサラ…そして仕事帰りに蘭子とちょっと話して、夜中に帰って家で寝る。

 その繰り返し。クリスマスも大晦日も…俺には関係無いから仕事仕事…そして仕事中にやって来るサラ。

 クリスマスはサンタのコスプレ、大晦日の昼はカップのお汁粉持ってきて…ちょっと違くねって思いながら、何だかんだで楽しんだ。





 そんな冬休みが過ぎ年末、大晦日の夜。

 久しぶりに夕方過ぎに家に帰った。妹のメグミ、そしてミヤコ義母さんと家族3人で過すつもりだ。


 今、家に居るのは…父さんの仕事場の同僚で再婚相手のミヤコお義母さん、その連れ子だったミヤコさんの娘のメグミ、そして血の繋がって無い俺。


 たまに義母さんが「何か食べる?」とか「紅白は変な人が出るわねぇ」とか当たり障りない事を独り言のように言って、俺が「そうだねぇ」「知らない人ばっかりだ」とか何の内容も無い返事をする。

 メグミは誰かが話すと、漫画を見ながらその方向をチラッと見るだけ。

 俺がメグミに「今読んでるの、一巻からある?」と聞けば「部屋にある、読むんだったら廊下に出しとく」とか、受験の事を聞けば「まぁボチボチ」とかドライな返事が返ってくる。


 分かりやすく思春期の女の子がいる家って感じ…

 しかし、これでも家族っぽい感じになった方なんだよな。



 この家、一軒家は両親が買ったマイホーム。

 昔、俺を産んで少しして家出したらしい、父さんの葬式まで顔も見たことなかった母さんと…俺を中学2年生まで育ててくれた父さんが買った家だ。

 その父さんは俺が小学5年の時に再婚し、中学2年の時に亡くなった。


 父さんは病気、心臓発作で突然亡くなった…亡くなるまではまだ、4人で出掛けたり今より家族が成立していた。メグミとも多少は話してたしな。


 しかし、父さんを失う同時に全員が家族の距離感を失った。

 

 そして父さんが亡くなってすぐの、親族同士の会話…義母さんが旧姓に戻すかどうか?葬儀に来た実の母が俺を引き取ると言い出す。保険でローンご完済されたこの家はどうする?遺産相続は?…

 とにかく…ただイライラした。

 

 そんな時、お通夜からお葬式までの間、大人の話が嫌になって飛び出した…そして、思い出の場所に行って…動物園に行けば絶対に…そこで同じ話をして笑う…父との思い出の場所…そしてシアもいた場所…しかし、そこに何も無くなっていた事を知り絶望した。


 そんな俺が、家族の決裂を作ったのは葬式での馬鹿な発言…


「僕はもう何も要らないから。だから高校に入ったらこの家と出るし、顔もよく分からない人の所にも行かない。高校は働きながら行くし迷惑かけないよ、この家も要らないから、皆好きなようにして。保護者は多方面のおじさんにお願いするから…僕は独りで良い、誰のところにも行かない」

 

 驚く事にそんな事を言った俺、そして現状を変えようとする周りに、義母さんは過剰に怒り、そして俺に言い続けた。


「私達は3人で犬山家です!何も変えません何も変わりません!構わないで下さいっ!」

 

「血が繋がってなくても太郎と恵は私の家族だと思ってる!あの人と、私達は家族なの!皆愛しているの!それだけは信じて…だから…関係無いなんて言わないで!…」


 その後も俺やメグミに、泣きながら声に出して言い続けた。


 そんなこんなで家から出る機会を失った…

 その後、俺が中3の時か…メグミが中1で最早揉める気配しかない。


 メグミは父さんの手前、仕方なく俺をお兄ちゃんと呼んでいたし、話をしていたようだ。

 元々きっかけがあれば…まぁ反抗期もあったんだろうし…葬式での発言と、そして受験の時に疲れていて、たかだか『テレビの音がうるさい』と言っただけ…まぁきっかけだったんだろうな。

 義母さんが俺に過剰に構うのも含め、とうとうメグミの言葉に悪感情が溢れ出た。


「うるさいな…何でアンタばっかり…私、アンタの事お兄ちゃんとか思ってないから…もう話しかけないで…母さんもいい加減にして…コイツに媚びるのウザい」


 冷たい声でハッキリとした拒絶だった。

 今考えれば俺もやめれば良いのに売り言葉に買い言葉…


「あぁそう、好きにすれば。それわざわざ言う事?別に元から話すことは無いし…お前とは他人だしね。後、ミヤコさんは関係無いだろ」


 何て言っちゃったからもう大変!

 言い訳させて欲しい…俺、受験生だったんだよ?ちょっとぐらいナーバスになっても良くない!?

 それから妹とは俺が謝るまで冷戦状態…勿論会話なんて無い。


 まぁ妹とは劇的なドラマもなければ、事件が起きて分かり易い和解も無い。

 この家族が普通っぽい感じになるまで、俺は何をやったか?


 簡単な話、俺が現実を知って反抗的な態度を拗らせていた自分を変えただけ…所詮、俺一人では生きていけない事…蘭子や蘭子の家族が教えてくれた現実…そして高校でシアにまた出会えた事…

 

 蘭子とシアと同じ高校なった、そこに通いたかった…入る前は面倒臭くなったら辞めて夜間でも通信でもと思っていたから…辞めたくないと思ったら急に不安になった。

 自分のやっていた事に後悔した。義母の愛情、義妹の葛藤、全部無視して自分の事ばっかりだったんだよ、後悔して…気付いた直後に2人に謝ったんだよなぁ。


 蘭子の両親と俺は仲が良い…正直、父さんには悪いけど義母さんとメグミより信頼している。

 そんな蘭子の親が、俺一人にいくらかかっているのか、これからいくらかかるのか、そのかけた費用がどれだけ影響があるのか教えてくれた。

 また、その金額は中卒のフリーターが簡単に稼げる金額と時間では無い事を知った。

 蘭子は言った。


「若い時の苦労やら後悔って言うけどさ…意固地になって取り返しがつかなくなる事が一番の良くないと思う。頑固になるのは大人なってからでも遅くないと思うよ?」


 高校で俺と付き合ってるのに他の男としていたのはどうなんだと思ったが…まぁそれは良いや。


 まだ反抗期の香りが少し残っていたけど…大好きだった父を亡くし、俺の事が忘れられ無かった実母が俺の感情・愛情を手に入れられず、もう会えないと思っていた大切な思い出、シアに会えた。


 もう失ってはいけない、何回取り返しがつかなくなった?

 自分の数少ない、知る限り持ちうる限りの善意の種は捨ててはいけない。

 自分は恵まれた環境なんだ、だから変に人の心を揺さぶり、邪魔をしてはいけない


 だから謝った…お義母さんは謝らないでと泣いた。


 メグミには「キモい」とか「ウザい」「今更何言ってんの?」とか散々言われた…それでも謝り続けた…土下座した。しつこく、ひつこく、繰返した。


「もう良いから!分かったから!私も言い過ぎたっ!悪かった!ゴメンっ!これで良いんでしょっ!?」


 無理矢理言質を取ってからは、話しかけるとドライながら返事をするようになった。


 あぁ、認めるよ…認めよう…俺は1人じゃ何も出来やしない。人に助けられないと何も出来やしない。俺如きに出来ることはしてやりたい、どうせしてやれる事なんて限られているのだから。

 せめて…皆が遠くに離れていくまで…羽ばたく日まで…今だけ…

 善意を受けても良い事にしよう

 悪意を避けても良い事にしよう


 心が繋がっていればそれだけで良しとしよう。


【僕はとても恵まれた環境だ、もう十分たすけてもらっている、だからこれ以上は望んではいけない。】

 

 そう思ったら…全てが上手く回った様な気がした…シアの事が好きになってしまった…その時までは…


 サラはシアに似ている…様で似ていない。

 勿論、シアの代わりにしようなんて思わないけど…シアを忘れてしまうような気がして怖い。

 心の繋がりを大事に今まで生きてきた…その自分が繋がりを断ち切る様な事を…サラといるとしてしまいそうで怖い…


 

 悶々と長い事、そんなこと考えているとメグミが珍しく話しかけてきた。


「そういえばさ…受験…一応、滑り止めは一緒の高校だから…」


「そうかぁ…もし入ったら1年だけどよろしくな」


 そんな会話をとても悪い嬉しそうに聞く義母さん。

 相変わらずお兄ちゃんとも兄貴とも名前も呼ばないが、半端スキンシップなメグミ。

 あぁ良いとも…素敵なお兄ちゃんをしてやろう。


 残念ながら色々あって陰キャボッチどころかハブられてるけどな!隣の幼馴染とあわせて2人ともな(笑)


 そんな事を考えながら年を越していた。

 


※更新遅い割に内容がうすす…ツッコミお待ちしております

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