第五寝 蘭子が毎日いてサラが休みには毎日来てシアが遠くにいる毎日が変化する

 その後、サラは高校2年の夏休みが終わるまで毎日来た。

 聞けば中学3年、今年は高校受験だ。


 こちらには親しい友人もおらず、九州にいたかったそうだが、離島の為遠くにしか高校が無い。

 また、今となってはシアの影響で、完全に家を出て一人暮らしをする気が無ければ、母親とシアのいる神奈川しか選択肢が無いそうだ。

 

 昔から地味で勉強ばかりのイメージ通り、それなりに賢いらしく、上から数えて2番目の公立高校に受験するらしい。

 その為、夏休みと冬休みを使ってこちらに来ているらしい。

 サラが言うには『私立に入ったらお金かかるし、勉強はどこでも出来るし、何より頭が良い公立だと校則が緩い所が良い』との事。


「太郎先輩の学校は校則緩いですか?だったらそっち行っちゃおうかなぁ…でも1年間だけの為になぁ…」


 そんな事で高校を決めるなよ…頭が良い人は考えている事が違うのなぁ。




 シアと距離をとり、夏休みが終わり、秋頃には蘭子が揉めて?いや、仲間外れになって…

 そして冬が来て…クリスマスが近付いた頃…


 昼休み、クラスでぼんやりしながら蘭子を見る…蘭子はすっかり静かになった。

 周りからは未だに付き合っている様な話になっている。

 何故ならクラスが一緒で二人ともお互いしか友達がいないからね。

 しかし大人しくなった蘭子、最近は本を読み、勉強も真面目にしている。

 『何か用?』って感じて俺を見返してきた。


「しかしまぁ、クリスマス近いね。散々やってた男遊びはもういいんかね?俺の言う台詞じゃないかもしれんけど」


「太郎ってここ何ヶ月かで急に口悪くなったよね…先輩の影響か、それとも元からなのかな?…まぁ男の人を学ぶのはもう十分。男の次の勉強は学業だよ」


「次の勉強は学業って、それ、普通じゃないの?俺と付き合ってる時も、それすれば良かったじゃない?普通に勉強するの…」


「だったらまた付き合う?私は大歓迎だよ?今なら独占出来ますよ?お得ですよ?知らない世界、見せちゃうよ?」


「いや、大丈夫。俺は普通の青春を謳歌するのだよ」


 青春なんて高校2年で人間関係に躓いた奴が、そんなの今更出来る訳無いのにな。

 しかし、人間変わるもんだなぁと思った。

 蘭子、喋り方も考え方も変わったな…と、思ったが口にしない。俺もだから変にツッコまれるのも嫌だ。


 ちなみにどうせ、付き合い直しても今と変わらないしな…デートなんて街ブラ、家が隣で殆どどちらかの家でダラダラ、お互いが好き勝手にやるだけ。

 付き合っていない今と一緒、だから付き合いのやり直しはしない。


 蘭子曰く「いつか私の所が一番落ち着くってなる筈だけどね。それで戻ってきたら私の勝ち」とか言われた。

 正直、平穏という意味ではそうかも知れない。

 けど、俺はまだ高校生。まだ枯れたくないし、ちょっと違うんだよなぁ。


 ふとした瞬間、こちらを何かが見ている様な気がした。見ているんじゃなくて沢山の人の塊が動いていた…だけだった。


 そう…アレは、シアの塊、一杯の虫に囲まれたシアだ。虫共の一部がこちらを睨んでる。

 睨み返しはしないが、関わるなという空気を出しといた。


 シアは夏休み中に陸上で結果を出し、今はグラビアやファッションモデルとして活動しているようだった。

 駅に置いてあるのフリーペーパーの表紙になっていた。テレビで飯食ってたらニュースでファッションショーの様子が流れていて、そこにシアがいた。

 薄々気付いてはいたが想像以上の速さで有名人になるので少し驚いた。

 学校にも、あまり来ないらしいので来ると大名行列が出来る。関わりたい奴が沢山のいるようだ。

 釣り合わないとかの話じゃない。別世界の人間になってしまった。 


 うちの高校では開校以来、初めての陸上高校記録更新&人気モデル?…そんな…評判のシアを、周り、特に学校が手放す訳がない。

 もはや、ほぼ学校行かなくても退学にならないそうだ。

 陸上の時はモデルと並行して出来ないから辞めると学校に説明した結果、そのような事になったそうだが多分嘘だろ。

 陸上を速攻辞めたのも面倒臭いのが苦手だとかそういう理由だと思うけどな。


 なんて心配している俺は、シアの事がまだ好き…だと思う。まぁでも、ファンみたいなものか。

 遠くに行ったけど、嫉妬も恨んでもいない。

 尊敬し、同情する。あんなに人に囲まれて、期待されて、好き勝手に言われて…望んだわけでも無いのに、今がある。俺だったら気が狂うだろうな。

 でも、もしかしたら…もうシアはそれが当たり前のに行ったのかな?

 

「はぁ…またまたじっと見て…まだ好きなの?いや、そういうのじゃないと思うなぁ…本当に心配症というか…もう忘れれば良いじゃん…」


「どうなんだろうね、ただ…相変わらず周りにたかる羽虫共にはイライラするよ…けどさ、そんぐらい良いだろ?アイツらから因縁付けてきてんだから」


 違うクラスだから前は気付かなかった。

 シアの塊には蘭子をハメた奴ら、俺を気に食わない連中、そんな奴らも周りを飛ぶ羽虫に入っている。

 シアは昔、そんな事にも気をやんでた事を知った。それがシアと離れてからあからさまになった。

 多分、シアが止めていたんだろう。

 昔のような、子供の時の様な3人の空気を維持するのに…本当は動物の様な、本能丸出しのシアが普通のフリをして、頭を使って邪魔されないようにするのにどれだけ努力しただろう。

 最後の辺りの俺への嫌がらせは、止めるのも限界だったんだなと思った。

 そんなシアを…嫉妬したり憎む事なんか出来る訳無いんだよ。


 そして高校2年の冬休み、ちょっとした事件が起きた。

 相変わらず大型連休になるとサラが来る。

 

「最近、姉のせいで家の周りにストーカーみたいなのがいるんですよ…たまったもんじゃないですよ!」


 サラは受験もあるからちょっとナーバスになってるのかな?冬休みは愚痴が多い。それにしてもストーカーかぁ…大変だなぁ…


「そうなんすかお客さん…でも警察巡回してんでしょ?だったら安心じゃん?」


「いや、どうやら姉のクラスメイトみたいなんですよ…姉に学校の用事があるからとか言ってんじゃないですか?2人で会いたいじゃないですかぁ…だから警察も判断がつかないみたいで…だ、か、ら、家まで送ってくださいよぉ!」


 何でそうなるんだよ、シアに会うのも意図的に避けてるのに、シアのクラスメイトに会うなんて嫌なんだが…ちなみにサラには簡単に事情は説明した。 

 姉と仲良かった幼馴染が極端に疎遠になってたら不思議に思うだろうし。


「嫌がる先輩に朗報!何となく事情を察した私の提案!まず姉は殆ど帰ってきません!仕事やら何やってんのか知りませんが帰ってきても夜遅くです!続いて冬なのでマフラーして!帽子かぶれば!バッチリです!」


「サラさん?それだけ?そっちの方が不審者じゃないっすかね?」


 ただ、今日は普通にオーナーさんに売上を渡しに行く日なので明日からだったらと言って逃げた。

 しょうがないよなぁ…まぁ家近くだしな。


 大体5分〜10分ぐらいで売上を渡す作業は終わり、歩いて30分程度の帰り道の筈なので一応見とくかと思いバイクでサラの家、現在のシアの家か…に向かった。

 ちなみにバイクに乗ってる事は言ってない。

 言ったら乗せろってうるさそうだし、二人乗りは1年経ってからだからね。

 それにほぼシングルのシートだから乗れないけどね。


 なんか揉み合っている2人の影…うわぁいきなりビンゴかよ…俺喧嘩とか、した事無いですよ…


「ね、良いじゃん。ちょっとモデルになってくれるだけでいいからさ、お願い…お姉さんもしてたんだし…」


 あれが件のクラスメイトか?お姉さんもしてたって事は多分…うーん…クラスメイトかな?


「やめ、やめてくだ…おねがいです…だからっ!しないってっ!嫌だって言ってるじゃないですかっ

!」


 何かをとても嫌がっている…助けたほうがいいんだろなぁ。あれで同意の上なら人間不信になるわ。


 俺は決めたくない覚悟を決める。

 よし!男を轢き逃げしよう!いやいや、駄目だな。

 うーんうーん、こういう時、サッと動ける主人公は凄いな…とりあえず見た感じ俺よりガタイが良いしバイクから降りたら負けだな…腰抜けと笑え。

 マフラーを改造しといて良かった…目立つから巡回している警察来るだろ…

 

 俺は全力でアクセルを吹かす。

 シングルエンジンから2本出しにした、音がやたらデカいマシンガンマフラーという形のマフラーからパンパン音を出す。

 

 発進し始めたらクラッチを入れずに、左足だけでギヤを蹴り上げながら声のする方へ走り左手に持った木の枝(太め)で男の尻を叩きながら通り過ぎた。


「イッテェ!な、な、何だよお前!」


 うぁぁ…顔見えちった。シアのクラスメイト、取り巻きの気持ち悪い奴の一人じゃん…ラクビーやってる写真が趣味とかいう…シアも撮らせたんかなぁ…まぁ良いや。


 とりあえずラグビー部…降りて喧嘩になったら俺死ぬなって思いながら、Uターンしてライトをロウからハイに変えて思いっきり顔に光を当て目潰し、そこから一速でアクセル全開で握っていたクラッチをパンッと離す。


ギャリギャリギャリギャギャギャギャパパパパッッ


 光、地面を削る音、マフラーの炸裂音、動物好きの俺の取った方法。

 それは光と音で威嚇する!笑いたければ笑え、喧嘩は弱い(笑)

 

 そして目の前まで全力疾走しドリフトオオォォォッッ!


ギャリギャリギャリイィィィィィッッ!!


「お前、人の女に、なに手ぇを出してんの?」


 尻餅をつく2人、サラに【行けっ!】と手で合図する…俺の顔をガン見してるし多分サラにはバレた。でも目の前のM字開脚してるラグビーにはバレたくない…


 サラが走った…よし、ミッション完了と思ったら後ろから声が…


「そこのバイク!お前等何やってんだ!」

 

 一難去ってまた一難、警察は勘弁デス(泣)

 とりあえず全力で逃げる、だって嫌がらせされてたサラはいない、俺と脅した奴だけ残ったら間違いなく俺だけ悪い。

 こういう時、誰が誰を信用するかだけはここ何年かで学んだ。


 逃げ走ってるとサラが家に入ろうとしていた。

 こっちを見て「先輩っ!ねぇっ!先輩でしょっ!?」と言っているが無視して走り抜けた、俺は先輩ではない、他人です。

 名前とかはマジで呼ばないで、クラスメイトや警察にばれるから。


 サラは空気をよんでくれたのか、それ以上何も叫ばなかった。





「と、言う事があったとさ…スマン」


 隣の家の蘭子の部屋に逃げ込んだ。最悪、俺は現場に居なかったで通す。

 蘭子には少し前から一緒に居た事にしてもらう、そしてバイクはタンクの色とハンドルを変える。

 バレない努力は怠らない!


「太郎っていつの間にそんなヴァイオレンス路線になったの?私より酷いじゃん…ヤンキー?」


 NTRれまくる路線と一緒にしないで頂きたい。蘭子よりマシだと言おうとしたが、匿って貰ってる上ちょっと迷惑かけるかも知れないから微笑むだけにした。


「何それぇ…んで話の続きだけどさ、それ、サラちゃん、太郎って気付いてるっぽいんでしょ?中学生3年の思春期真っ只中!懐いてる先輩!バイクで颯爽と登場して『俺の女に!』もうビンビンでしょ?多分、今頃何度もイッてるよ、シアの妹でしょ?タロァ♥タロァ♥って(笑)面倒臭いなぁライバルは少ない方が良いんだけどなぁ」


 げ、下品…まぁ演出だったら最高の演出だな、本人の俺は慣れないことをやって心臓バクバクでそれどころじゃないし、正直サラに恋愛感情は無い、やっぱり子供に見えてしまう。それに…

 

「タロァ…か…懐かしいな…そんな呼び方してたな…」


 今、考えると付き合ってもいないのに距離を取ろうとしたあの日まで、付き合ったら…いや付き合わなくてもこれ以上心の距離が縮めば…心が離れた時に気が狂うから逃げたんだよなぁ。

 離れてから分かる…何て…弱っちぃ男だろうか…

 シンミリしていると蘭子にツっこまれる。


「でもまぁ普通に考えてさ…社会人ならともかく、高校生でアイドルやら有名人と付き合うのは無理よね、絶対NTR起こるよ。会えないし格差凄いし、無理だよ無理無理、良かったんだよ、早めに動いて」


 ちょっとしんみりしていたのに水を差された…まぁでも俺が落ち込まない様にしてくれたんだろう…これが蘭子何だよなぁ…付き合ったらもう老後みたいじゃん…




 次の日のバイト、いつも通りボサーっとしてたら、ボサボサロングからショートカットになった、髪を緑色にして眼鏡を取りちょっとやり過ぎなロックテイストの格好の女の子…サラが、おずおずしながらスケッチブックを片手に入ってきた。


「先輩…コレ…あの、その、ですね昨日は…その…あのですね…うぅ…くう…あ、あの…」


 スケッチブックを渡される。

 『太郎様 LOVE』と書かれた、きらびやかな効果の入った謎の美青年(宝塚風)の絵が書いてあった。


「いや、意味がわからないんだが…」

 この好意を表現する技法は聞いたことない…






※いつものように脱線してしまた(土下座)書き変えるかもしれません。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る