堕ちてなお、生きる。気付けば彼女の為に

気付けば変わった幼馴染の居ない毎日の俺、勝手にざまぁが発生する蘭子、巨大になるほど有名になったシアとその妹

 久しぶりに街に出た…高校3年が始まる少し前の頃、用事があって街へ出て来た…そして目につくその、姿。

 首都圏だけども田舎から出た俺が、中規模の駅ビルから下がる巨大なポスターを見ている。

 その10メートル以上の巨人を見上げる。


 一枚はヒラヒラと風を纏い、ワンピースの裾が自由に広げながらブロンドを自然に泳がせ踊るピクシー。

 もう一枚はハードだが斬新なレザーのジャケットとパンツ、10ホールのブーツを履き、サイドの髪を三つ編みにしてに攻撃的な態度のロックスター。


 どちらも同じ人物だが僕の知ってる顔ではない。

 こんなに目はキツくないし、カリスマ的な雰囲気はなかった。


 僕の知ってる彼女は、汚ねぇTシャツ着て、顔や身体に青アザを作り、爆笑しながら泥まみれで走る女の子だった。だから…この人は違う人。

 そして今、俺は顔に青アザを作り、知らない巨人の女を見ている。


 皆が写真を撮っている…皆が憧れる。

 その辺は昔から変わらないな。

 だけども、俺も向こうも…お互い知らない人になった。

 二重人格とかじゃない、ただ…遠く高く飛んだだけ、たったの半年…距離の空いてる間にお互い変わっただけ。


 【自由に生きているか?心は鳴っているか?】


 大きなポスターキャッチコピーを見ながら、俺は切れた口の痛みに顔を歪ませながら独りごちる。


「ハハハ、そんな高いところから見る景色はどんなだい?俺は…自由を生きてるよ…」


 隣の、黒髪で同じ程度の身長の、巨人化したシアとはかけ離れた雰囲気の、陰気な目元まで前髪で隠した瓶底眼鏡女が俺に問う。


「まだ…姉の事が忘れられませんか?向こうは多分、忘れてますよ?何も考えてませんから」


 この子も…今となっては外見もシアに似てるんだけどなぁ


「忘れられる訳無いよ…親友で、幼馴染で、好きだった人だからね。俺にはそんぐらいしかないから」


 だから一人で、結構。もう悔しい思いは沢山だ。




 高校2年は終わり…春休み明けの最初の休日。

 蘭子とシアとの関係が希薄になって、夏休みから冬休み、春休みまで、何かあったようで何も無かった。

 幼馴染と愉快であり、それでいて作られた様な毎日が無くなってから、季節毎のイベントも関心が無くなった。その事で心が動く事はない。


 今の俺は俺は自分の好きな事だけする。

 一人でフラフラ、バイクでふらふら、他にはバイト。

 気付けば家族とも関係が薄くなった。

 元から血の繋がってない思春期の妹、会話なんて無い。

 その事で気を遣う母、でもこの距離感が正常なんだ。

 別に妹も母も嫌いな訳でも喧嘩している訳でもない。

 ただ…独りを選べば自然に周りとの関係が薄くなっていった。

 

 あの後、高校2年の夏休み中にバイクの合宿に行った。これには理由がある。

 正直一ミリも関わりたくなかったが、何故か蘭子のNTR相手のヤンキーの先輩…鬼頭先輩に気に入られた。情けないとか言ってた癖に。

 読み方は一緒でも亀頭ではない、鬼頭だ。

 シアの時に俺への嫌がらせを止めてくれた人だ。


 何やらその先輩がバイクを譲ってやると言うが、最初は「要らねっす。だから関わらないて下さい」と正直に言った。

 しかし3万で整備して渡すからとしつこい…疑心暗鬼になっていたが、ネットで中古価格を見たら、10倍の30万ぐらいしたのでビックリした。


「先輩後輩ってのはこういう時に良いだろ?」


 正直借りを作るみたいで、後からなんか言われる気がして嫌だった。

 そして今度はバイトを紹介してやると。

 どんな犯罪の片棒担がせるかと思いきや、普通に古本屋だった。隣にバイク専門のタイヤ店があり、そこが先輩の家だった。


 「この古本屋、店主してたばあちゃんが死んでよ。1年ぐらい色々整理するのに大変らしいし常連がいるんだよ…そこのおばさんに頼まれてな。だからお前頼むわ!平日は夕方から夜のみ開店、土日昼ありで!好きな時に休みにして良い!最低時給切るけどな(笑)まぁバイクで困ったら隣のウチに来いよ、整備道具は貸してやるから。何でも自分でできる方が良いだろ?」


 そこで月4万程の稼ぎで2万づつ返済という約束で免許代も貸してくれた。


 結局、俺は何だかんだでバイクに惹かれた。

 理由は簡単、バイクに乗っている時は1人になれるから。

 そして…その単気筒エンジン400ccの日本産のアメリカンバイク、名前が日本語訳で「野生」であった事。死んだ父さんと同じ歳だった事。

 結局、過去の思い出に縛られてるのな…俺は。


 夏休み…一年の時はシアと蘭子と交互に遊んでいたな。 蘭子の家にはダラダラしに行き、シアとは山に登ったり望遠鏡持って星を見に行ったりしたな。

 小学生の延長線、中学も続き、高校も一年までは何処かで何かに期待していた。

 失うモノ、失っていくモノを認めたくなかった。

 だけどさ、手放すと見えて来るんだ。

 本当はすでに多くを失っていた事を。



 蘭子とは2年の夏休みには殆ど合わず、夏休みが終わっても何故か俺と付き合ったままの設定になっていた。


 そして蘭子は奔放とフワフワのツケが来る。

 冬前に誰かの彼氏が俺から蘭子をNTRしたと聞いた、いつもの事なのでそうなのかと、普通に流していたが…

 どうやらその、俺にとっては間男、蘭子と浮気した男の彼女が、別のクラスカースト上位の女だった。そして…よほど惚れ込んでいたらしい…男にも問題があるんじゃないかな?と思ったが、女はとにかく蘭子憎しで噂を流し嫌がらせをする、部活経由だか知らないが俺達のクラスのクラスメイトにもすぐ影響した。


 後、なんか知らんが俺も悪い事になった。

 その時には俺は鬼頭先輩と繋がりがあったりバイクで走り回っていた為、無視はされたがイジメの対象にはならなかったが…


 蘭子は明らかにグループから外され上履きを来客用スリッパにすり替えられる、出てきた上履きに『GUCCI』と同じ字体で『BITCH』と書かれていた時はちょっと笑いそうになったけど、蘭子が横にいたので我慢した。

 蘭子は分かりやすく陰キャボッチになり、友達も去っていった。


 更に俺には手を出せないせいか、何故か俺も蘭子に怒っている事になり、俺を理由に蘭子イジメがより派手になった。

 最早、イジメの内容もまともな学生生活が出来ないレベルまで行った。

 辞めるか、なにか手を打つか…


 寝取られたクラスメイトや友人の復讐…

 悪意の嫌がらせではなく善意の要素が入って来るだけで…人は何処までも残酷になれるんだなぁと思った。

 

 俺には小学生時代の友達が別クラスにいるが、そこまで親しい訳では無いので俺になんかあっても影響はないと思う。何をするにも誰にも迷惑をかけたくないからなぁ… 一応、蘭子に確認した。


「蘭子…余計な事だと思うならいってくれ…まだ学校辞める気無いだろ?蘭子が俺にしたような事を多分するけど、クラスでまだ仲良くしたいやついるか?」


「別にいないよ。それに…太郎が仲良くしてくれないなら意味がないよ、このまま太郎まで冷たいなら辞める…」


「何で俺の話になるんだよ…最近ちょっと忙しかっただけじゃん…とりあえず分かったよ…」

 

 まぁ、そんなこんなでクラスに人が居るときにわざと大きめの声で言った。


「なぁ蘭子!鬼頭先輩がお前の事心配してたぞ?何かクラスであるのかって言ってたぞ!?」


 クラスがザワつく…この一言、これだけで収まる。

 悲しいかな、スクールカーストとやらは所詮クラスでの話、学校での話。

 シアという傑物の隣にいて、見えてしまった。

 才能かコネか権力か、どれかを背負うだけで…どんなに馬鹿でもクズでも上位に行ける、シアの足元にも何匹か居た虫だ。 

 勿論、俺もその虫も、バックが無くなればそれ相応の報いを受けるのだろうが…


 ちなみに鬼頭先輩は、はぐれヤンキーだった。

 ただ、チンピラみたいな感じでもないし正義の味方でもない。本人曰くただのコミュ障らしい。


「恥ずかしい話、同年代とは話せないな…喧嘩になるんだよ…後輩のお前や蘭子だからドヤ顔で話せるけどな…」

 

 確かに鬼頭先輩は偉そうだ、ただ俺がはぐれってまた経験値多そうですねとか馬鹿にしても怒らない…コミュ症だからというが、あいてが警戒してたら威嚇する、相手が怒ったりすると自分も怒ってしまうそうだ…腕っぷしだけは強かったのが逆に問題だった。子供か?


 そんな中、やましい感情や、悪感情無しで喋りかけてきたのが蘭子だったそうだ…蘭子曰く、普通に話せば良い人だったそうだ…当時俺と付き合っていたが…NTRっていうか、蘭子…お前からガッツリ行っとるやんけ…と、ツッコミそうになったが耐えた、もう付き合ってないからね。てか、鬼頭先輩とそのまま付き合えば良いじゃん、蘭子…まぁ良いや…


 とにかく冬頃にはヤンキー扱いの俺、陰キャボッチの蘭子が出来上がり、既にクラスから居ない存在だ。




 そしてシア…俺が免許の合宿行ってる時やバイト中に、何度か家に来たらしい。

 ただ、夏休みの半ばから自分の家に寄り付かなくなっていた俺は、その話を夏休みの終わり頃、母親から聞いた。

 聞いたところで俺からはシアの家には行かない。何故なら…


 気付けば夏休み中にシアは、色んな意味でほぼ別人になっていたから。

 陸上、夏のインターハイで、個人競技の女子100メートルで高校記録を出すという輝かしい成績を残した。

 夏休みの半ばでインターハイが終わった後は、そのまま母親の知り合いのモデル事務所に入る約束だったようで…陸上で結果を出してからのデビューだ、そりゃもう一気に雑誌、ネット、テレビ、イベント、何にでもシアは出てきた。


 その中で自分の約束毎、というか自分の決め事。

 外から見た時の影響。シアが変わってなければ、裸になるとかウンコ投げるとか完全に事故だ。

 ここまで有名になるとは思ってなかったが、大事になっても俺だけなら良い。

 ただ、シアに迷惑がかかる。シアの友達にも、ウチの家族にもシアの家族にも迷惑がかかる。

 だから自分からは会えない。


 それでも…俺はこれから先、成人式までに3回か、偶然シアと会う…そして、そんな心配は杞憂に終わる。

 どれもが気持ちはすれ違い、感情はずれ、距離だけが遠のいた。

 シアの成長を目の当たりにするだけだ。



 それに近所の幼馴染と言っても過去の話、高校で戻ってきたシアの家は少し離れているし、何やら同級生からのストーカー騒ぎがあったようで警察がいるんだな、つまり近づけないんだよね、そもそもさ。


 そうそう、そのストーカー騒ぎの時に会ったんだよ。かわいい後輩にさ。


 「あれぇ?犬山先輩…ですよね?お久しぶりです。ここで働いているんですか?へぇーそんなんですかぁ…ふ~ん…」


 なーんか見たことあるなぁと思ったら…シアの妹、沙羅サラ

 本当に真面目で、パッとしなかったシアの妹。昔はタロちゃん何て呼ばれていたが、先輩か…

 しかしまぁ記憶が結構前だからか、お母さん似だと思ってたけどシアに似てきたな…ちょっとソバカスがあるのと眼鏡かけてるせいかシアより目が細い。

 シアは目が大きくて丸いイメージ…ただまぁ、一番わかり易い違いは、この重そうな目元まで隠れる黒髪だ。


「久しぶりだね、元気してた?こんな寂れた古本屋に、何か用かね?まだ、小説好きなのか?あの分厚い感じの…」

 

「店員さんがそんな態度じゃ駄目ですよ?今は漫画が好きで漫画ばっかり読んでます。昔はジュブナイルもののファンタジーが(ペラペラ)漫画だと画力ではなくてストーリーか(ペラペラペラ)後、私自身、少し描きますね(ペラペラペラペラ)SNSでは結構フォロワーいるんですよ?知ってます?シャカシャカって名前です?検索しても良いですよ、スマートフォンありますか?…」


 急に俺の周りを探し始めた…スマホは買おうと思うがまだ買ってない。てかグイグイ来るな…もう少しで閉店なんだが…終わったらバイクイジりたいのですが…

 

「いや、知らないしスマホないよ、あったら何するつもり?…で、よく喋るけどいつ帰るのかな?売るか買っては頂けるのかな?」


「え?もうちょっと良いじゃないですか?店長何でしょ?接客してくださいよ!例えばこの小説があるじゃないすか?この今流行の漫画の元ネタが…」


「いや、おま…小学校以来なのに本当によく喋るな…中学…いやもう高校か?どこの高校行ってんの?」


「高校何かどうでも良いじゃないですか?それよりもね…」


 夏休みの後半、家に遅くまで帰らなかった理由はサラが俺の働いていた古本屋に居着いたからだ…


 シア、サラ、蘭子…俺は女の子にモテるなあ(棒)

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