第七試合途中
幕間 5
「……道満の野郎、勝負を仕掛けたな」
「相手の視界だけを真っ暗にする、だっけ。それだけの術式ですよって言ってたけれど、要は対卜伝対策、だよね」
「まぁ、俺が用意させた訳だが」
「それって、いつから? ねぇ、南條いつから卜伝が出て来るってわかってたの?」
どれだけ前からわかっていたのかで、安心院の反応は大きく変わった。
もしも第一試合から想定出来ていたのなら、今までの戦績を全て計算出来ていた事になる。
芹沢、スパルタクス、モーツァルトの敗退。
ブーディカ、荊軻、ドン・キホーテの勝利。
六つの戦いを経て、チームレジェンズを追い込む事を計算していたのなら、安心院は怒りたい気持ちでいっぱいだった。
わかっていたのなら、もっと上手く出来たのではないか。
最初から四戦四連勝を決めて、勝負を決めてしまう事も出来たのではないか。人の命さえ駒として操り、エンターテインメントとして成立させているのなら怒りたかった。
「別に? ただ、チームレジェンズ最強と言えば、塚原卜伝一択だ。俺達を完膚なきまでに叩きのめしたいとポラリスの奴が考えれば、自ずと奴を出すと思ってた。まぁ、そう仕向けたは仕向けたが、ここまで上手くいくとは思ってなかったなぁ」
立ち上がった安心院の震える手が、南條の胸座を掴む。
仮にも人の命を扱う戦いで、三つの命を無駄に散らしたというのなら怒らざるを得ない。
が、南條は殴られようが今のまま絞め殺されようが抵抗しそうにない顔で真っ直ぐに見つめて来て、結局安心院は何も出来なかった。
「三人を、わざと死なせた訳じゃないんだよ、ね。南條……」
「あったりめぇだ。誰が好んで負けたがるか。こっちが全戦全勝して、追い込む予定だったんだよ。ま、それでも卜伝対道満に持って行けたんだ。結果オーライってな」
「……そっか」
「まぁ。三対三のイーブンでこの戦いに持って行けたのは、実にエンターテインメントで俺好みな展開ではあるけどなぁ」
「南條!」
「ケッケッケッ!」
困った人だ。だが実際、南條ほどこの戦いを楽しんでいる奴もいないだろう事は、安心院でさえ断言出来た。
誰よりも勝敗に対して悔しがり、歓喜し、熟考を重ね、戦略を立てる。南條ほどこの戦いに対し、真剣に取り組んでいるだろう人間を、安心院は知らなかった。
「ドン・キホーテ、大丈夫なの?」
「すぐにはまた使えないな。まぁ、今後一生戦えないわけではねぇから、大丈夫だろ」
同時刻、酸素カプセルの中に入れられたドン・キホーテはずっと、新調した兜の下でモニターに映る両者の戦いを見つめていた。
勝負の行方が気になるのか。それともただ暇だから見ているだけか。
狂戦士たるドン・キホーテの考えは、他の人にはまるでわからなかった。
そして彼と同じく、常勝のチームから勝利を掴み取った他の転生者――ブーディカと荊軻もまた、それぞれの控室で観戦していた。
酒に溺れるくらいの量を呑む荊軻は、手に取った賭け札がもし当たった場合の当選金額を皮算用していたり、暇を潰すためだけに戦いを見ていたブーディカは、適当に取った飴が甘くないなと思ってすぐさま噛み砕いていた。
勝者の特権たる緩やかなひと時を過ごすルーザーの面々とは打って変わって、レジェンズはチーム発足当初以来の危機に騒然としていて、まったく落ち着けていなかった。
特にモルガンを喪った円卓の騎士陣営は、殺気さえ籠めて卜伝の勝利を祈る。
「親父ぃ……この勝負、勝とうが負けようが俺は斬るぜ。あの男、ドン・キホーテは赦せねぇ」
「騎士たるもの、正々堂々と。恥ずかしくない形で挑みなさい。モルガンもまた、正々堂々と戦って散ったのだから」
「勝たなきゃ意味ねぇだろうがよぉっ……!」
「両手両足を拘束されながらその戦意、いやはや脅威だな。円卓のモードレッド。同じチームで良かったぜ」
円卓の控室の戸を開けたのは、万能の天才レオナルド・ダ・ヴィンチ。
義手のそれぞれにワインとクラッカー、御手拭きを持ちながら来た彼は、四肢を拘束されながらも近くに座れば噛み付いてきそうなモードレッドの隣に座った。
「モルガンの事は残念だったな。俺もあれは驚いたぜ。が、チームの面子は保ってくれよ。てめぇの勝手で、俺の株まで下げられるのは御免だ」
「てめぇも面子の話かよ! 面子が何だ! 面目が何だ! そこまでして守らなきゃならねぇのかよ?!」
「そりゃそうだろ。でなきゃおまえ、再戦さえさせて貰えねぇぞ? 面目さえ保ってればこっちから向こうにオファー出来る。面子さえ保ってれば、今まで通り自由に出来る。な? 面子を保つ意味、わかったろ?」
歯噛みするモードレッドは、それ以上何も言えなくなって押し黙る。
モードレッドを黙らせたレオナルドはアーサーから無言で頭を下げられ、気にするなと手で示すだけに留めた。
「そういや、レオニダスはどうした。異能がまだ編み上がってないからとはいえ、観戦もしないとはあいつらしくない」
「どうも。
「奴はこの戦いをどう見るかな? アーサー、おまえならどうする」
「……隻腕の私では、おそらく勝てないでしょう。それこそ、卜伝殿でなければ」
「だな」
全員が注目する第七試合。
ポラリスも押し黙って見守る戦いの後半が、始まる。
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