塚原卜伝vs蘆屋道満 5
朝の雲雀を飼いならすのが奴ならば、拙僧は夜の帳を降ろしましょう。
もしも奴が
そして、想定していた未来視の使い手と実際に対面し、対峙し、対決した道満は、一つの解決策を見出すに至る。
漆黒の夜を招く、帳を降ろして。
「この術に名はなく、与えるつもりもございません。ですがどうしても、強いて名付けろと仰るのであれば――“
傍から見ると、両者の間に何の変化も何もなかった。
だがそれは卜伝が反応しなかったからそう感じただけであり、卜伝には明らかな変化があった。
何も見えない。瞳が何も映さない。
どの世界線でも今の術を防ぐ事は出来ず、遅かれ早かれ漆黒に塗りたくられてしまっている。
全ての未来。全ての世界線で逃れる事の出来なかった黒による視界の侵食は、卜伝の心に焦燥こそ生じさせなかったものの、一種の憤りを感じさせた。
道満に対してではない。いつの間にか、気付かぬうちに未来を選りすぐんで戦う様になっていた己の脆弱さに対してだ。視界が封じられた程度で狼狽し欠けた己の弱さにこそ激怒する。
「何故最初からこれを使わなかった」
「何、簡単な事ですよ……今までの試合は全て瞬殺。短い戦いで終わらせて来たが故に、あなたがどこまで先を見れているのか、拙僧には判断出来なかった。戦う前より勝敗が見えているのなら、幾ら策を用意したところで無駄に終わるだけです。が、ここまでの戦いで、どうやらそこまで有能ではないと見切りました。見える先は長くとも
「それが、これか……」
「数秒後の未来が見えると言うのなら、数秒後もその先も同じ光景に――漆黒の闇に潰してしまえばいいだけの事。もしもあなたがその先さえ見えていたのなら、勝ち目はありませんでした。ようやく、拙僧の見せ場にございます」
懐に忍ばせた五枚の札。
道満はそれらを一枚ずつ千切り、燃やして捨てた。
札に封じ込められたそれぞれの力が、道満の体を包み込んだ。
「術式展開!
借り物の力故、あまり威張ると虎の威を借りる狐となってしまうが、道満の切り札とも呼べる術式がここに来て発現される。
かつて奴が従えたとされる、最強を誇る十二体の式神軍団。
式神の最高位ともされるそれらを、生前の道満は終ぞ召喚する事は出来なかった。
しかし第二の生。異世界で蒐集したアーティファクトと研究が実を結び、最強の十二天将の中でも特別秀でた最強の五つを抜き取り、己に纏う術を身に着けた。
右腕に宿すは東の青龍。歪な左腕擬きに纏うは西の白虎。背に宿すは南の朱雀。前方に展開されるは北の玄武。そして、武器として手に取る大剣は十二天将筆頭にして天一神の貴人。
東西南北を守る守護神と、それらを統べる天上の神とを纏ったその姿は、さながら聖書に描かれる堕天使が如く。禍々しく輝いていた。
これぞ、道満最大の奥の手。
「さぁ、ここからが本当の戦いです。お手柔らかにお願いしますよ? 無類の剣聖殿」
「……斬り殺す」
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