最終、第七試合

チームレジェンズ対チームルーザー 決戦

『困惑と混乱で終えた第六試合……スコアは実に、三対三! 誰が予想出来ただろうか、この展開を! 第二試合まではそら見た事かと笑っただろう我らも、第三試合で笑顔は引き攣り、第四試合で取り戻した安堵も、第五、第六試合で不安に引き戻される! 七戦七勝! 幾度もの完勝を繰り返し、絶対的勝者と言われたチームに喰らいつく馬鹿を! 我らはもう馬鹿には出来ない! 全世界が今、認めている! 彼らを、常勝のチームと対抗する挑戦者と! 誰もが認められずにいる! 圧倒的敗者の肩書を! 無名から一挙に有名へ! 快挙に次ぐ快挙を果たし、絶対王者と対等に渡り合うチームの名は、チーム、ルーザー! そして今! 彼らの最後の挑戦にして、最後の試合が、始まろうとしているぅ!!!』

 熱気渦巻く会場は、両チームの色で染まっている。

 レジェンズが勝って面目を保つのか。

 ルーザーが地位を引き摺り下ろすのか。

 最早一方が勝ち上がり、力を示すだけのショーではない。双方の力がぶつかり合い、勝敗を決める勝負であり、勝敗を決するエンターテインメントだ。

 チームルーザーがレジェンズを追い込んだお陰で、奇しくも転生者大戦はその在り方を取り戻したと言える。

 この展開に密かに感謝していたのは、転生者大戦を運営する委員会。

 勝負として成立するのはもちろん、賭博としても成立するからいい。一般市民がお小遣い稼ぎ程度の金を賭けている裏で、大企業の取締役や俗にVIPと略称される富裕層の人々が落とす札束の山。国家予算として賄うにも良い金額が溜まった事は、運営にとっても非常に大きい。

 これで日本政府の口封じのための金は、充分に用意出来たのだから。

「い、いよいよ、だね……南條なんじょう

「あぁ。その名の通り、安心してみてな安心院あんしんいん。これから始まる戦いこそ、本当のエンターテインメントだ」

 若干緊張感が緩んだチームルーザー陣営に対し、勝利に飢えた獣と化したポラリスは、チームレジェンズの監督室に籠ってひたすら、深呼吸を繰り返していた。

 自身が戦う訳でもないのに、まるでゾーンにでも入ったような目。鋭い猛禽類のような眼光を飛ばす瞳の中で、必勝を誓う星が威圧的な光で光っている。

 兄のアルタイルは部屋の扉に寄り掛かって煙草を吸い、誰も入らないよう気を配っていた。

 双方、出来る準備は全てした。最良かつ最善の選択をした。自身が繰り出せる最強の手札、切り札ジョーカーを取った。

 これから始まるのは紛れもなく、双方が繰り広げられる最高の一戦である事には違いない。

『第七試合の会場は、こちら!!!』

 サッカーゴールが折り畳まれ、サッカーフィールドが真ん中で割れて左右に仕舞われる。

 そうして開いた空洞を埋めるが如くせり上がって来た戦場は今までの六試合の戦場よりも高くせり上がり、木製の四角柱が会場中央に聳え立つ。

 陸上競技用のフィールドトラックが広がっていた場所には水が溜まり、およそ五分で陸、海、空の三つが備わった戦場が作り上げられたのである。

「これ……海水か?」

「多分、そうだな……磯の臭いがする」

 水は一階観客席一番下の席とトラックを隔てる壁ギリギリまで溜まり、海水特有の塩気を含んだ臭いが観客らの鼻腔をくすぐる。

 かつて叶わなかった夢であるが、もしも今の技術が当時あれば、五輪全ての競技がこの会場で出来ただろうと思わぬ者は少なくない。

 が、これらの技術は全て異世界転生者らによって持ち出され、運用されたものばかり。

 全てはこの戦いのために。全てはこのエンターテインメントのために。彼らは武を、覇を、勝利を競う事を厭わない。

 それを意味する上でも、此度両者が要求した当戦場は、今日この日まで戦って来た全戦士の集大成とさえ言えた。

『ご覧あれ、この豪奢な戦場を! 陸! 海! 空! ここ、日本国立競技場が用意出来る最高の戦場にて、今、前代未聞! 空前絶後の戦いが行なわれようとしている!!! 戦うのは、常勝無敗を誇って来た最強集団、チームレジェンズ! 対するは、そんな最強軍団に挑み、遂に同点まで追い付いた圧倒的敗者、チームルーザー! 絶対王者がその力を見せ付けるのか! 圧倒的敗者の下剋上が成されるのか! 結末は、この二人に託された! 両雄、入場、ですっ!!!』

 からん、ころん、と下駄の音が響く。

 入場するのはチームレジェンズ、最強の転生者。

 紛れもない、絶対王者の握る切り札。

『目覚めし者と聞けば誰もが思う。かの御仏の事だろう。しかしもう一人! 千日もの瞑想により目覚め、開眼せし剣聖がいた! およそ四〇の戦場を駆け抜け、無敗!!! およそ二〇の真剣勝負を行ない、無傷!!! たった一人で二一二人もの敵を蹴散らした、無類の剣聖!!! チームレジェンズが誇る最強にして、日本が誇る最強の剣聖、ここに推参!!!』

 ゆっくりと、緩慢な歩みで進んで来た男は、ずっと閉じていた目を開ける。

 光を受け入れるのが久方振りに過ぎて、若干眩しさを訴える表情を浮かべた彼は、微笑を携えて戦場へと跳び込んだ。

塚原つかはらぼぉぉくでぇぇぇん!!!』

 曰く、若干一七歳で真剣勝負にて大人に勝ち、木刀による打ち合いを百度行なえど、その体に擦り傷の一つも付かなかったとされる。

 三七の戦争における負傷は、矢による被弾たった六度。

 その実力は、同じ剣聖として語られる宮本みやもと武蔵むさしをも凌駕すると謳われた。

 剣術、鹿島新當流かしましんとうりゅう開祖――塚原つかはら卜伝ぼくでん、推参。

『そして、そんな無類の剣聖に挑むは……この男だ!!!』

 入場口から黒い霧が噴き出して来る。

 続いて出て来るのは入場口には収まり切らないだろう巨躯の鬼、魔性、妖の数々。それらが列を成して道を開く様はまるで、百鬼夜行を体現したかの如く。それをしてみせた男は悠々と、跪く鬼達の間を歩いて来た。

『時は平安。光と影の術師あり。名を、陰陽師! 悪鬼羅刹を祓い、時に従え、操り、星の流れから未来を占う時の魔術師! その最高位にして頂点に立ちながら、天才の陰に隠れる永久の敗者を、我々は知っている! 今ここで、彼は超える事が出来るのか! 他ならぬ陰陽道にて、この難行を成し遂げられるのか! チームルーザーのエースを務めるのは、永遠なる陰陽師の陰にして、永久の二番手!!!』

 宙に浮かべた葉の上を闊歩して到着した男は、被っていた狐の面を外す。

 彼を見送るべく馳せ参じた百鬼夜行が黒霧へと還っていく中で、彼は自信たっぷりの笑みで笑ってみせた。

蘆屋あしやぁ! どおぉぉまぁぁんっっっ!!!』

 陰陽師の存在を知るのなら、かの男と共に知っていよう。

 彼と共に陰陽道に励み、最後には敵として対峙した男。

 自身も天才と称されながら、稀代の天才に敗れた男。

 平安の呪術師にして、悪の道摩法師どうまほうし――蘆屋あしや道満どうまん、顕現。

『さぁ、両雄揃いました! 泣いても笑ってもこれで最後! チームレジェンズ対、チームルーザー! 塚原卜伝、対、蘆屋道満……開戦ファイッ!!!』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る