第六試合終了

幕間 4

 二連敗。

 そして、まさかの通算成績、三対三。

 まったくの同点。遂に絶対的弱者が、圧倒的勝者と肩を並べる展開。

 観客の誰もが、この戦いを見ていた誰もが予想していなかった展開が今、実際に目の前に繰り広げられている。

 誰もが思いもしなかった。

 最後の戦いが本当に、雌雄を決する戦いになるだなんて。

「ドン・キホーテぇぇぇ!!!」

「モードレッド卿!」

 仲間の制止も振り切り、観客席から飛び降りたモードレッドは、魔剣を抜く。

 母の骸の側に立ったモードレッドは、憤怒に満ち満ちた声で吠えた。

「剣を抜け! 次は俺が相手だ!」

 が、ドン・キホーテは答えない。

 既に役目を終えた機械のように、俯いたまま動こうとしない姿勢が、モードレッドの気分を更に逆撫でた。

「その姿のまま、斬り殺されたいのか貴様ぁ!」

 モードレッドが斬り掛かりに迫っても、ドン・キホーテは動かない。

 振り被って繰り出された魔剣の一撃を代わりに受けたのは、どこぞで戦いを見守っていたらしいチームルーザーの転生者、荊軻だった。

 魔剣を受けた匕首を滑らせて後退。口内に潜ませていた毒針を吐き出し、モードレッドも後ろに退かせる。鎧で弾いたモードレッドだったが、退くと同時に何かで斬られたようで、頬に切り傷を付けられていた。

「ひっく……! 出しゃばりなのぁ、良い事でありんせん。お退きなすって」

「てっめ――」

 体が重い。動きが鈍い。

 過去に何度かあった経験から、毒を盛られたと察したモードレッドは、痺れて上手く力の入らない歯で、唇を嚙み締めた。

「おや、動けやせんか? なら、介錯しやしょうか」

「こ、の……!」

「――待って頂こう。そこの騎士は我らが同胞、勝手に介錯されては困ります」

「作用。その騎士は我々に回収させて頂く」

「……」

 ガウェイン。ランスロット。トリスタン。三人の騎士が降り立って来る。

 が、チームルーザーの方も黙っていなかった。チームルーザーの入場口から、今まで姿を見せなかった転生者らが現れる。

「勝手次第に始めちゃって! 困ってるのはこっちだっての!」

 邪馬台国二代目女王、壱与いよ

「敵討ちなら、次の試合は余とやるか? なぁ! なぁ!」

 アケネメス朝ペルシア最後の王、ダレイオス三世。

「しっく、しっく、しっく……叛逆の騎士の血。これは良い素材になりそうですね?」

 悪魔と契約したと曰くの錬金術師、ヨハン・ゲオルク・ファウスト。

 チームルーザーの面々まで姿を現し、全員が臨戦態勢に突入。

 実況兼審判も仲裁出来ず、このまま乱闘に発展するかとなった時、他でもないこの男が叫んだ。

「何をしているけいら! 睨み合う必要も、牽制し合う必要もない! モードレッドを連れ、即刻退かないか! チームレジェンズの一員である以前に、けいらは円卓の騎士! 我が騎士であるぞ! 恥を知れ!」

 観客席から吠えた王の声に、会場全体が押し黙る。

 チームレジェンズの騎士らはもちろんの事、ルーザーの面々もまた黙り、静かに臨戦態勢を解除。剣を鞘に収めた。

 今のうちに下がれと促すアーサーに一礼し、痺れて動けないモードレッドを引っ張っていく騎士らは表では平静を保っていたが、全員がモードレッド程ではないにしてもそれ相応の悔しさを抱きながら、胸の内側で泣いていた。

 もしも止めたのがアーサーでない他の誰かだったら、きっと止められなかっただろう。

 そうだと思っていたからポラリスは動けなかったし、アルタイルは彼女を動かさなかったし、二人してアーサーが止めに入ってくれた事に安堵していた。

 壱与にダレイオス三世、そしてファウスト。

 荊軻含め、ドン・キホーテを庇って出て来た四名に関しても、もう軽く見ない。

 アーサーがもしも止めなかった場合に、円卓の騎士を止められると判断して南條が送り込んだのだろう面々だと考えれば、もう絶対に勝てるだなんて思えなかった。

 だから考えると怖くなる。

 もしも第一試合でアーサーが負けていたら、誰がこの騒動を収められただろうかと。その場合のこちらの戦力低下は、想像出来ない。

 油断大敵。

 この四文字を胸に抱き、チームを結成したばかりの頃の自分がいたら、きっと自分の胸座を掴み、頬を引っ叩く事だろう。

 そんな事を想像して、ポラリスはつい、目の前にあったペットボトルの中身を一気に飲み干した。

「落ち着いたか」

「……はい」

「悪かった。さすがにこれは俺も想定外だ。モルガンを動かせば勝てると思ってた俺が悪かった。妹よ。今更ながら、相手はかなりの強敵らしいな」

「いえ、私も見込みが甘かったです……巴とジャックがやられている時点で、もっと彼らを警戒すべきでした。モルガンを出せば勝てると思い込んでいたのは、私も同じです。ドン・キホーテ……まさかモルガン以外に、夢の世界に干渉する能力者がいるだなんて」

「夢の騎士、ドン・キホーテか。モルガンは最期まで認めなかっただろうが、奴は夢を叶えた上で勝ち上がった。紛れもねぇ勝者で、騎士だ。万全の状態だったら、まずモードレッドは返り討ちに遭ってただろうよ」

「次の試合……いえ、最後の試合は容赦しません。圧倒的で! 絶対的な強者の戦いを見せましょう! 兄さん、出場交渉を!」

「我儘な総監督だ。それで、俺は誰に土下座すればいい? それとも菓子折りか」

「初回の試合で一瞬で終わらせてしまい、反感を買ってしまったのでなかなか出せませんでしたが、もう背に腹は代えられません。必勝……! 必ずや、勝利するために!」

 一方、チームルーザー側。

 監督室の南條と安心院は、ドン・キホーテの上げた大金星を改めて祝っていた。

 三対三。無名のチームが、絶対王者とまさかの同点にまで追い付いた。誰も予想していなかった。誰もが予想出来なかった展開だ。

 それは安心院も、これまで六人を送り出して来た南條でさえ、信じてはいたものの、ようやく到達した時だった。

「やったぁ! 同点同点!!! まさかモルガンの無敵状態を看破出来るだなんて! ドン・キホーテ、正直舐めてた!」

「ケッケケ。夢魔の妖精相手にゃあ、夢見る騎士ってな。夢喰うバクでも出せりゃあ良かったが、ま、予定通り行って何よりだぁ」

「次は?! 次は?! っていうかもう最後か! 最後はどうするの、南條! 荊軻、ドン・キホーテと来て、最後には何を用意してるの?!」

「そりゃあ王道も王道よ。最終兵器一号、二号と送り出したんだ。最後は決戦兵器三号――基、チームルーザー最強に出て貰おうじゃあねぇか! さぁ! Let the best 最高のentertainment beginエンターテインメントを始めるぞ!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る