巴御前vsブーディカ 決着

 第二の生においても、巴御前という人間は幸せだった。

 千年を遥か超える長命を行き、元より得意だった弓を駆使して、英雄の一行を助力するという大きな働きをする事も出来た。

 二千年を超えた頃、子供どころか孫、ひ孫にまで恵まれた彼女に待っていたのは、争いの日々でも、愛した人の安寧を祈り続ける日々ではない。

 ただただ過ぎるだけの、ただゆったりと生きるだけの、安らかな平穏だけだった。


  *  *  *  *  *


 勝負は一瞬。

 弓を握ったブーディカを見て、すぐさま三叉層を引き抜き、埋もれた壁から撤退しようとする巴。

 槍に貫かれたままのブーディカは、先の二連回し蹴りの最中に奪っていた巴の矢を弦にかけ、すでに限界まで引き絞っている。

 三叉槍が抜け、落ちるブーディカの目は未だ巴から一瞬たりとも離れず、引き絞った矢が巴目掛けて放たれ、見事、ギリギリながら確実に巴の眉間を穿ち抜いた。

 槍が落ち、ブーディカが落ち、壁から巴の体が抜ける。

 立ったままフラフラと揺れる巴の体は、倒れそうで倒れない。

 が、最後に自分を真っ直ぐに見つめるブーディカの目を見返した時、巴の体で硬直していた筋肉の全てが、一挙に緩んだ。

「み、ごと……!」

 膝が屈し、背中から倒れる。

 巴の体はピクリとも動かず、痙攣さえしない。

 皆が声を失う中で、誰より早く言葉を取り戻した実況が、未だ信じられないながらも告げる。

『チームレジェンズ対、チームルーザー……第、三戦……勝者は、チームルーザー。ブゥゥゥディカァァァ!!!』

 困惑と混乱と混沌が、一挙に溢れる。

 誰もが予想していなかった――否、誰もがもしやと思い始めていた予想図が、遂に現実の物へと昇華される。

 歓声は一切なく、ただ一人子供の様にはしゃぐ安心院と、すぐ後ろで酒を飲む荊軻に視線で合図を送る南條だけが、この勝利を祝福していた。

 ブーディカは最後に、自分へと賛辞を送った巴を見下ろしながら、黙る。

 勝利の道筋を示すベクトルは、確かに全て消えていた。それはつまり、道筋はもう必要ない事を示していた。ベクトルが消えた時点で、この勝利は確定していた。

 が、やはり、最後の最後までギリギリだった。

 もしも最後の一投を外していたら、自分に勝機などなかっただろう。

 敵を殺せれば武器は何でもいいと考えていたが、今の局面は弓矢でなければ、絶対に勝てなかった。

 だから敬意を示す訳でもなく、弔いの意味合いを籠めてでもないが、使い終わった強弓を捨てず、倒れる巴の腕を取って抱かせるように持たせて、その場を後にする。

 敗因は、第二の人生における長き安寧だったのか――ともかくとして、チームレジェンズ完封勝利は、こうして崩れ落ちたのだった。


 第三試合。勝者、チームルーザー。ブーディカ。

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