第二試合終了

幕間

 二連敗。

 戦いは七戦全て行なわれるが、早速崖っぷちまで追い込まれた気分だ。

 怪物じみた強さの芹沢とスパルタクスが破れた今、次の一手がわからない。

 多くの転生者と契約しているレジェンズと違って、ルーザーにはそもそも契約している転生者が少ない。それでいて二人もの強者を失ったのは、相当の痛手だった。

 チーム創立のためにと、南條が無理矢理にスポンサーとして契約させた各所から、抗議だろう電話が鳴り止まない。

 南條も安心院も取れる心境ではなく、二人だけの部屋には電話の呼び出し音だけがけたたましく鳴り続けていた。

 無言による圧を先に破ったのは、安心院の方だ。

「どうすんの?」

 南條は答えない。

 苛立ちを見せる安心院は南條の胸座を掴み、元々自分より高い位置にある胸座をより高く揚げて揺り動かした。

「どうすんのさ! ねぇどうすんのさ! 早くも二連敗だよ?! 芹沢どころかスパルタクスまでやられちゃって、ねぇ今後どうするの?! この先どうすればいいっていうのさ!」

「落ち着け」

「どうしてこの状況で落ち着いてられるのっ――!」

 逆に胸座を掴まれ、投げ飛ばされる。

 背中に受けた鈍い痛みを堪えながら睨み上げる安心院を、南條は不思議そうに見下ろしていた。

「何をそう動揺する事がある。寧ろこっからだろ」

「無理だよ! 無理、無理! こんな勝負、最初っから無理だったんだ!」

「てめぇ、相手は絶対王者だぞ。最初ハナからわかってた事だろうが。それを今更何だ? たかが二連敗でぎゃあぎゃあぴぃぴぃ騒がしいったらねぇ。今俺達の両肩には、期待が掛かってんだぞ」

「……期待?」

「チームレジェンズは絶対王者だ。そことの試合を、どこのチームも消化試合にしてる。と決め付けてだ。どうせ負けるから本気を見せない。本気でやらない。そんな勝負の何処が面白い。本気と本気のぶつかり合い、それによって生じる勝敗。それこそがこのエンターテインメントの醍醐味だろうがよ。その根底を取り戻すんだよ。他でもねぇ、無名のチームの俺達が。てめぇをチームに誘う際、散々言って聞かせたろうが。シャキッとしろ」

「……ごめん」

 座り直した安心院はパソコンに向かい、キーボードを物凄い速さで叩いていく。

 チームレジェンズと契約するたくさんの転生者のうち次に誰が出て来るのか。それに対抗し得るこちらの戦力は誰か。

 データの収集と分析という本来の役目を果たすため、南條に買われた腕を十全に発揮せんと動き始めた。

 南條は南條で抗議の電話を完全にスルーし、運営本部からの連絡のみを取る。

「会場の破損が酷いから、第三試合を二時間延期するとよ。で、どうだ具合は」

「粗方、答えは出たよ……ただ、ここからどうやって絞り込むか、だね」

 画面に映る顔は三人。

 どれも一騎当千の強者ばかり。

 それらの面々を何度も見返し、煙草を噴かした南條の出した結論は、一つ。

「安心院。おまえ、神様に会った事はあるか?」

 二連勝。

 いつもと変わらぬ展開だ。いつも通りの展開だと言うのに、収まらぬ胸のザワつき。

 二度だ。二度もと思わされた。

 今まで何事もなく、危なげなく勝利して来たチームレジェンズが、まさかの二連続辛勝とは。ここに来ての三戦目が、今までにない危険を孕んだ綱渡りに感じるのはきっと、気の性ではないはず。

 潰されそうな圧迫感。

 いつ以来だろうか。勝ち続ける事に、こんなにも深く悩むのは。

「平静でいれば良いのです。冷静に選べばよろしい。あなたは我々の頭脳なのですから」

「わかっています……」

 苛立つ様子のポラリスを宥めるが、全く効いていない事を察して吐息する。

 アーサーは片腕を奪われた。

 レオニダスは異能を破られ、再び戦線に復帰するのに一ヶ月は掛かる。

 戦いには勝って来たものの、追い込まれている。追い詰められている。観客達が、次も勝ってくれるよねと、プレッシャーをかけて来ているような気がして落ち着かない。

 モルガンのようにいつも通り運べばいいだけの話なのだが、いつも通りというのがわからなくなって来る。

「……わかっています。次も勝てばいいだけです」

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