レオニダスvsスパルタクス 決着
レオニダスとスパルタクス。
生まれた時代、場所は違い、身分も違う。
レオニダスは人の上に立つ王であり、スパルタクスは人の下に就く奴隷であった。
しかしそんな二人にも共通点が一つ。それは彼らが戦場では王でもなければ奴隷ですらなく、人々を束ね、導き、ひたすら前へと進み続けた、歴史に刻まれる英雄だった事である。
「ヌぅあああっっっ!!!」
「こぉぉぉぉぉぉい!!!」
異能殺しの腕が全力で殴る。
ただでさえ硬い肉体を、鉄を溶かすにまでなった体温を抱いた肉体をひたすらに殴る。
レオニダスはただひたすら抵抗もせず、黙って殴られ続けるのみ。だが決して、一方的展開とは言い切れない。
攻める方も満身創痍。
腹には穴が空き、内側は黒焦げにまで焼かれた状態。ただでさえいつまでも全力が持つ相手ではないと言うのに、体が万全ではないのだから余計に時間がない。
体は鋼鉄、熱は灼熱。それこそ溶鉱炉に入った鉄の塊を殴っている様なものだ。
だがレオニダスにも効いている。一発殴られる毎、三〇〇人のスパルタとの結束が少しずつ切られて、弱体化している。
体は柔く、体温は低くなっていく。人の究極を超え、人ならざる者だった王が、人へと返されていく。
一方、王を殴る奴隷はもう人をやめていた。やめるしか勝つ術はなかった。体の内側を焼かれて尚、敵を殴り続ける怪物に成り下がるしか。
「スパルタクス……!」
もはや
殴るが果てるか。
受けるが果てるか。
削られ方からしてスパルタクスが押し切る、と思いたいが、スパルタクス自身には既に充分過ぎるダメージが蓄積されている。もう昇天寸前だ。
だからこそ、もう加減も何も無い。常に全力で拳を振るう。
さすがのレオニダスも、力を削られている状況での反撃は返って悪手に繋がると察したのか、防御に徹している模様。この土壇場でも冷静なのが逆に腹立つ。
だが、だからこそわからない。
どちらが勝つか。どちらが先に果てるのか。
今まで鼓膜がどうの光がどうのと文句ばかり言っていた人々が、揃って黙り、二人の攻防を見続けている。
それこそ胸の内を躍らせながら。どちらに転ぶかわからないサイコロの目を覗き込む様に、真っ直ぐと。
「倒れィィィ!!!」
「倒れるかぁぁぁ!!!」
もはや戦いとは言い難い我慢比べの中、力の限り二人は吠える。
そうした意地の張り合いは数分、数十分と続き、遂に一時間に到達しようとした時に、状況が変動した。
レオニダスが、膝を突いたのだ。
驚愕を示すザワつきが一瞬起こって、静寂。
進行兼実況役が、焼けていない地面の上から、双眼鏡を使って状況を見る。見る限りは、レオニダスが先に力尽きて屈したように見えた。
「……これは、うん。これは困った。もう、スパルタ兵達との繋がりが、もう残っていない」
『れ、レオニダス王の異能が消滅?! これはまさか、まさか、まさか……?!』
「だが――一足遅かったな」
皆、揃ってスパルタクスを見る。
黒く焼け焦げた腕の先から、レオニダスに貫かれた腹から、スパルタクスの体が炭となって崩れていく。骨すら残らず徐々に消えていくその体は、足を失うまで尚倒れず、揺らがなかった。
結果は、皆の予想を超えなかった。
だが誰も、それ見た事かと笑いはしない。ただ黙って、消えゆくスパルタクスの体を見守っている。
「いや、参った。スパルタ兵との繋がりを完全に断たれてしまった。もしもあと数分。いや数十秒生きていたら、俺はやれていただろうな。うん」
惜しかった。
いや、惜しかったという評価さえ最早誉れだ。
人類の究極と呼ばれた体。王の玉体を、常人のそれにまで落としたのだから。結果は伴わなかったが、誰にも実現する事の出来なかった偉業をスパルタクスは達したのだ。
「うん、認めざるを得まい。三〇〇対一でも押されたのだ。偉大なる英雄スパルタクス。もしもこれが正真正銘の一対一だったなら、確実におまえの勝ちだった」
スパルタクスの体は崩れ落ち、完全に炭化。
散らばった炭は風に溶けて消え、静寂の会場から完全に消え去った。
二連敗。
チームルーザー、初戦に続いて敗北す。
だがその結果を笑う者は少なく、誰もがわずかながらに感じ始めていた。もしやいずれ、敗者が勝者を打ち負かすかもしれないのでは。そんな、一抹の不安を。
「皇帝達よ。我らに牙を剥いた英雄に祈りを」
自分達の国へ叛逆した男へと、観客席の皇帝達は祈りを捧ぐ。
皆が皆の感情に従って静寂を守る中、我に返った実況兼審判が告げた。
『チームレジェンズ対チームルーザー第二試合! 勝者はチームレジェンズ、レオニダァァァス!!!』
高々と揚がる拳に、観客の皆は拍手を送る。
始まった当初は誰も思わなかった結末を、頭の片隅に想像しながら。
第二試合。勝者、チームレジェンズ。レオニダス。
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