第二試合

チームレジェンズ対チームルーザー 2

 第一試合はチームレジェンズ先鋒、アーサー・ペンドラゴンの勝利で終わった。

 続く第二戦は一時間後。

 その間、観客は飲食コーナーもしくはトイレ休憩と言った様子だが、双方の監督陣営が醸し出す空気は良くない。

 第一試合を敗北で終えてしまったチームルーザーはもちろん。辛勝に終わったレジェンズもまた、慎重に次の一手を選ばねばならない状況にあった。

「鴨、無事に転生したかな……」

「さぁな。そんな事より、こっちは次の手を決めねぇとな」

「そんな事よりって……負けたらまた異世界に転生させられるんだよ? 向こうも了承してはくれていたけれどさ……また妙な世界に飛ばされてなきゃいいけれど……」

他人ひとの事心配してる場合か? てめぇだって、勝たなきゃ終いの身の上だろうがよ。お涙頂戴の寸劇見せられたって、敵将は勝ちを譲っちゃくれねぇんだ」

「そりゃわかるけど……でも、あの化け物みたいに強かった芹沢鴨でも勝てないんだよ? チームレジェンズにはまだまだ化け物みたいなのが大勢いるし……」

「ならこっちも、また化け物出せばいいんじゃねぇか」

「そんな奴……いぃぃぃたぁぁぁ!!!」

 安心院の絶叫から一時間。一回戦で一部崩れた戦場の修復が完了した。

 戦場そのものは相変わらずの平地だが、四方の出入り口には一回戦の両者の戦いを象徴してか、騎士と剣士が剣と刀を交えている巨大な像が新しく置かれている。

 観客席の人々も戻り、準備万端。両チームもカードを決め、全ての体勢が整っていた。

『さぁ、白熱の第一戦より一時間。未だ興奮冷めあらぬ会場に、再び激戦の予感がする! おまえ達、準備はいいかぁ!!!』

 レスポンスのボルテージはマックス。

 このまま待たせるのなら暴動さえ起きそうな勢いだ。

『まずは、初戦を敗北で終わらせてしまったチームルーザー。雪辱を晴らすべく来るのは……こいつだぁ!』

 地鳴り。地震。

 誰もがそう間違える。だが違うとすぐ気付く。

 まるで地球の鼓動が聞こえてくるような、地中から押し上げられているような感覚と同時、一歩、一歩と、迫り来る何者かの気配を皆が感じていた。

『奴隷。それは人にして人ならざる者。今となっては赦されざる負の歴史! 過去、人が人を使役する事を赦されていた時代、かのリンカーンよりも先に立ち上がった男がいた! 奴隷達を率いて叛逆の狼煙を上げ、人ならざる身のまま、英雄とさえ呼ばれた男! 初戦の敗北を払拭する、反撃の狼煙となるか!』

 男――いや、大男が姿を現す。

 両手には三重の手枷。顔には鉄の兜。両脚には数トン近い重しの付いた足枷がつけられ、一歩進むごとに地鳴りのような轟音が響く。

 その巨体では狭かったろう通路を抜けて現れた男は、その場で手を縛る手枷を引き千切り、足枷を砕き割り、鉄仮面を潰し割る。

 数十トンの重しを外した大男の抑制されていた肉が膨張し、男の真の体格を見せ付けた。

 その体、まさに肉塊。

『――スパルタクぅぅぅス!!!』

 獣の如き咆哮が、天をも轟かす。

 奴隷解放の英雄。剣闘士として名高きスパルタクスが、スタジアムにて戦うとは、何と皮肉めいた光景か。そう思った客も、少なからずいた。

『そして、そんな人間を止めた様な怪物を相手にするのは、この男だ!』

 槍に盾を持ち、鎧を着た男達が走り出す。

 戦場を囲うように並び立つ男達は皆で盾を構えてたった一つの道を示し、スパルタクスに、その道から現れる者こそが相手である事を示した。

 男は悠々と、鋼の跫音を響かせながら闊歩する。

『集った仲間はわずか三百人。迎える敵軍は数万の兵! しかし、男は諦めなかった。諦める事を知らなかった! 英雄ナポレオンの辞書に不可能の文字がないのなら、男の辞書に、敗走の二文字なし! かの戦いにおいて死して尚、生きる英傑達を奮い立たせ、敵を滅ぼすに至る! 我が身を盾に捧げし、最強の守護神! 人類の究極!』

 現れた男もまた、槍と盾を持っていた。他の兵士が持つ物よりも、一回りも二回りも大きく、重い印象を抱かせる二つを、男は颯爽と放り投げた。

 仲間と仲間の間を通り、スパルタクスの前に立つ男の名は。チームレジェンズ二番手。

『――レオニダぁぁぁス!!!』

 スパルタの王、レオニダス。

 かのテルモピュライの戦いを知る者は、彼を最強に数えない事はない。

『さぁ、両雄揃いました! チームレジェンズ対チームルーザー! レオニダス対スパルタクス……開戦ファイッ!!!』

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