【おまけ】“猫”のルカと僕

 柚李ゆうりがルカの正体を知る、数週間前の話——。


「よし」


 柚李は珍しく、自炊していた。

 その日の夕食は親子丼。柚李が作ることのできる料理でも、かなり難易度の高いと自負している料理だ。


 うまく醤油の味付けがされた卵焼きをご飯の上に乗せて、盛り付け完了。

 卵の賞味期限が迫っていたので、余った卵は醤油を少々とかつお節汁を染み込ませた厚焼き玉子を作った。


 両方をお盆に乗せて、テレビの前の小さな折りたたみの机に置いた。カーペットの上に座ると、ルカが柚李に近寄ってきた。スマートフォンの充電を挿して、メッセージの受信を確認する。


 スマートフォンを操作している間に……。


 ルカは机の上のご飯をくんくんと嗅ぐと、厚焼き玉子に手を伸ばし、三重に巻いてある卵を爪でひっかく。一重の端がぽろっと破れてルカがそれをカーペットに落とした。

 すぐにそれをペロリと平らげて、口の周りをペロペロと舐めている。相当美味しかったのだろう。


 ようやくスマートフォンの確認が終わった柚李は自分の厚焼き玉子の様子を見て、首を傾げた。


「なんか……もしかして……お前食べたな?」


 ルカを横目に見ると、知らん顔をしているが、明らかに口を舐める頻度が多い。


 柚李はルカの頭を撫でる。「……美味しかったか?」


 仕方がないから柚李は食べられてしまった厚焼き玉子は全てルカにあげるか、と考え、小さく切ってルカの前に出した。謎に姿勢がいいのである。



 すると、ものすごい勢いで食べ始め、柚李がテレビをつけてスプーンを取りにキッチンに戻って帰ってきたら無くなっていた。


「早くね?」


 しかしルカはまだ満足していないご様子。

 立ったままの柚李を見上げて、愛らしい瞳でこちらを見つめている。おまけに首まで良い具合に傾けるものだから、可愛さが増すことこの上ない。


「いや……もうさすがに、あげないよ? ……あげないからね?」


 自分にも言い聞かせるようにそう言った、柚李のある晩の出来事だった。



 ——……今度チュール買ってきてみようかな……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る