第14話 いけどりの

 鷹盛たかもりは城主達が血気として城を後にするのを見送った後、すぐさま座敷を出る。

 供をつけることなく馬小屋へ行き、入って右奥にある地面に埋め込まれた扉の3つの錠を、常に身につけている鍵を使ってあける。

 扉の向こうには人がひとり入れるほどの穴がはるか先まで続いていた。

 鷹盛たかもりは用意してきたランプを片手にはしごを伝って中へと降りていく。

 長いはしごを下りていった先は、広い洞窟のような場所。

 ひんやりとした空気が漂い、規則的なポチャンという水の滴り落ちる音が響く。

 そして、その水音に混じって女の苦しげな唸り声が洞窟内にかすかに聞こえていた。

 鷹盛たかもりは、等間隔に置かれた松明にランプの火を付けながら進んでいく。

 はしごから凸凹とした道を進んでいけば、ひときわ大きな岩の柱があり、その周りを松明がぐるりと円形に囲んでいた。

 円形の松明全てに炎を灯せば、浮かび上がってきたのは岩の柱に縛り付けられた女の姿。

 裸体に申し訳程度の着物を着せられたその女は、辺りが明るくなったのを感じ、小さく唸り声を上げつつゆっくりと瞳を開く。

「機嫌はどうだ? 紫音しおん殿?」

 足元にランプを置いて、いやらしい笑みを浮かべながら女に近づいて目の前に立ち、女の顔を手でゆっくり撫で回した。

 岩の柱を中心に、女の足元には円の中に六芒星を描いた異国の呪術の魔方陣が彫り込まれている。

 さらに六芒星の外側の角にはそれぞれ色の違う石が埋め込まれており、それはほのかに輝いてそれぞれの石を結ぶように光が彫り込まれた溝を渡っていた。

 女は蒼雲そううんの母、紫音しおんであり、苦しげな息遣いで悶え、岩に鋼鉄の鎖で大の字に縛り付けられている。

 口には猿轡をされて、言葉をはすることも出来ず、ただうめいていた。

「ふ、ううぐ! ……ぅぐ!」

 紫音は自らを撫で回す鷹盛たかもりを睨みつけ叫ぶが、鷹盛たかもりはただ、ニヤリと笑う。

「ククク、涎が垂れて居るぞ。あぁ、そろそろ薬の切れる時間だったな」

 鷹盛たかもりが紫音の猿轡を外せば、紫音しおんは睨みつけつつも怯えた表情となった。

 そんな表情も楽しみのうちと言わんばかりに口の端を上げた鷹盛たかもりは、懐から赤く薄い紙に折りたたまれた薬を取り出して開き片手に持ち、もう片方の手で紫音しおんの顎を掴んだ。

「や、やめ、て……」

「フッ、長年薬づけにされ、このような場所に囚われ我に可愛がられているにもかかわらず、まだ、自我を保っているとは。全く、天都香あまつかの血は恐ろしい」

「い、ぃや……!」

 食いしばり、薬を飲む事に抵抗する紫音しおん

 だが、鷹盛たかもり顎を押さえる手の指で無理やり口を押し開けて、開いた隙間から薬を流し込んだ。

 薬の赤い紙を投げ捨てた鷹盛たかもりは、更に懐から小瓶を取り出してコルク栓を弾いて開けて、紫音しおんの口に流し込んで手で口を塞ぐ。

「っン! んぐぅっ!」

 吐き出すことも出来ず行き場の無い薬はそのまま紫音しおんの喉をごくりごくりと通り体の中へと入っていった。

 鷹盛たかもり紫音しおんの喉が上下に動かなくなるのを見計らって口を塞いでいた手をどけ、紫音しおんはだらりと力なくうなだれた。

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