Case 4ー4 麻子

 私が会社を辞めて、転職してしばらく経った頃。

前の会社の同期の子から電話がかかってきた。


「もーーーーーー!!びっくりすぎてーー!!

電話しちゃったーー!!忙しいとこごめ~ん!」


びっくりすぎてって何が??

どんな状況?


「ううん、大丈夫だよ。なに?」

「絶対にびっくりするからね!あのね!

永野さんと麻子が結婚するんだってさ!!

デキ婚で!!」


えっ?

誰と?誰が?


「だから!!ね~!聞いてる?

永野主任と麻子が結婚するんだって!!!!」


いや、思考が追いつかない……

デキ婚……


詳しく聞くと、麻子が妊娠したのは、ちょうど私が誘われなくなった頃。

あの時に、永野さんと麻子がつきあってたの?

麻子は、小杉さんと結婚した時点で、もう会社も辞めていたのに……

意味がわからない。

どうゆうこと?

とにかく、度肝を抜かれた。


えっ?じゃ、彼女さんはどうなったの?

本命の彼女さん。

わけもわからず、突然現れた女の妊娠を理由に

別れさせられたの? 

いや、気の毒すぎる……

私も浮気相手だったのだから、そんなこと言える立場じゃないけど、そりゃあないだろ!!

会ったことはなかったけど、永野さんの部屋に行った時に、彼女さんとの写真が飾ってあって、チラッと見たことがあった。

守ってあげたくなるような、はかなげな印象の人だった。

10年近くつきあっていたあの人を捨てて、麻子とは……

はぁ……

なんだか、胸を締め付けられるようだった。

だけど、これは、もう 私がかかわることではないな……



 時は流れて10年後

私も結婚して6歳と2歳の男の子のママになっていた。

そんなある日のこと。

最初の会社の後輩くんとバッタリ 街で会った。

その後輩くんと会うのも10数年ぶりだというのに、すれ違いざまにお互いに、あっ!!と声を出していた。

お茶でもしようかなんて、ファミレスに入って話をした。

久々に、昔ばなしで盛り上がったところで、


「そう言えば、佐藤さんて、永野さんの奥さんと同期だったんですよね?」

永野さんの名前が出てきてドキっとした。

奥さんと、同期……奥さんか……

「うん。そうだよ」

「じゃ、知ってますかね?離婚したって」

「えっ?」


離婚?

誰と?

誰が?


「全然知らないけど。彼女が会社辞めてからは、連絡先知らないし」

「あ、そうなんすか?

永野さんち、子ども3人いるんですけど、子ども置いて出てっちゃったんだそうです。

他に男がいたみたいで、離婚になって。

今、永野さんシングルファーザーで、実家で3人育ててるんすよ。なかなか聞かないっすよね、

ママが子ども置いてくって」


思いっきり強いパンチを腹にくらったみたいに、その場にうずくまりたい感じだった。


麻子……


どこまでクズだよ!!


母親が、自分が生んだ子どもを置いて、別の男に走るなんて……


麻子は、いつでも、全力でオンナなんだな。

子どもがいようが、旦那がいようが、自分を好きになってくれる男に、情が移ってしまうんだな。

好きになったら、一直線に……


いや、何もわからないのに、わかったような口を利くんじゃないよな……

わからない……

ほんとにあなたは。



 それから、更に10年以上経った。

あれ以来、麻子の話を聞くことはなかった。

バッタリ会うこともなかった。

今、どこで、何をしているのだろう。

きっと、相変わらずにキレイなんだろうな。

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