Case 3ー1 中谷さん

 この人は、息子と同じ吹奏楽部の実希ちゃんのお母さん。

だけど、初めて声をかけられた時、誰なのか、知らなかった。


 息子が中1の夏だったか、授業参観の日に吹奏楽部が昇降口前の広場で演奏をしますので、参観後に宜しければ聴いてってくださいと、いうものがあった。

ここに集まって立ち止まり聴いているのは、きっと吹奏楽部の保護者だろうなと思っていた。

吹奏楽部の1、2、3年生の部員数で言えば30人以上。

誰が 誰のお母さんかなんて、まだ全然知らないくらいだった。


演奏が終わり、帰ろうかなと思っていたら、うしろから声をかけられた。


「佐藤さん!」

と。

「佐藤さん?」

ではなく、

「佐藤さん!」

と、確信を持って呼ばれた。

だから、知り合いだろうと思いながら振り返ると、知らないお母さん。


「輔くん、初心者なのに、トロンボーン上手だね」

えっ?

私は、この人が誰なのかもわからないのに、この人は、私の息子の名前も、楽器も知っている。

誰ですか?って聞きたかったけど、もしかしたら、トロンボーンの先輩のお母さんかな?って思った。

「いえいえ、まだ全然で、音外しまくってますよ。すみません」

と言ってみた。


「この間の、中間テスト、輔くん 良かったってね!」

は?

良かった?

ってゆうのは、うちの子の点数とか順位とかを知ってるって意味?

確かに、今回のテストは点数も順位も上がった。

点数は、462点、学年順位は3位だった。

今までで1番良かった。

点数を知っているんだとすれば、

大したことないですよ~って言うのは、イヤミになるのかな?

「今回は、頑張ったみたいです」

って、誰と話してんの?わたし。


「そうなんだね~。これからも、いろいろとよろしくね~」


じゃ!と、そのお母さんは帰って行った。

マジで、誰なの?


吹奏楽部で仲良くしているママさんに、すぐさま聞いてみた。

あの人って、誰か知ってる?って。


「あぁ、中谷実希ちゃんのお母さんだよ。

ほら、あの子、クラリネットの、髪 ツインテールの子」


へ~~~~。

小学校も同じ学校だったらしい。

娘さんも、お母さんも初めて見たって感じ。




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