Case 1ー2 林さん

 この人とは、もう会うこともないだろうと思っていた。

が、再会は私が店を辞めた半年後。

息子を保育園に連れて行った時に、保育園の園庭だった。

「佐藤さ~~ん!!」

と呼ばれた。

まさかと思って振り返ると、林さんだった。

なんで?

「どうしたの?」

「引っ越ししたからさ~、子供2人 ここにしたんだよ~」

うちの次男が年長さんで、林さんの子供は年少さんと未満児さん。

同じ保育園に入ってくるなんて……

しかも、厚顔無恥とはこのことか!ってくらい、私に意地悪されてツライってマスターに泣いて抗議した人が、同じ保育園だから、いろいろ教えてね~って言ってくるとは……

呆れた。

でも、まぁ いいや。

学年も違うし、もううちは1年で卒園するし。

と、思っていた。


だけど、林さんが引っ越ししてきた家は、うちのご近所で200メートルくらいの距離感だった。

同じ町内。

顔を合わせることも多くて、その度に私は、マスターに言われたことを思い出して、嫌な気分になった。


そもそも、林さんと私は 歳が一回り違ったし、共感できるところは、なんもない感じだった。

生まれ育ったのが、山形で、高校中退だか、卒業したのかわからないけど、友達と家出同然で埼玉に行って、水商売をしていたと。

そこで知り合ったお客さんの地元が長野で、実家の親がスナックをやっているのだけど、そこで働かないかって誘われて長野に来たのだと。

で、長野に来てすぐに、そのスナックのお客さんとイイナカになって、できちゃった結婚したのだそうだ。

それで、ダンナさんの両親と同居で新婚生活が始まったのだと、店にいる時に聞いていた。

ダンナさんは、長距離トラックドライバーで、一回出ると3日くらい帰ってこない。

林さんは、昼間子供と過ごして、夜に働く方が金になるからと、夜のシフトに入っていた。

さすがに、子供いて、水商売ってわけにいかないからと。

夜は、子供をジジババにみていてもらうのだと。

まぁ、同居だからできることなのかな~と思っていた。


それが、ダンナさんのジジババと大喧嘩をして、ダンナさんと子供2人と家を出ることになって、借家を探して引っ越ししてきたのだと。

それが、たまたま私の家の近くだったと言う。

ふ~~ん……

なんてゆうのか、行きあたりばったりの人だなと思った。

身寄りのない土地で、子育てするのは大変なことだろう。

だからこそ、ダンナの実家のサポートは有り難いものだったんじゃないのか?

それなのに、実家を出てしまったのは浅はかだろう。

それでも、持ち前の厚顔無恥で、子供みててね~ってあずけに行くのだろうか。

そうかもしれないな。

まぁ、どうでもいい。

かかわりたくない、と思っていた。




 うちの次男が保育園を卒園して小学生になり、近所だから見かけたりはしたけれど、特に話すこともなく過ぎていった。

ちょっと林さんの存在を忘れかけていた。


次男が小3になった頃、通っている剣道教室に何人か見学者が来るという日があった。

新1年生が大勢入ってくれればいいなぁなんて、喜んで行った。


そこへ見学に来た人の中に林さんがいた。


「や~~佐藤さ~~ん!!久しぶり~~」

と、ハグするくらいの勢い。

しかも、妊婦さんだった。


いや、勘弁してくれよ……

私のあとを追いかけてくんじゃないよ!と思った。

たまたまかもしれない。

だけど、こちらとしては、アナタにいい思い出ないんですが!!

って言いたくなった。

だけど、この剣道教室に、私の個人的な人間関係は関係ない話なので、とりあえず勧誘した。

何人も見学にきたけれど、やっぱりやめときますって人がほとんどだったのに、林さんは小1の長男と年長さんの長女を教室に入会させた。 


ここから、息子が卒業するまで、毎週毎週会う人になった。


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