ゴール! 3.06時間・2.71メートル ハイスコア更新☆


 ずるり、ずるり、と体が下に引っ張られている。



(生きている?)



 驚き覚醒した。四角い容器に押し込められている!辺りを見回すと同じように詰め込まれた同胞たちが



 ガコンッ



 現状を把握しきらない内に容器から滑り落ち、仲間たちもろとも斜面に叩きつけられ、そのまま更に滑る。一瞬で斜面は途切れ、そのまま湖面に飛び込んだ。



「また地獄か!?」



 大きな湖から顔を浮かべ、辺りを見渡す。辺りは眩しい光も無く、熱も無くて静かだ。時たまウゥーウゥーと風が



「嘘だろう?」



 壁を見る。白い壁を。きちんと隙間なく密閉されていて、とても開いて化け物を招き入れるとは思えない壁を。



「文字がある。同じ場所に」



 ここは、天国か?戻ってきた?いや、同じ構造の別の場所か。湖はなかった。



「誰かぁ!話せるやつはいないかぁ!」



 落ちてきた仲間たちに叫ぶ。返事はない。それでも疎らに落ちて浮かんでいる仲間たちに声をかけていく。プカプカゆらゆらと遅々として進まない体に四苦八苦しながら。



 この液体、温度は違うがあの地獄で浸かっていた時と同じものか?この液体と、この天国の空間の影響か、肉体についた細かいひび割れが修復されていく。


 私たちの体を保存するために化け物たちはこれに漬け込んでいた?



「うぅ」



「!?意識があるのか!」



 プカプカ近づいて行く。先ほど一緒に落ちた個体か。



「苦しい。体が」



「どこか割れているのか?大丈夫だ。仕組みはわからないがこの液体に浸かっていれば修復される」



 見たところ何処にもケガは無さそうだが、見えない部分がやられているのだろうか。



「……」



「苦しい。苦しい。体が」



 いや、この仲間は意識が薄い。でもこの声は確かに。



「苦しい。暑い。苦しい」



 意識の薄い仲間の、後ろ。仲間の体で隠れてしまうくらい小さな、小さくなってしまった仲間が、そこに。



「熱くないぞ!しっかりしろ!」



「新しい仲間?急に、風が止んで天国が暑くなって、仲間たちが生まれなくなって」



「風は吹いている。熱くない!仲間も生まれているぞ!」



 何故だ!何故この仲間は死にかけている!?化け物たちの攻撃か?



「……マーキュリー?」



 死にかけの仲間が俺の名前を呼ぶ。



「……ベックマンか?」



 ベックマン。ラドクリフと過ごした天国で、後からやってきた意識を強く持つ仲間、その一員だった。



「良かった。戻って来れたんだね」



「…………ああ、……そうだよ。戻って来れたんだよ」



「…溶ける」



 最期にそれだけ呟いて、それからベックマンが話すことは無かった。



(戻って来れた?ベックマンもあの後連れ去られ、地獄でこんな姿に……いや)



 いや、違う。私だ。



「私が戻ってきた?」



 天国に。天国?ここが?何だこの湖は。仲間たちはどうした。



 ベックマンの言葉を思い出す。《急に、風が止んで天国が暑くなって、仲間たちが生まれなくなって》《溶ける》



 ラドクリフの最後の姿を思い出す。それから自分の姿も。



「あの光と熱の地獄で、私たちの体は溶けていた?」



 ならば、あの、私たちが浸かっていた液体は。今、私の体を癒しているこの液体は。


《とにかく心を無にしてこの液体の中に潜っているんだ。時が来るその時まで》


 考えさせないようにしていたんだ。ラドクリフは。この液体の正体を。知ったら私は発狂して、とても平静ではいられなかったろう。ラドクリフは、自分の恐怖を殺して、私の、じゃあ、この液体は、


「仲間たちの溶けた体」



 地獄。天国と同じように過去の誰かが持ち込んで共有した概念。ここの外が焦熱地獄ならばここは、仲間たちの血肉で出来た血の池地獄だ。



「ウゥー、ウゥー」



 天国だとか地獄だとかの私たちが付けた呼び名など関係なく、ここは変わらずに風が吹いている。



 ごめんよ。ラドクリフ。これは。この仕打ちは。



「ウゥー、ウゥゥゥ」



 いや、風だけじゃない。この音は、私だ。私から発されていた。私があの時、化け物から逃れて扉へと飛び込んだから?あの仕掛けが外れるような音は、ここを一度地獄に変えるスイッチだったのか。



 自分が犯した罪をこうして見せつけて自分の心を砕くのが目的なのか。



 何処まで行っても、何処から何処まで、何処までも最初から地獄に生きていたのだ。



「ウゥゥゥゥゥゥゥ」



 肉体はそのままに心が砕かれ、自分もまた、意識を消失した仲間たちの一員になった。



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