第4話 普遍性

 あらゆる人が個性や、それを示す肩書きを持っている。限られたジャンルの中でも、そこには立場の違いが表れた。

 スーパーヒーローも例外ではない。その存在は、それぞれに異なるコスチュームを纏い、心に潜む正義を主張する。

 だからといって、『人がヒーローである事の定義』が、【コスチューム】や【スーパーパワーの有無】によって限定されることも決して無い。

 だが、あらゆる前提があろうと、悪と闘うヒーロー達には揺るぎない事実がある。


 科学者である嶺亜ミネアレンは、実験の最中に失敗をする。しばらく気絶してから研究所で目を覚ますと、彼には超人的な怪力と飛行能力が備わっていた。

 彼は自身に授かったその力を、何かしらの特別なことに活かそうと考える。しかし、その能力を制御するには、特殊な装備が必要だった。


 嶺亜は、とある噂を知る。

 彼の周囲にいる人々は、『隣の市には、奇妙な武器を持つ女性がいる。』と語る。嶺亜はその噂を聞いて、その女性が高い技術を持っていることを悟った。


 嶺亜は、mellow mistのアジトに向かう。そこで彼は、フェンネルと話していた。

「噂で聞いたよ。凄い武器を造ったんだって?」

「人は皆騒ぐけど、大した物じゃない。これは喧嘩の時に使う道具。」そう言うと、彼女は金属製のトンファーのような武器を、来訪者である嶺亜に見せた。

「これ、機械仕掛けなの。鈍器として使えるし、遠隔で動物の脳波も弄れる。用途としては、喧嘩相手に使うの。倒した後に相手がすぐ起き上がってこないように、これで眠らせておく必要があるワケ。」

「でも、なんだか変だな。暴走族って、機械に携わるイメージ無いけど。」

「私はM2の長であり、唯一無二。どんな事だって出来る。鞍威にいる限りはね。それで、要件って?」

「そのトンファーを、僕に使って欲しいんだ。」

「変わってるね。まぁ、いいけど…。」

 トンファーの柄と持ち手の間に、トリガーがある。フェンネルがそれを引くと、嶺亜は数秒耐えてから、床に倒れた。

 フェンネルの指示で、mellow mistの構成員たちは、倒れた嶺亜を別室へと運ぶ。


 目を覚まして五分後、嶺亜がいる部屋にフェンネルが入ってきた。起きてまもない嶺亜の様子を見て、フェンネルは笑顔で話した。

「貴方はとってもレア。あのトンファーを使って、自然放置で三十分。他の連中なら、半日寝るはず。それに、眠るまで少し耐えてた。」

「そうか。それで…」

 嶺亜が口を開くと、フェンネルは自身の口の前に、立てた人差し指を置く。彼女は軽い合図で、嶺亜を黙らせた。

「貴方が次に言うこと、当ててあげるわ。きっと力を制御する装備が欲しいのね。」

「当たりだよ。」

「とっておきを用意するね。それまで、ちょっと待ってて。」

 そう言うと、彼女は部屋を出て行った。


 そうしてコスチュームを得た嶺亜は、自身の力を悪党と闘うために使う。こうして、嶺亜は"スーパーヒーロー"という肩書きを得た。

 次第に彼の活動は、軌道に乗る。

 世間は実在する初のスーパーヒーローを目の当たりにし、珍しい存在である彼は持て囃され、必要とされた。

 嶺亜は、ヒーローであることを生き甲斐にしていた。もはや、彼はただの科学者崩れではない。


 しかし、ヒーロー活動は終わりを迎える。その原因は、彼自身の死にあった。


 嶺亜の自宅に、何者かが忍び込む。仮面をつけたその人物は、寝ている彼を刃物で刺す。狙われた箇所は、喉だった。

 犯人の目的は、嶺亜の死ではない。それは巻物の教えに従い、フェンネルの造った対能力制御鎧コスチュームを入手することだった。


 こうしてスーパーヒーローは、死を迎える。どんな特徴があろうと、嶺亜も所詮は人間だった。

 『コスチュームの下には、正体がある。』という揺るぎない事実。彼の死によって、世間はそれを強く認識した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る