第9話 会社員44歳 男

 今日、主人の書斎を掃除していた。

 主人は今海外出張中だ。

 こっそり部屋を覗いてみる。


 これまで主人の財布やスマホを見たことはないけど、今日は見てみようかなと、ふと思った。


 主人は遠い存在だ。

 出張を繰り返していて、家に帰ると書斎に籠りきり。

 会話はまったくない。


 早速、掃除という口実を思いついて部屋に入った。


 主人はきれい好きで整理整頓がしっかりできている。

 掃除は主人がやってるから、特に掃除する場所はない。

 ただ、自分に言い訳するために、掃除だからいいかなという体にしているだけ。


 戸棚があって、そこには古いノートが入っていた。

 ふと、黄色いノートが目に留まった。

 ちょっと引き出してみる。


『今日から交換日記しよう。こんな風にお互いの気持ちをこっそり打ち明け合うなんて、どきどきするね。親に見られたら恥ずかしいけど、ばれないように気をつけようね』

『人に見られたらいやだけど、他に方法がないから仕方ないね。思い切って書くけど、俺はつぼやんのこと大好きだよ』

『俺も大好き♡』


 俺・・・って、男?

 え・・・。


 男の人が好きだったんだ。

 そういえば、男の人だったらみんな見てそうな、アダルトビデオやエッチなグラビアを見てたことは今まで一度もなかった。


『昨日公園でイチャイチャしたのが、すごく楽しかった。もっとゆっくり会えないかなぁ・・・』

『〇〇川の河川敷だったら誰にも会わないんじゃない?蚊がいるかな』

『ホームレスのおじさんがいっぱいいるよ』

『今度うちの親が旅行行くから、その時泊まりにくれば?』


 相手の名前は・・・つぼやん。


 時々、坪井君と呼んでる。


 あ・・・坪井さんって、うちのマンションに管理人さんだ。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る