第8話 高校2年生 女子

 私は高校時代、彼氏と交換日記をやっていた。

 毎日あったことや思っていることを書き綴るだけの、他愛もない物だった。

 私たちは隠れて付き合っていたんだけど、携帯のない時代で、学校であまり喋れなかったから、交換日記を始めた。今思うと、私たちはちょっと異常だったかもしれない。


(一部を抜粋)


『今日からよろしくね。何を書いたらいいのかな。私は今日はこれからバイト。とりあえず、部活、頑張ってね』


『ありがとう。バイト頑張って』


 私はその頃、ファストフードの店でバイトをしていた。

 彼氏はサッカー部。


『昨日は、バイト先に中学校の時の先生が来たよ。先生、びっくりしてた。今の学校の先生じゃなくてよかった。バイト禁止だし』


『卒業してからも、学校の先生に会うと焦るよね。俺も中学の部活の先生見たら、隠れるわ』


『昨日、バイト先に変なお客さんが来たよ。名前と連絡先教えてっていうから、断ったら、キャンセルしますって言われた。もう袋詰め終わてたのに、帰っちゃった。店長にそのことを言ったら、怒ってたけど、仕方ないねって言われた』


『そうなんだ。変な人いるから気をつけて』


『昨日家に電話したら奥さんが出たよ。優しそうで、上品で、きれいな声の人だった。』


『家に電話しないで』


『奥さん、高校の教え子だったんでしょ?いいなぁ。先に出会ってて』


『佐千子のことも好きだよ』


『奥さんと私、どっちが好き?』


『佐千子かなぁ』


『嘘ばっかり』


『本当だよ。大好きだよ』


『昨日、奥さんに会ったよ。この日記も見せたよ。奥さん泣いてた。日曜日にホテルに行ったって話した。ホテルに置いてあったマッチも見せた。その日は先生、友達と飲みに行くって嘘ついてたんだね。私はお母さんに同じ学校の彼氏に会うって嘘ついて出かけたよ。


 今頃、お母さんは警察に行ってると思う。もし、私が帰らなかったら捜索願出してって言っておいたから。


 先生が私を殺そうと思っていること知ってるんだ。先生がこの間本屋で『完全自殺マニュアル』を立ち読みしてたこと、他の生徒が見てたんだよ。


 先生は自殺に見せかけて私を殺そうとしてるんでしょ?先生は卑怯な人だね。2人の女を不幸にして、自分だけいい思いしようとして。私、先生と付き合っていたこと、友達に話してるんだよ。最初からずっと。先生が私に居残りをさせて、その時、触って来たことも。


 私を殺したら、一番最初に先生が疑われるよ。私が殺されたら、先生がやったと思ってって、友達に言ってあるから。


 私は死にたくないから、今から警察に行くつもりだよ。先生には自分がやったことを一生かけて償ってほしい。それか、奥さんと別れて、私と結婚して。

 結婚してくれたら、警察行くのやめてあげる』


 私が書いた日記を先生は眺めて、「ちょっと考えさせて。もう、交換日記やめよう」と言った。

「いや。やめたら、お互いの気持ちがわからないでしょ?」

 

 それが先生を見た最後だった。

 先生はその後、公園のトイレで首を吊った。


 実は、私は先生とのことを誰にも話していないのに。

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