第47話




 竜たちが踊るように昂るように飛んでいる。

 その中心、浮遊島

 そこにアナスタシアが黒備えで横に竜の首のような兜を携えていた。

 黒が羽やツノの赤をより際立たせている。

 隣には天使族の者たちがこちらは白で身を包みこんで頭には竜の兜をつけていた。

 天使族の誰もが竜の兜をつけているのは、ここに竜人族もいるからだろう。

 彼ら竜人たちもずっとひっそりと穏やかに何千年も暮らしてきたという。

 もちろんその中で迫害、密猟などもあったらしい。

 その苦汁を何度も何度も噛み締めていただろう。一人で立ち向かったものもいたらしいが多勢に無勢だったのだろう。立ち向かったものたちは帰ってこなかったという。

 ここにいるのは今回自分たちの一族の親戚である竜たちが参戦すると聞いて「いざ、我らも」ということで自ら志願したものたちだ。

 そして彼らと対面する形でイザベラはそれを見ていた。

「竜王様」

「竜王さま」

 そう部下に持て囃される兄を見る。

 イザベラはムッとした顔で見ていた。止めたい派だからだ。

 こういう顔をしてもそういう場面だから誰も何も言わないだろう。もしかしたら、真剣な表情になってるかもしれないし。と若干いらいらしながらイザベラはこの場にいた。

 ――また、止められないと言うこともわかってるけど…

 兄アナスタシアをどうにかしてとめようとその双子の弟であるイザベラは考えていた。イザベラがあれやこれやと考えている途中で、声がかかった。

「イザベラ」

 どうやら上手いこと部下から少し離れて来たアナスタシアが声をかけた。

「フローゼさんの事は聞いたか?」

「ああ……うん」

 それを聞いて更に気落ちしてしまう。本当の意味で人間はもちろん、獣人や魔族でさえ救済の手を差し伸べていた女性、フローゼを思い浮かべた。

 救済として建て彼女を聖女として讃えていた教会によって行われていた。人体実験。騎士団にいるとき、たまたまその組織と戦うことはあった。どういう名前だったかイザベラは忘れてしまったがその組織が行っていた事を今まで彼女は知らず救っていた。

 その裏の顔を見。更に今まで関わった者たちの慣れ果てを見て、壊れたと聞いていた。

「今、どうなの?」

「遠くの地でゆっくりさせているよ。ふふ……残念だったな。エリザの恋実らずかあ」

「もー。やめてよ」

 戦いの前のする会話ではないが、この中で上手いこと止められないかと思いながら次を待つ。

 しかし、沈黙のままアナスタシアがたちあがる。

 止められないのはわかっているのでせめて、と自分の力で作った魔石が括られているネックレスをわたした。

「お、選別か? 受け取っとくよ」

 緊張を表に出さない兄にイザベラは自分がおかしいのかと思ってしまった。

 色々と言いたいことがありすぎて逆に何も言うことなくそれを差し出した。

 藍色に光る宝石をかけて、そういって羽ばたいていった。イザベラはその影を目でずっと追いかけた。

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