第49話




 あれから竜がいなくなり、◯竜の国と呼びあっていた国々は新たに国名を表記したりその竜の名前を拝借した。他にも獣人と交流したりと徐々に、ではあるが変化していった。

 そんな中。イザベラは学校から帝都の病院で医療班として来て、従事していた。

 人々を治しながら空き時間で兄を探していた。

 魔石となっていてもとりあえず探したいと言う気持ちがあった。帝国の病院に来たのも、学校からの指示と一応戦地のほぼ下だったから。


 帝国側の騎士達は知らない人ばかりだったが、教会の方は短期間ではあったが、騎士団に入っていた時期があった。そのため「あれは……」というものも多かった。

 だから兄とは言わず「竜たち、どうだったの?」

 外堀からせめていく。

 こうして聞いていくときっとたどり着く気がして。

 

 漸く聞けたのは、フローゼとよく働いていてイザベラも一度なった四天王でいたという女騎士だった。

 彼女も生きている事が意外だと言いながら既に帝国側の騎士として働いていた。イザベラは顔だけ知っていて、医療班として「流石に復帰は早すぎるよ」と忠告した。

 天色の髪をした騎士が後頭を掻く。


「その竜王様のおかげで今はもう体内の魔石は無いせいかまだ動き足りない。力はまた追々取り戻すつもりだ。……で、話をしたいんじゃなかったか? 診察なら他のものを頼むよ」

「あっ、そうじゃなくて……聞きたいことがあるんだ」

 

 おかげが嫌味に聞こえた気がした。

 それは置いといてその竜王の件を問いただしたいだけなんだけど、と途方に暮れていると

 

「ならちょうど静かで景色のいいところがある。そこで話さないか?」


 ちょっと威圧的だけど、姉御肌な騎士に連れられて鍛練場と王城の付近の庭園へと案内されてきた。手入れされた大紫躑躅ツツジを抜けて、丘に入る。

 更に奥に入って行くと多種多様な花が咲き誇っていた。

 聞くところによると皇族が祝いなどで貰ったが趣味や季節、装飾に合わなかった花々。

 それらが色とりどりに咲いていた。

 その中にぽつんと休憩所があった。

 隠されていたかのように現れたのでイザベラは一応聞いてみる。

 

「ここ、大丈夫?」

「確かに貰い物の花を植えていると聞くが、人はあまり来ない。それにここの他にもいくつかあってな。秘め事の場になっているよ」

「そ、そう?」

 

 予約制とかかな? とそのまま食い下がった。

 席に着くと早速女騎士から口を開く。

 

「先の竜の件だったな。随分苦戦されたよ。私も力を失ったからな。正直、騎士団側もぼろぼろだ。しかしまだ余力はある。それに王のいなくなった国のほうが建て直しが大変だろうな」

 イザベラは頷く。

 大昔。いや神話からいたとされる竜たちがほぼ消えたことでどこもてんやわんやだと聞く。中にはこの混乱に乗じて隣国に攻め入ろうとする国もあったみたいだ。

 

 ――ナーシャや竜はこれを狙ったのかな。

 でも魔石に侵された人を助けていたし……。

 それともわざと魔石を散らばらせることで安寧を願ったのかな。

 皆まで口にしてくれなかったので真意は分からず仕舞い。

 

「ある意味冒険者たちがまた活躍するんじゃないかな。どっかに散らばった竜の貴重な魔石を求めて、さ」


 それは少し複雑だった。

 ただ、獣人解放だったりはし始めているらしいし、騎士団が被ったおかげで変な組織が出ていないらしいのが救いだった。

 どこかで生きている。

 ナーシャの足取りを辿ってまた旅でもしよう。

 そう信じて貰った赤い石を握りしめた。

 

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