第30話

*大樹の下で小さな夢を*



 イザベラが通う学校。

 大昔ここは、流通の関所、ちょうど多くの国が重なる国境だった。


 そこを守るように木の竜が佇みそこは一つの都市のようになった。

 今では、一つの小さな市国となり、学校が国という特殊な国であった。

 

 また、金銭も元が流通の要の場所のため運営に困らず、生徒も無償で学ぶことができ、貧困も階級も問わなかった。


 在学中や卒業後その恩を周りに返したらいい、というのがこの学校の方針。

 現に富裕層からはもちろん貧困層からも名だたる大臣、冒険家や他の分野からも有名人を輩出していた。



 その学校の建物が並ぶのを大樹の上からアナスタシアが眺めていた。隣には幽霊のように半透明な人型のものが浮いている。


 「弟君の授業参観かな?」


 「まあそんなところ

もくさんはそのなりでいつも下に行っているのか?」


「うん」

 と、返事をしたもくさんと呼ばれた。その幽体のもの。彼こそがこの学校の礎になった木の竜であった。



 この竜は戦いになったら、どうするのか

 と初対面の時そう思っていたら、

「ぼくはご一緒するからね

 ここはもう人間の理事長とかに任せてるんだ」と、遠い目をしたのをアナスタシアは今でも覚えていた。



 また自分より大体の竜が長寿であり、国を築いているという尊敬から竜には敬語を使うようにしているアナスタシア。


 以上のことがあり尊敬した上で、初対面でアナスタシアが敬語を使おうとしたら、


「めっ」

 と、なぜか怒られたのと、

 「木竜、さん?」と呼ぶとまた


「も、く、さ、ん」

 と、呼称さえも強制されたので、言われるがまま今に至る。中々喋りの多く、今もアナスタシアに語りかける。


 「下に参観に行くときは

さすがに実体化はするよ」


「へええ…」

 と、アナスタシアが空返事しているのに気づかないのかさらに


 「ぼくの生徒たちがさ、頑張っているのこっそり幽体で行くのもいいけど…学長に無理行って臨時職員としていくのも乙なものだと最近気づいてさあ…

 最近の通信系の魔石タブレットだよ?見た目ぺらっぺらなのにちゃんと機能したし透明だし洒落てるよね

 でもやっぱり…

 き、聞いてる?」


 そう尋ねるもアナスタシアは弟がある一棟から出てくるところがみえたので、


 「ああ、そうだな」

 と空返事。

 それを竜の方も察したようで話題を変える。


 「そうそう、君の愛する弟君は医学科で優秀だって噂さ

声かけたい文系の子たちからも他の子たちからも避けてるみたいだけどね」


 「医学?

考古とか冒険系かとばかり…」


 「君のことがあるからじゃないかな

てか知らなかったんだね

 君が鬼人かもとか、思ったり

 安定剤とかお兄ちゃんに合ったものを探したんじゃないかな?」

 と、反応があって少し嬉しそうな竜。


 「まあ、薬がどうのは聞いていたし…

うーーん」


 やっぱりうれしいのかい?

それとも…あ


 木の竜の質問を最後まで聞かないうちに、アナスタシアは浮遊の魔石がついた機械に乗ってイザベラのところまで飛んだ。

 

 –––魔石付きの機械はあまり使いたくなかったが…

 飛ぶと他の者の目もあるしエリザには迷惑はかけられないので仕方ない

 そう思いながら一直線に行った。


 案の定目を丸くするイザベラ。

 学校に兄が来ているとは知らず、しばらく「え?え??」と固まる。そんな混乱の中


 あ、角とかは隠してるんだ

よかった

 と、そこだけ冷静になっていた。イザベラを見下すように見、


「俺は聞いてないんだがな…

学科…」


 少し怒ったようにアナスタシアが伝えながら、そこから飛び降りて改めてイザベラと向き合った。その乗り物はまた自動的に戻っていった。

 それを目で追いながら、


 –––それで怒ってるのか…というか来てたんだ

……どうやって来たんだろ

 


 と、若干現実逃避してしまう。はっとして周りを見渡すとこちらを見る人が多く慌てて、


 「こ、こっちにいさん…」



 



***





 いつもの図書館、その奥死角となっているお気に入りの場所に移動してイザベラが話し始めた。


「ぼくの天使族の魔法の能力…

多分回復だと思うんだ」

 と、イザベラ。「急に何を」と、言われる前に


「ほ、ほら!あの時‼︎

ぼくナーシャの血毒効かなかったでしょ?」


 兄が口を開こうとする前に、続けて、

「だから、ナーシャが竜たちと獣人と人、共存のために頑張ってるし…

 ぼくも頑張ろうかなって‼︎」


「前ね?

天翔さんに『おまえはこいつら側近のイフリートは治せるか?』って聞かれて」

 と、声音と仕草を火竜のそれを真似る。


「元々人間なんだね?イフリートさんたち


…で、血を与えてみたら、元に戻っちゃって

 でも、『元に戻してくださいーー‼︎‼︎』って。火竜さんがため息ついてまた戻してだけど」


「まあ、元は罪人を処断するため、人間を化け物に、らしいが

 火竜に仕えたいがためわざとって奴ばかりだと」

 と、補足すると「へー」と、返される。


 イザベラの息もつかない弁解が終わったのを皮切りに今度はアナスタシアが対抗する。


「それは火竜の問題だから置いといて…

 能力開花は嬉しいが黙ってたんだな

医学の方に行ったのもそのためか?」


「…鬼人はどうだ?

 いや、イフリート治せるならいけるか


 おまえが貧血にならないように、解析して、薬をつくれよ

で、おまえが彼らを治療できるようになったら

 おれは世界のお掃除をしに行こう」


 イザベラの口を開かせないアナスタシアの話にイザベラが


 ??とすると同時に、

 –––あ、鬼人がいたら都合いい人たちのことかな

 と、察する。そして、


 「ぼくのことは許してくれたの…?」

 と、にっこりし急に抱きついた。


 夕陽に抱かれ、呆れながらもそれを払い退けることはしなかった。その兄がチラッと微笑ましく眺める竜を見つけてはあとため息をついた。

 しかしその表情は少し嬉しそうだった。



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