第46話


*灰燼に舞う*



 

 

 ずっと夏かよ…

 いや、ここだけはこのままで…

 と、火の竜らしいといえばらしい国に着く。

 自分の住む地、浮遊島がちょうど近くだったから。というのもあって自ら飛んできた。

 おかげで、汗だく。服が肌に張り付いて気持ち悪い。

 

 ……はあ

 景色はいいんだがな

 と、呟く。

 遠くに見える火山帯も、それによってできる島々も、自然が生んだ美術品の様に美しくはある。

 

 その内の一島の浜辺に目的の竜が一応人に変身して寛いでいた。火を司る竜らしく、従者も含め部分部分燃えていて、人型といえど、物理的にも近寄りがたい風貌だ。

 それに似合わず気さくに、

 

「おお‼︎竜王殿どうしたのかな」

 と、久しぶりに火竜に『竜王』と呼ばれたアナスタシアが、

 『竜王』の単語に若干皮肉が込められているのを気にしながら

 はいはい

 と、適当に返事をする。

 

「そう、邪険にするな

 本当に尊敬の意を込めているのだぞ?」と、火竜。

 

「前任のシェン……邪竜に対しても」と、悲しそうに、懐かしそうに火山に燃える空を見る。

「もちろんおまえもな」と、付け加えられる。

 そして、「大変だな」「良い子良い子」「労ってやろう」と、頭を撫でられる。子供扱いは嫌なので、

 

「やめていただきたい」と、諌めておく。

 

 ただ、こう言う砕けた所があるから

 この竜は憎めない

 と、思いながらちょっとした土産を渡す。

 

「つれないな」と言いつつ、 と、側近のイフリートに盃を二杯受け取り内一つをアナスタシアに渡す。

 

 「……待てこれ、おまえの毒じゃないよな?」

 

「さあ?味見してみては」と惚ける。

 

 注ぎながら、

「竜王様の冗談はキツイ」と、火竜。

 

「ふふ、それは竜人族のものです」

 

 アナスタシアが次に「戦い…」と言うよりも先に「参戦はせんぞ」

 と、ワインを受け取りながら、告げる。

 

「おまえに、シェンに役割があった様に、俺も役割がある」

 

 「まあ、座れ」と、付き人たちに火の粉や日差しから避ける傘や椅子などを用意させる。そして、先程の仕返しのように

 

「そうでしたね、墓守殿」と、アナスタシア。

 皮肉を返した訳ではなく、尊敬を。


「うむ、まあ……

 一人は寂しいが、

 俺も戦いにいっては……

 皆の墓守を一体誰がするというのだ

 

 亡き竜たちを俺は忘れぬからな」と、火竜。

 

「……ただ、そろそろ親の子離れも必要なのは分かる」と続ける。

 

「ああ、俺も……俺たちは用済み……なのでさっさと退散しないと殺されてしまいます」

 

「??」と火竜がよくわからないと言う顔をする。

 

 えっと、前にエリザから聞いたんです

 そういう諺があると……、

 なんだったか

 

 追う獲物がいなくなったら走狗殺されるとか、そういうものだったと思いますよ」

 

「その言葉嫌いになったぞ」

 

 すぐ怒る火竜に、

「ふ、まあまあ」と

 後は弟に丸投げするつもりですし、」


「邪竜シェンも満足だろう」


 ——もう消えるだけ

 と、心の中で彼の竜が答えた気がした。

 

「じゃあ、また暴れてきます」

 

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