第42話

*西方に偲ぶ*


 

 

 『……そうして、竜たちは自ら国の礎となった。

 

 それはきっと、人間たちの人生、生活に恋焦がれたからではなかろうか』

 と、イザベラが読んでいる本に書かれていた。

 

 

 …だから『契約』——魔石なしで魔法が使えるもの——と言うものがあるのかな

 だから、雌雄型があるのかな

 夫婦みたいにカップルの様に組める様に……


 そういえば、帝国の宰相と忌竜もそうだったっけ?


 でも前にナーシャから聞いた天竜は男性の契約者だったかなぁ

 と、この本を読みながらそうイザベラは思った。

 

「うーーーん」

 と、考察していると、

 ガタガタと窓が鳴る。

 

 本を閉じたタイミングでアナスタシア、イザベラがナーシャと愛称で呼ぶ双子の兄が何体かの竜と共に帰って来た。

 

 帰ってきたはずの兄が一向に顔を見せに来ないので、チラッとイザベラが窓の外を見ると、また飛んだり今度は取っ組み合いしたりと「訓練かな?」と、眺めた。

 

 ——確か、どこかの遺跡に行くって言ってたなぁ……行きたかったな

 と、むっとする。

 

 そういう本があった気がする

 と、また本棚を漁る。自室は昔から本しかない。両隣本棚。

 

 イザベラは

 本の匂いが好き。

 資料の匂いが落ち着く。

 そんな感じで昔は大して読みも知らない言語のものさえあったのを懐かしむ。


「あった……」

 

 今日アナスタシアが行く前に、「瑠璃色の竜のお墓参りだ」と、言っていた事を思い出し、目次から確認して開く。

 

 『————蒼玉の竜と同様、今は滅んでいて、国の跡地は瑠璃色の川と呼ばれている

 …………その国は海と川の境界線あたりにあったからだ。今も川底で煌めきを……』

 と、書かれていた。

 

 ——珍しいな

 竜、国の礎となっている者たちの魔石は特に。放置すると暴発して最悪災害級のものになってしまう。

 

 だからこそ魔石という方法や獣人たちの歌などで昇華させていた。

 そういう意味だと瑠璃色のそれは特に何もないようでだからこそ「珍しい」と、イザベラは思った。

 

「……ナーシャやぼくどうなんだろ」と、獣人種らしくつい死後の自分の魔石が気になってしまう。

 イザベラがそうして妄想していると、

 

「わっ‼︎」

 と、背後から声がかかった。肩がビクッとなり、持っていた本を落としてしまう。

 犯人は一人な為、

「はあ」と、落ち着かせる様に息を吐いてから、

「……ナーシャ」と、本を拾いながら己を驚かせた人物を声音と名前だけで叱責する。

 

 「そう怒んなよ」と、笑いながら本人アナスタシアが弁解するように言った。「冗談も通じんの?」

 

 「何の本読んでたんだ?」と、イザベラの怒りが落ち着いたのを見て、アナスタシアが聞いた。

 

「ん」と、表紙だけアナスタシアに確認させて、「ああ、竜のことか」と、納得させた。

 

「本人たちに聞いてみたらどうだ?

 そろそろ休憩するだろうし……」

 

「いや、もしぼくが死んだらどうなるのかなって

 あ、ほら獣人も魔石化しちゃうからお葬式の時歌うんでしょ?

 だから……、ナーシャはどう?」

 

「死んだ後?

 あーーー、以外と魔石になって、見守りたいって言うのもあるな

 あの瑠璃色の竜のように、な」と、アナスタシア。「おまえの時は歌ってやるよ」と、続けた。

 

「それは寂しいよぅ」と、口を尖らせる。

 

「ははは、じゃ花の方?かな?」

 

「そういう意味じゃないってば‼︎」

 と、方や拗ねながら、方やは笑いながら死後を思った。拗ねた方は、

 ——ナーシャの考えてることは、

多分もう止められないけど

 できたらこのまま平和に……

 と、願いながら。

 


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