第7話 前進停滞説明会

「そお~いやお前の名前なんて言うんだ?」


「名乗るときはまず自分からって習ってない?」


「めんどくせえー奴。俺は荒神昇ってんだ」


「それ本名? なら止めた方が良いよ」


「ハア? なんでだよ」


「こっちの世界で本名知られたらさ、元の世界に戻った時に面倒なことが起こるかもしれないし」


「面倒?」


「こっちの世界じゃ元の世界ではできなかったようなことが簡単にできる。向こうから悪質なストーカーとか、犯罪者とかが転移されてるかもしれない」


「犯罪者ねえ。関わるとどうなる?」


「人にもよると思うけど、凶悪犯は怖いよ。なにせ何してくるか分からないし。もしスキルが元の世界に戻っても使えたら、そいつらの恨みをかったら、その時に自分の本名が知られてたら……もう分かるでしょ?」


「んいや全然」


「……まあだから偽名を名乗ればいいと思う。さっきのは聞かなかったことにしてあげるから」


 俺は痛みのひいた体を起こす。

 本当にスキルとは不思議なものだ。怪我が早く治っている。


「んじゃあ俺の名前は……」


 名前、どうしよっかなあ。

 偽名ってなんかスパイみたいでかっけえなあ。つってもなんも出てこねえな。


 ノボルの反対でクダルとかどうだ? いや、なんかクダルって弱そうだなあ。

 んーむずいな。


「俺名前まだ分かんねえから言えねえや」


「……やっぱりアンタって変。まあいいや、あたしはアサって呼んで」


「朝が好きだからか?」


「違う。私のクラス、暗殺者アサシンだから、最初の二文字をとったの」


「なるほどなあ。んじゃあ俺はバーサーか? クソだせえな!」


「まあ適当に考えたら?」


「めんどくせえしやっぱノボルでいいや。犯罪者だろうが変態野郎だろうが全員ぶっ飛ばせば一緒だしな」


「すっごい馬鹿。脳筋。アホ」


 まあなんとでも言うがいい。

 俺はいずれ最強になって全部ぶっ壊すつもりなんだ。そんなちっせえ小者にかまってられるかよ。


「じゃあさっそく登ろうぜ。というかここ何階まであるんだ」


「さあ。ダンジョンは外見と中は異なっているから判断できないのよ」


 俺は体を起こし、腕をぐるぐると回す。


「よし、俺はもういけるぜ」


「凄い回復力ね。あたしほとんど何もしてないのに」


「お前が回復してくれたんじゃねえのか?」


「う~ん傷は止めたけど……」


 彼女はしばらく頭を悩ませていたが、すぐに元に戻った。


「ま、いいや。神器取った後はあたし関係ないし」


「そーだなあ。ま、目的だけの使い捨ての関係で行こうぜえ。俺あ友達とやらを作るのはもうごめんだからな」


「……友達と何かあったの?」


「俺に友達はいねえよ。友達だと思ってた奴らしかいねえ。もう空しい思いしたくねえからなあー」


「ふ~ん」


「聞いたわりにずいぶん興味無さそうだな。まあ俺の話なんてどうでもいいか。んじゃあさっさと登って行こうぜ」


「そだね。早くこのクソゲーを終わらせないと」


 俺とアサは、俺がぶっ壊した扉の前に立つ。

 だがここで一つ、俺には疑問が浮かび上がった。それは、


「お前、どうやってあいつらから逃げてたんだ? 部屋ん中は狭くてとても逃げ切れねえだろ」


「ああ……スキルを使ったのよ」


 直後、アサの気配が

 周りを見渡してみるも、忽然と姿を消してしまった。もしかすると透明になるスキルなのだろうか。


「ばあっ!」


「うおっ! いつの間に後ろに!?」


 驚くことに、アサは俺の後ろに立っていたのだ。

 もちろん後ろも振り向いたし、全方位を確認した。ということはやっぱり、彼女のスキルは透明化なのだろうか。


「あたしのスキルはって能力。見えなくなるわけじゃないけど、認識しにくくなるの」


「……ア~? よく分かんねえな。見えるけど見えにくくなるってことか?」


「簡単に言えばそういう事ね。正面切って戦うんじゃなくて、裏側からサクッと倒すって感じのスキル」


「じゃあ全員ぶっ殺して三階に行きゃあ良かったじゃねえか」


「数が多すぎて相性が悪かったの。スキルは体力もマナも使うんだから」


「へええー……なあ、マナって何?」


「あたしら中々前進しないね」


 アサは軽くため息をついた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る