第6話 八割
あれえ? よく考えたら逃げれば良かったんじゃねえ? そうじゃん、逃げたら駄目なんて一昔前の漫画で終わってる文句っつーのに。
「さて、どうやって攻略しようかね……痛っ!」
「あ、動くなよ。本気で死ぬから」
「いやいや、俺がこんなんで死ぬかよ。つーか誰だお前」
俺は横たわったまま動かない。いや、動いたら痛いので動けないの方が正しい。
俺の目線の先には、前髪をヘアバンドで上げているショートカットの少女がいた。
ここもテンプレかよ。
「いやあ、助かった助かった。実はあの部屋で閉じ込められてて困ってたんだよね」
「は? 逃げればよかったじゃん」
「そりゃあ逃げれるならそうする。でも部屋に入ったら入り口の扉が閉まってさ、出れなくなっちゃって」
「クククッ、文字通り袋の虫だなあ」
「袋の鼠、ね。アンタが入り口の扉をぶっ壊してくれたおかげで私も逃げられた。幸いあいつらは別の階層には来ないようだし」
すると女はきょろきょろと周りを見渡した。
「アンタ結構強いのね。ゴブリンを全員倒すなんて。……あんたの性格さえ良ければ完璧だったんだけどなあ」
「おいおいそれは聞き捨てならねえぜ。俺ほど完璧な奴アいねえぞ~」
「なわけないでしょ。少なくとも袋の鼠も言えない人が完璧な訳ないって」
「器のちっせえやつ」
「この……言わせておけばっ!」
すると女はずかずかと俺の方に歩いてくる。だが俺は動けないので、横たわりながら見るだけだ。
「確かにあたしはアンタに助けてもらった。でも言っとくけど、アンタもあたしに助けてもらってるからね」
「ほーほう、例えば?」
「む、ムカつく……! アンタを二階から助けたり、その後傷口をふさいで手当したり」
確かに、よく考えてみれば傷の周りに包帯が巻かれてある。右肩、横腹、あとは恐らく背中にも。
だがそれにしても傷の治りがはやいような気がする。痛みはあるが、傷口はふさがっている。
「ああ、あたしのスキル使ったの。簡単な傷なら治せるから」
「確かに傷はふさがってるけどさア、痛みは消えねえのな」
「わざとよ」
「わざとお~?」
女は俺の傍に座り、口角を上げた。
「女の一人旅って怖くてね。警戒はし過ぎるくらいがちょうどいいの」
「お前……意外と頭いいんだな」
「そりゃあアンタ、普通に頭おかしいし一見すれば盗賊だし」
「冗談よせよ。こんななりでも一応勇者だぜ?」
「追放された?」
「何で知ってンだよ」
「こんな街はずれのダンジョンに一人で来るなんてそうとしか考えられないしね」
「訂正させろ、脱走してきたんだよ。あいつら理不尽に俺を牢獄に入れようとしてくるからな」
すると女はキョトンとした。
が、すぐにこらえきれなくなったかのように、お腹を抱えて笑い始めた。
「アッハッハッハッハッ! 面白い、面白いねアンタ! ねえ、提案があるんだけどさ、あたしの神器取るの協力してよ」
「神器い?」
「あ、そうか。こっちの世界の義務教育受けてないのか。まあ簡単に言えば特定のクラスが使うとめっちゃ強くなる武器、って感じ」
まあそりゃあ強くなれる武器があるなら誰だって欲しいわな。
「なるほど。だが断るっ」
俺は顔を渋くさせる。
「なぜなら俺に利益が無いからな。俺の夢は自由であることが第一条件。女も必要だけどよ、俺が求めんのはタッパのある胸の大きい女だ。お前真逆じゃねえか」
「ようし、殺す」
「待て待て待て! 嘘嘘、嘘だって! 俺あお前みたいないい女見たことねえ!」
「……はあ、まあいいや。でも、もちろんただじゃないよ? そうだなー、神器は私が貰うけどさ、他の報酬の八割でどう?」
「俺二割しかもらえねえの!? とんだぼったくりじゃねえかっ!」
「逆よ逆。私が二割で、アンタが八割」
八割? そりゃあ金とか財宝とかいろいろもらえるってことか? すげーたくさんもらえるってことか?
「……お前良い~奴だな。そんなにくれるなんてよお、俺あお前について行くぜ」
すると女はにっこりと笑った。
「よしっ、じゃあ決まり! 実は私の探してる神器は、このダンジョンのボスが持ってるって噂。というわけで協力して頑張りましょ」
「神器に興味はねえけど、お宝は八割きっちりいただくからな」
「分かってるって」
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