第5話 先駆者

「しゃあねえ。次の階に行くしかねえかあ」


 俺はため息交じりで力なくつぶやく。

 例えるなら、楽しみにしていたプリンを無くした感覚に近い。


「ったく器用な奴だな。敵と戦わずにお宝だけ取ってくなんてよお」


 階段を上っていくと、またもや入り口の扉と酷似した扉が現れた。

 扉に手をかけ押し開けようとした。だがびくともしない。


 力を入れて押してみても、体当たりしようとも中々開く気配が無い。


「あア? 鍵かかってンのか?」


 その後も数分、押したり体当たりを繰り返したが、結果はいずれも同じであった。体の節々が痛む。


「チッ、さっそく一つ使うか」


 俺は戦利品の斧を振り上げる。他の拾った武器は、槍はベルトに差し込み、弓と矢は肩から下げている。


「っらあ!」


 勢いよく扉に向けて斧を振り下ろす。

 予想では、木製と思われる扉は簡単に砕け散るはずだった。


 そう、はずだったのだ。


「痛ってええ!」


 勢いはそのままに、ぶつかった衝撃の反動で大きく弾かれる。

 さらに体勢を崩し、先ほど槍に貫かれた横腹の傷が広がる。


 広がった傷口から血がにじみ出し、俺は扉の前でうずくまる。


「クッソムカついてきたぜ……。まずはテメエを本気でぶち壊してやるよお……」


 再び斧を振り上げる。そして今度は、スキルを使うことにした。


 斧が黒く染まっていき、体中に力がみなぎる。


 え? 呪文を唱えないとスキルが発動できないんじゃないかって? 

 別にそういう訳ではないみたいだぞ。心の中で唱えたらいいらしい。まあここぞという時に叫ぶことにするわ。


「砕け散りやがれっ!」


 するとバリバリッと大きな音がすると同時に、木製の扉は中心から砕けていった。そして斧にも赤色の亀裂が走り、数秒でバラバラに砕けてしまった。


「あーあ、一番強そうだったのになー。もったいねえ」


 だが無くなったものをどうこう言っても意味がない。


 という訳で気を取り直していくか。


「お邪魔しますよ~っと。……暗えなあ」


 二階に来たものの、真っ暗でほとんど何も見えなかった。

 てっきりまた化け物と暴れると思っていただけに、期待外れ感は否めない。


「お化け屋敷でもすンのか?」


 すると物音がし始めた。


 カタカタ カタカタ カタカタ


 それは中に入った俺の周りを囲っていくようであった。

 そろそろ目が暗闇に慣れてきた。


 周りを囲っていたのは、なんと人型の骸骨であった。


「うわっ! 気持ち悪りい!」


 骸骨たちは皆、手に剣やら槍やら武器を持っており、殺意満々といった感じだ。


 俺は骸骨どもを見て口元を歪ませ、笑った。


「結局また戦うのかよ。宝物だけくれたらあよお、痛い目合わなくて済むぜ?」


 が、言葉が通じているのかいないのか、骸骨たちは俺を亡き者にしようと一斉にとびかかってきた。


「ハハッハァ! んじゃあ全員まとめて死ね!」


 俺は槍をベルトから引き抜き応戦する。

 だが相手はこの数だ。このまま普通に戦っていても、いずれ体力が切れて殺されるだろう。


 なら最初っから全力だ!


 槍を強化し黒く染まっていく……が、途中で変化しなくなった。


「……ア?」


 直後、骸骨の投げた槍が、右肩に突き刺さった。

 突き刺さった部分から血が流れ出る。


「ぐっがああああああっ!」


 やばい、右腕に力が入らない。そしてなぜかバーサーカーのスキルが使えない。

 それに出血のせいなのか、めまいがしてくらくらする。


「んの野郎っ!」


 槍を左手に持ち替え、ぶんぶんと振り回す。が、あまり意味はない。後ろから来た骸骨に対応できず、背中を斬られた。


 出血が進み、息もしずらくなってきた。逆に痛みが少しずつおさまってきた。


「……死ぬ」


 ここで死ぬ? まだ夢をなにも叶えてないのに? じゃあ牢獄にぶち込まれても一緒じゃねえか! まだ死ねるかよ!


 槍を握りしめ、最後まで抵抗する。


「お前らにやあ俺の命はやらん」


「すごんでるところ悪いけど、アンタそろそろ死ぬよ?」


「……あ? 誰だ?」


 するとどこからともなく現れた人影に腕を掴まれ、一瞬のうちに一階まで引っ張られていった。

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