最終話:借金再び

 王都へ戻って数日。

 華々しい凱旋パレードと共に、ヴァネッサとエルクの受勲式が執り行われた。

 エリトリア王家として以前から把握していた古炎龍についての話は闇へ葬り。

 いきなり現れた巨龍を倒した勇者たちとして、戦いに加わった者たちの名前が読み上げられ、イヤイヤ使役テイムされながらも頑張った魔獣たちも称えられた。


「いやぁ、達成感凄いですわねぇ!」


「借金も返せましたしね! これから村でのんびり出来るといいんですが」


「領主の仕事って、のんびりできませんのよねぇ」


「あはは、ヴァネッサがいるんで心配してないですよ」


「まったくもう……さぁ、堂々と胸を張りましょ!」


 キンググリフォンの背から大きく手を振って、英雄となったヴァネッサとエルクが歓声の中を歩く。

 街道に作られた屋台村で食べ歩きをするアウローラを見て思わず笑顔になって、彼女の支払いをするミラと、横を歩く老人に微笑む。

 操者互助組合テイマーズギルドの人たちや、アディル村からわざわざ駆けつけてきた村人たちにも祝福されて。


「エルク! ヴァネッサ! 色々おめでと!」


「母さん! 来てたんですか!?」


「ライラさん! これからもよろしくですわ!」


「借金、マルカブ様から受け取ったわよ」


「じゃあチャラですわね!!」


「そういうこと! 好きにしなさい、ふたりとも!」


 エルクの母ライラの前で立ち止まり、少し言葉を交わした。

 お墨付きを貰った二人は心から笑顔を浮かべて見つめ合い、抱擁を交わし。

 凱旋を終えるとすぐに、アディル村まで舞い戻った。

 


――一ヶ月後



”ヘクトル王子、ご成婚おめでとうございます!!”

”アルゲニブ国王陛下、古代遺跡の発掘調査に亜人の協力を要請”

”古炎龍の眠る地、今後立ち入り許可の見込み”


「はぇ~、結婚したんですのねぇ。それと、タルヴォさんやテンキさんが視察に来る……と」


「ドタバタして挨拶しそびれましたし、アウローラさんも連れて会いに行きたいですね」


「ですわねぇ」


 せっかく貴族に戻ったのに、住んでいる家は変わらず。

 首枷も壊せたし、商売を再開しようと思った矢先に悲しい事実が発覚したヴァネッサは、ゴロゴロと転がって新聞を読んでいた。


「僕たちの式っていつになるんです?」


 書面の婚姻自体は交わしたし、彼女もエルクもアディル子爵という家を授かった。

 しかし、なんかこう結婚式とかやってみたいなぁと思っていた彼に、彼女は悲しいため息をついて返答する。


「アウローラが起こした嵐でぶっ壊されたとこの、修復が終わってからですわね……」


 窓を開けるとトンテンカンと金槌の音が響き、大工たちのガラの悪い掛け声が耳を貫く。

 帰ってきて早々発覚した大被害を起こした張本人のアウローラは、三銃士やグリちゃんと一緒に木材の運搬など真面目に手伝いをしている最中。

 

「まぁ、そこからですよね」


「明日からまた手伝いに行きますわよ! ……いたた……腰が……」


「無理しないでくださいよ?」


 もう一ヶ月も頑張っていて、少しは復旧できてきた所で。

 痛めた腰がぶり返してきた彼女は休みを取らされていた。

 とりあえず昼食でも作ろうかと、付き添いで休んだエルクが台所へ向かうと。

 扉をノックする音がして、誰かなと出ていった。


「おーいヴァネッサ殿、エルク殿! 休んでいるところすまないな」


「マルカブ殿下。先日はお話する時間もなく、申し訳ありませんわ」


 入ってきたマルカブは、よろよろと立ち上がるヴァネッサに寝たままでいいと告げ。


「こっちも忙しかったからな。今だって魔獣たちを帰さなきゃいけないし……って、それはいいんだが」


「何かあったんですか?」


「いやぁちょっと、貴殿らの受勲で問題があってな」


「問題?」


 首を傾げるエルクに、君のせいじゃないといったように目を伏せて。

 懐から封筒を取り出すと、ベッドに横たわる彼女に手渡した。


「ヴァネッサがソルスキア家の人間だと漏れたようでな……」


 どうやら、誰かしらがヴァネッサに会ったことがあるらしく。

 王家に問い合わせて、アルゲニブはうっかり元の身分を教えたらしい。

 そんな話を聞いて、彼女の顔が青ざめた。


「……ふむ、大体予想が付きましてよ?」


 そして恐る恐る封筒を開くと、借用書という大きな文字の下に細々と書かれた内訳に。

 ソルスキア家の印鑑と、金貨100枚と数字が書いてあった。


「おおぅ……やっぱり……」


「返さないというなら、貴族とは認めないと食い下がられてな……まぁこればかりは兄上でもいかんともしがたく」


「ですが、これくらいなら村の復興次第で返せますわね」


 申し訳無さそうに苦笑いするマルカブと、余裕余裕とヘラヘラ笑うヴァネッサ。

 ライラ村長から見せられた村の税収からすれば、すぐにでも返せる程度だろう。この村への借金、金貨10000枚に比べれば大したことはないし。

 なんて思っていた彼女の前で、王子は悲しい顔をした。


「それ、一枚目なんだ」


「はい?」


 指をぱちんと弾くと、彼の部下が大きな袋を持ってくる。

 送り主は皆、この間大量にもらった名刺の持ち主。

 あぁ、それでわざわざ挨拶してきたのかと感づいたエルクの隣で、彼女はびりびりと封筒を破っては開き破っては開き。

 様々な人から借りた少額の借金を合計して、金貨12000枚とちょっと。

 その巨額に愕然と叫んだ。


「おファック!! なんで借金増えてるんですの!?」


「頑張って返しましょうか……」


 叫んだ格好のまま凍りつくヴァネッサの肩を、エルクが優しく叩く。

 頑張って返そうと励ました所で、マルカブがぽりぽりと頬を掻き。


「そういうわけで、いい話があるんだ。金貨1000枚くらいの仕事がいくつか……復興工事に関しては私がなんとかするし、受けてもらえると助かるんだが」


 前と同じように、仕事の斡旋をすると。


「まぁ、仕方ないですねぇ……行きましょうか……」


「やってやりますわよ!! こうなったら全額、耳を揃えて返してやりますの!!!」


 げっそりとため息をつくエルクの隣で。

 ヴァネッサは勢いよく立ち上がって、力強く拳を握った。



【完】

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破産令嬢は追放される~お父様のせいで公爵家は潰れ、婚約破棄された上に奴隷になりましたが、愛してくれるご主人様の為にモンスターテイマーになりますわ~ 雪原てんこ @Yukihara-Tenko

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