第43話

 春の島と云われる、西国の果てに存在するという『プランタン島』。

 その砂浜で、ある一匹のが静かに目を覚ました。


 今まで見ていたものは夢か、はたまた現実に起こった過去の出来事か。


 今となっては分からない。


 十年前、出逢った少女は、だった。

 おれが恋をした、彼女だった。

 おれは彼女の瞳に春を見つけた。


(もう一度、許されるのなら、おれは……)


 一匹の竜が独りごちた心音こころねは、いつまでも竜自身を蝕み続けるだろう。


 ❅ ❅ ❅


 プランタン島に唯一現存するヴェスナジラント——ローウェンの世界は色を失い、凍てつく風に体震わす日々が続いていた。


 春を象徴するその島国に、いつかの暖かい面影はない。


 ローウェンは再び眠りにつく。春を彷彿とさせる彼女が「」と自身を呼ぶ声の残り香を胸に抱きながら。


 春のともしびは、今にも消えかけていた。

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