第5話・白衣の人

 ひい、ひい、ふう、ふう。

 めちゃめちゃ疲れながら俺は歩く。そろそろ疲れてきた。体力的にも。


 物語の方はどうか。

「俺は、決めた。家を脱出しよう。家族はみんな死んだ。一人きりなのに、この滅亡の危機に立たされている国に住み続ける意味はない。生きたい。チュンメイの母から預かった手紙をポケットに詰め込み、俺は荷造りを始めた」

 このちょっと前くらいに、バイルイの自宅にミサイルが落ちて、バイルイ以外の家族全員が死んでしまう。バイルイは、たまたま外にいて助かった。だが、どうせ家族は死んだ。バイルイは台湾を脱出し、別の国で生きることを決意する――。

 ここからだ。ここから、ストーリーが本格的に始まるのだ。

 ちなみに、今、カリブンはまたもや言霊に捕まり、悶絶しているところだ。


 ――悶絶している。なら、カリブンは人間なのだろうか? それとも……?




 そこから、第二章に当たる部分を口述し始めると隣の壁に文言が表示された。

【おめでとうございます!】

 いつものように、カッコで挟まれたメッセージが送られてくる。

「いや、なんだよ。そもそも、このメッセージを送っているのは誰だ? さっさと出て来い!」

【残念ですが、それは無理です】

「うっせぇぞ! さっさと出て来い! 第一、この壁はどうなってるんだ?」

【うるさいのはそっちの方です】

 うっざ。


【取り合えず、本題に参りましょう。おめでとうございます。あなたは一万文字を達成なされました! ここで、キャラクター放出です!】

「どういう?」

【あなたの好きな漢字は何ですか?】

「は? そんなことより……」

 と、後ろからうなり声が聞こえた。カリブンだ。

「マズい」

 俺は急いで物語の続きを書いて、言霊を巻き起こし、カリブンの動きを封じた。


 ――あ? 待て、目の色……気のせいか。


 カリブンの顔がゆがんでいた気がする。瞳が見えた気がするのだが、それは気のせいだろうが。

 取り合えず、俺は叫んだ。一刻も早く全てを聞き出してたろうと思ったからだ。

「おい、お前のせいでカリブンに食われかけたじゃねぇか」

【知りませ~ん】

 うわ、ウザ。

【取り合えず、あなたの好きな文字は? 今だけ、カリブンの動きを封じておきますね】


 ふと後ろを振り返ると、天井からロープが下ろされてきた。そこに、誰だか知らない真っ白な服を着た人間が二人降りて来て、カリブンの動きを封じた。

 って、人間が現れた? 俺以外の、人間。これはチャンスだ。

 俺は急いで走って、真っ白な服を着た人間のところへ飛びかかろうとした。そうしたら、好きに尋問してやる。

「あ?」

 と、真っ白な服を着た人間は天井へ向かってジャンプした。穴が開いているのか、天井から手が伸びて来て、白い服を着た二人は引き揚げられて行った……。

 バチバチバチバチバチッッッ!!!!

「あ!」

 やってしまった。あっちに気を取られて地面を見てなかった……。



【大丈夫ですか?】

 死の電撃でうずくまってる俺に、文字が問いかけてきた。

「大丈夫じゃねぇぞゴラ。さっきのは誰だ?」

【そんなことより、取り合えず好きな漢字、教えてください】

「……人、だ」

【了解しました】

 やるべきことが一つ増えた。

 今やるべきこと。それは、ここから出ること、物語を完結させること、そして――この空間の謎を暴くことだ。




 物語を書きながら、歩いている。痛みにこらえながら。どうにかならないのだろうか。

「そうだ……」

 壁を壊してみようじゃないか。俺は思いっきり壁を蹴るが……びくともしなかった。

 というよりは、他に何を調べていいのか見当もつかない。

 コチラには道具が無いのだから。どうすれば暴けるのか、この謎の道の謎を。

 と、その時だった。


「こーんにーちはー!!!!」

 頭上から謎の声がした。

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