第4話・疑いの目

「私は、これまであなたのことをずっと愛してきた。ずっとずっと、好きだった。それは、バイルイ君も一緒だと思う。私の独りよがりじゃなかったらいいけど。まあ、それでさ、たくさんデートしてきたわけでしょう。でも、私たちは一緒に遊ぶだけで、好きだよ、とか、愛してる、とか言ったことない。。それで、私は本当はどうなのかなってたまに不安になっちゃうの。だから、ここで確認したい。私は、バイルイ君のことを愛しています。これからも、一緒にいさせて。早いお返事待ってます。 チュンメイ」

 ああ、泣けてくるな。


「そうか……俺は、愛を直接伝えたことはなかったのか。それで、チュンメイはこれを書いた。俺を……本気で愛してくれていたから。それなのに、俺は手紙の存在にすら気付かず、愛を伝えることもなかった。で、書いた本人は返事をもらえないまま、死んだ。せめて返事しておいてやれば。そもそも、中国が攻めてくることさえなければ。もっと早く愛を伝えあえる関係になっておけば。後悔の句が頭を横切る」


 大人っぽい美文字でつづられている手紙と、それに対するバイルイの感情を想像して俺は話す。

 床には文字がどんどん書かれていく。


 カリブンはそんなことは何も気にしていないかのように、ダッシュで迫ってくる。

 言霊効果絶大、の、はず。

 カリブンは手紙が書かれた部分に差し掛かった。

 すると、カリブンが倒れた。おそらく電気ショックだろう。そんな音がした。

 少し気になって見に行ってみる。

 すると――。

 バチバチバチバチバチッッッ!!!!

「うわっ!!」

 文字が書かれている部分に足を入れると、俺まで電気ショック食らうのか。

 体中が痛い。それでも、俺は歩き出し、物語の続きを書き始めた。




 ゆっくり、歩きながらも執筆をつづける。

 実は、歩き始めたときにこんなものが表示された。

【HP:100/70】

 これは何なのだろう。

【あなたの、HPです。先程の電撃で30減りました】

 マジか。あの死の電撃で一気に三十も減るとは。気をつけよう。

【ここで、追加ルールがあります】

 何だ、ちょっと怖いな。いやな予感。

【今、あなたは五千文字書きました】

 気付かぬ間にそんなに書いたか。電撃受けた後はかなり早口で書いていったからな……。

【この文字数が一万文字に達したら、“愛坊”を付与します】

 良く分からない。相棒じゃなくって、愛坊か。

【要するに、あなたを助ける存在です】

 おお。いいじゃん。

【他はその時にお伝えします。では、頑張って】

「待て、最後に聞きたいことがある!! このゲームの主催者は誰だ?」

【教えません】

「壁に表示される文字を出しているのは誰だ?」

【黙れ】


 だが、確実に誰かがこのゲームを動かしている。ちゃんと壁に表示されるのだから、誰かが送ってるに違いない。

 カリブンもどうせロボットかホログラムか何かだろう。

 言霊というのもアニメーションの一環だろうな。

 だから、どうにかしてここから出る。ひたすら走り続ける。

 で、ここから出たら、警察に通報し、ツイートしまくって、で、物語を小説投稿サイトにも載せるか。


 グルルルル

 そんな妄想を繰り広げていると、後ろの方からうなり声が聞こえた。

 ――!

 恐る恐ると振り向くと、カリブンが動き出した。

「ホログラムならすり抜けるか、ロボットならカーンて鳴るか何かだよな……」

 俺は、ポケットに入っていた石をカリブンに投げつけた。

 ――?!

 カリブンは微動だにしない。すり抜けることも、カーンと音がなることもない。

「本物か――?」

 ビックリしている間に、怒れるカリブンは俺に向かって走り出した――。

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