第10話 スター・ライトは激戦する!





「『お兄ちゃん、お兄ちゃん。うぐ。会いたかったよう』プラチナが、ライトに縋りつきます。どうしますか?」


 言いながら、しおんも僕の腕にしがみ付く。役に入り込み過ぎているらしい。胸が、腕に当たる。柔らかい。

 なんだか得した気分なので、ツッコまずに、ゲームを続行する。


「とりあえず、プラチナを連れて逃げ──」

「──その時です。ドオオオン! と、破壊音がして、一匹の大鬼オーガが姿を現しました。鍛え抜かれた屈強な体躯に真っ赤な髪と目。ピンサローです。どうしますか?」


 しおんの言葉が、風雲急を告げる。

 予想通り、ピンサローが直々にやって来た。余程、プラチナを奪われるのが不味いらしい。


「それは……逃げる!」


 ライトはプラチナの手を引いて、一目散に駆けだした。


 九月の公園で、僕としおんはゲームに熱中している。そこは、ただの、何の変哲もない公園である。でも、僕としおんにとっては、異世界だった。


「『うおお。貴様はいつぞやのクソガキか! まさか、生きていたとはな。だが、その稀血まれちの娘は渡さぬ。ここで仕留めてくれるわ!』ピンサローが叫びます」


 猛々しく言う大鬼ピンサローを残し、僕はそそくさと逃げ出した。


「みんな。ピンサローが来たぞ! 作戦通り、あの場所まで逃げるんだ!」


 ライトは号令を発する。そして馬を駆り、目的の場所まで駆け続ける。その後を、ピンサローの軍団が追って来る。

 ピンサローは強い。普通に戦っても勝ち目はないだろう。だが……!


「ここだ! 皆馬を降りて、陣形を組むんだ」


 ライトは目的地の橋へと差し掛かり、橋を渡り切った地点で仲間達に号令を発した。仲間達は指示に従い、橋の前で横一列に広がって、盾を地面に設置して弓を構えた。


 ⚅⚅⚄


 僕の作戦はこうだ。

 辿り着いた橋は細くて長い。敵は、橋では一体か、二体ずつぐらいしか広がって戦えない。敵が橋を渡ろうとしたら、待ち構えたライト隊が、先頭の敵に、一方的にこれでもかと矢を浴びせる事が出来る。つまり、敵が橋にいる限り、1対10の形が延々と続くのである。

 しかし、大鬼ピンサローの軍団は、橋を目前に足を止めた。無防備に渡って来る程バカではないらしい。


「『馬鹿め。こちらにも弓隊がいることを忘れたか!』ピンサローが号令を発して、弓隊が川向うで陣形を広げます。どうしますか?」

「決まってる。陣形が固まる前に先制攻撃だ。総員、矢をお見舞いしてやれ!」


 僕は号令する。すると敵とライト隊は、河を挟んで矢の射ち合いとなった。しかし、これも計算の内だ。

 僕等の背後には太陽があった。夕日が、逆光となって敵の視界を奪っている。更に、


「本当に、この魔法が役に立つ日が来るとはね。「ライト!」」


 ライトは、ライト隊の背後で「ライト」の魔法を発動した。太陽光と魔法の光球、二つの光が敵の視界を奪う。これによって、戦況は大きくこちらへと傾いた。敵は、命中判定に大幅な下方修正を受け、こちらは毒矢で狙い放題だ。

 次々と、オークの弓兵が射ち倒されてゆく。


「『く。このままでは!』ピンサローが痺れを切らして、部下に号令を発します。すると、数匹のオークが一列になって橋を渡り始めました。どうしますか?」

「決まってる。皆、橋の鬼を集中攻撃だ!」


 僕は号令をかける、すると、オークはたちまち蜂の巣になり、次々と撃破されてゆく。


「『ぐ。こうなったら。貸せ!』ピンサローは遂に痺れを切らし、部下から大盾を取り上げて橋を渡り始めました。どうしますか?」

「皆、ピンサローを集中攻撃だ! 他のオーク共には構わなくて良い!」


 号令するなり、矢が、一斉に放たれる。それは少なからずピンサローに命中したが、大半は、大盾で防がれてしまった。


「もう、目前までピンサローが迫っています。魔法の射程圏内に入りました。ライト君はどうしますか?」

「渡り切ったら大鬼ピンサローの勝ちだ。ここで仕留めるよ」


 そう言って、ライトは「ライトニング・ボルト」の魔法を発動する!


「ダメージ判定ね。サイコロを振って」


 しおんに言われ、6面体を9つ振る。ダメージは、29点。芳しくない数字だ。

 ピンサローは倒れなかった。奴は着実に前進を続けて、もう目の前にいる。次の攻撃で仕留められなかったら、本当に、負けかねない。


「うおおお! もう一度! ライトニング・ボルトオオオ!」


 ライトは再び、切り札の雷撃魔法ライトニング・ボルトを発動する。

 サイコロを振り、再びダメージ判定。今度は、43点のダメージをお見舞いした。かなり良い数字だ。

 だが……ピンサローは倒れなかった。

 大鬼のターンになり、大鬼ピンサローはバトルフィールドを3マス前進。そして、ライトに大斧を振り上げた!



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