ep.1 地の底に広がる空

「覚醒処置を開始します」

慈愛すら感じる女性の合成音声によって、ぼんやりとこれまでを思い返していた頭が急速に現実へと覚醒を始める。

「心拍数正常、脳波正常、インサート各種正常稼働を確認」

目を開くと、現実の無機質なカプセルの内壁が、仮想現実の透過性UIの向こう側に

重なる。

微かに聞こえる輸送機のエンジン音と、微細な振動により自分が棺桶のようなカプセルに収められ、異界の空を運ばれている事を実感させた。

「効果地点まで5分、エクテリア強化外装、アイドリングスタート」

アナウンスと共に頭部をすっぽりと覆うヘルメットが装着されると、カプセルの中を、銀色の液体が音もなく満ちていき、何かが皮膚の上にのる息苦しさを一瞬だけ感じた。

「エクステリア起動開始」

ヘルメットの内側に薄青いウィンドウが現れ、エクステリアと呼ばれる強化外装の状態がデフォルトされた状態で表示される。

 今回は自由降下からの敵研究施設破壊任務。

ターゲットの周りは森林となっており、速度を求められるため脚部は踵が小さい

ダチョウの様な形に調整されており、手はそれ単体でも殺傷力を持たせる為か鋭利な爪が目立つ。

夜間強襲であるため、全身は艶のない黒になっており、手持ちの装備はマチューテをベースにした大型の剣鉈が腰裏にセットされる。

「エクステリアオールグリーン、戦闘剤エントリースタート」

ぷしゅと間の抜けた音を共に、身体の内側に血とは別のものが侵入してきたことを

感じると、戦意は高まってきたが頭は冷静な状態へと成っていく。


 「降下地点まで60秒、降下準備スタート」

一際大きな揺れとごぉぅんという低い機械音と共に、カプセルが横に移動し表裏が入れ替わり、上を向いていた視界が下を向く状態となり、さっきまで寝転んでいたカプセルの底が左右に開き、無機質な現実視界が終わる。

 微妙に聞こえる風切り音、視界に広がるのは暗闇の凪。

思考コントールで暗視モードに切り換えれば眼下に広がるのは鬱蒼とした

異界の密林。

「ミッションスタート」

アナウンスと共に、空へと優しく投げ落とされ、地面に空いた大穴の先に広がる空という摩訶不思議な空を滑空する。

 「ミッションメンバーをマーク、着地点までのナビゲート開始」

左右を見れば、3つの人影に友軍であるタグが視界に表示される。

因みに、一度も顔を合わせたこともないチームメンバーだ。

世界が一丸となって今回の戦いに参戦しているが、人種的或いはイデオロギー的な障害がすぐに消えるわけではない。

だからこそ、メンバーは一度も顔を合わすことはなく、アナウンスをはじめとした

各種インターフェイスは装着者の国や記憶を基に、最も通じやすい言葉で構成され、発信した言葉や思想は、アナウンスを介して伝達される。

緩慢に近づいてくる異界の大地に向けて、俺は見知らぬ仲間等への信頼感を感じながら、ダイブしていった。

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U Hole【アンダーホール】 @noukouu-roncha

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