第5話 vs蛙の王様

 蛙の王様……キングフロッグ。

 まさにそのままの名前をしたモンスターが、私達の前に現れた。


「あれ? なんで名前書いてあるの?」


「んー、ボスモンスターだからじゃないかな? どうみても他のモンスターとはレベルが違いそうだし」


「大きいよねー。三メートルくらい?」


「だね。で、どうする? やってみる?」


 そう訊いてきながらも、ケートの顔はワクワクを隠しきれないみたいに笑っていた。

 はいはい、やりますよー。


「ちなみに、死んじゃったらどうなるの?」


「デスペナルティっていうのがあって、二時間程度の虚脱状態だったはずだよ。まあ、街の中で休むくらいしかないかな?」


「なるほど。それならまぁ……やってみても良いかもね」


「そうこなくっちゃ! それじゃいつも通り、前は任せたよー!」


 その言葉に頷いて、私はゆっくりキングに近づいていく。

 すると、あと二メートルほどのところで、キングは私に気づき、その手に三ツ又の大きな槍を召還した。

 わー、槍もかなり大きいー!


「とりあえず、まずは一発。えいっ」


「ゲコ?」


 槍が繰り出されるよりも先に距離を縮め、すり抜け様に一閃。

 スパンッと手応えはあったものの……キングはあまり気にした様子もなく、ゆっくり振り向きながら槍を振り回してきた。


「っと、あんまり効いてない? ゲージはちょっと小さくなった気がするけど……」


「『ロックショット』あんど『ウォーターボール』!」


「ゲココ?」


 ドスッパシャンと音がしても、キングの頭上にあるゲージは、数ミリ程度しか減ってない。

 んー、すごい体力ありそう……。

 そのことにちょっと面倒くささを感じつつも、繰り出される槍を避けては斬り抜けたり。


 動きは遅いし、相手するのは難しくないんだけどねー。

 そんなこんなで、10分くらいかけてゲージが半分を切って、さらにそこから減って……。


「セツナー! キングの体力が30%を切りそうだから、なんか行動が変化するかもー! 気を付けてねー!」


「はーい!」


 返事をした直後、キングは「ゲコッゲコッゲコッ」とまるで笑うみたいに鳴いて、槍尻を地面へと叩きつけた。

 そして、「ゲコー!」と大きく鳴くと……どこからともなく、二足歩行蛙がたくさん現れた!?

 しかも、その二足歩行蛙達は、キングを守るように私へと殺到して……ちょっとまって、それは卑怯!


「ゲコー!」


「ゲコー!」


「ゲコッ!」


「ゲッコー!」


 四方八方から繰り出される剣や斧、槍に棍棒エトセトラ。

 それらを返しては避け、時に斬り、また避けと繰り返すものの……次第に逃げられる範囲が小さくなっていく。

 これはまずい、そう思った瞬間「ゲコッゲコ!」と、取り巻きの壁の外からキングの鳴き声が聞こえ、視界の端に三ツ又の槍が見えた。


「えっ……!」


「セツナー!?」


「ゲコー!」


 ケートの声が先か、キングの鳴き声が先か……それとも、私が切り裂かれたのが先か。

 キングはその槍を、取り巻きに逃げ場を塞がれていた私に向けて、取り巻きを巻き込むように横へと凪ぎ払っていた。

 

 でも、なんでだろう……痛みがない。


「ゲコッ!?」


 驚いたようなキングの声が聞こえるってことは、まだ死んでないってこと?それならば、と私は一足跳びでキングに肉薄し、その身体を斬りつけた。


「ゲコォー!?」


「まだまだー!」


 お腹は斬りやすいけど、あんまりダメージは入ってない。

 だったら、弱点を攻撃するのが一番!と、驚いて下がっていたキングの槍を蹴り、腹を蹴り……顔の目の前で刃を抜いた。


「ていっ!」


「ゲコ!?」


「ナイスセツナ! 一気に行くよー! 『ロックショット』あんど『ウォーターボール』!」


「ゲコォ!?」


 空中で斬りつけた直後、私が落ちるのに合わせるように、キングの顔に石と水がぶち当たる。

 さすがに弱点への連撃は効いたのか、キングはたたらを踏んで後ずさった。


「セツナ、決めちゃって!」


「はーい!」


 キングの残りHPはもう数ミリほどしかない。

 ならばと、私はすり抜け様に斬りつけ、さらに急旋回して斬りつけた。


「ゲコ……」


「これで最後!」


 よろめいて隙を晒したキングの正面へと戻り、腰を落として一閃。

 キンッと刃を納めた時の音が響き……キングは光になった。


 また、つまらぬものを斬ってしまった……でよかったっけ?


『アルテラ湿原ボスモンスター、キングフロッグが初討伐されました。討伐者はセツナさん、ケートさん。討伐者には、初討伐成功報酬と、討伐の証として、称号“アルテラ湿原の覇者”をお送りいたします』


「はぇ? ケート、これって……?」


「全プレイヤーへのシステムアナウンスっぽいねー。初討伐ってことだし、ボスモンスターが初めて討伐されたときには流れるんじゃないかなー?」


「へー。なんだかちょっと恥ずかしいね」


「ふへへ。で、称号が貰えてるみたいだし、ステータス確認してみようよ!」


「はーい」


 ケートに言われるままステータスを見てみれば、先ほどまではなかった『称号』の欄が追加されていて、『アルテラ湿原の覇者』という称号が入っていた。

 どうやらつけていると、NPCから一目置かれるようになるらしい。

 どういうことよ。


「たぶん、NPCの好感度が上がるってことじゃないかな? NPCもプレイヤーとほとんど変わらないくらい人間味あるって書いてあったし、好感度があってもおかしくないと思う」


「なるほどー」


「まあ、つけてても見えないし、つけといたらいいんじゃない?」


「そうだね、そうするー」


 というわけで、称号をセット……したところで気づいた。

 なんかMPが結構減ってる!?


「ケート、ケート! なんかMPが50くらい減ってる!」


「ええ? あー……気づいてなかったのかー。あまりに普通にしてたから、気づいてるのかと思ってたけど」


「ん? どういうこと?」


「あのさ、キングフロッグがフロッグマン二足歩行蛙ごとセツナを攻撃したときあるじゃん? あのとき、セツナって胸から上がほとんど蝶になってたんだよねー。そのあと、すぐに元に戻ってたから、たぶん攻撃を無効化したんだろうなーって」

 

 まさかの事実。

 え、それって私……死んでない?


「で、ちょっと確認のために、PvPやらない? 訓練モードっていう、MPがすぐに回復するモードがあるから」


「えっと、PvPって?」


「あー、プレイヤーバーサスプレイヤー、対人戦ってこと。このゲームには決闘ってシステムがあって、決闘申請した相手が受け入れたら、決闘場って場所に転移するんだって」


「へー、見られないってこと? ならいいよー」


 頷いた直後に、ケートから決闘申請が来ましたってウィンドウが立ち上がった。

 なになに、訓練モードで、HPやMPが止まってたらすぐ回復するモード、と。

 うん、これなら大丈夫そう!


「よし、それじゃ決闘場にゴー!」


「おー」


-----


 名前:セツナ

 所持金:1,000リブラ


 武器:初心者の刀


 所持スキル:【見切りLv.1】【抜刀術Lv.4】【幻燈蝶Lv.2】

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