第4話 蛙は二足歩行に進化した!

 side.ケート


「セツナ! 極力通さないで!」


「がんばる! でも、そうすると奥のに手が出せなくなるから!」


「そっちは任せて!」


 あのあと、雑木林に近づいた私達を待っていたのは……二足歩行する蛙だった。

 ゲコゲコしか言わないながらも、ボロボロの剣や弓を持っていて、最低3体、多いと6体で動いていた。


 そして今は、5体を相手している。

 剣、槍、斧と、弓2つの編成だった。


「『ロックショット』!」


「ゲコォ!?」


「まずは片方に集中するよー! 『ウォーターボール』!」


 視界の端で、3体を相手するセツナはほぼ同時に繰り出される攻撃を、いとも容易く避けては、返し、斬り倒していた。

 そんな相棒の姿に半ばあきれつつも、私は木に隠れ、時に前衛蛙で射線を塞ぎと、2体の弓蛙を相手に戦っていた。


「……んー、二属性同時に発動できないのかな? たしか思念発動っていうのがあったはずだし」


「ゲコ?」


「よし、やってみよう! とりあえず片方はこれで終わりだー! 『ロックショット』!」


「ゲコォォ……」


 放った石が、弓蛙の片方を貫き、光に変えていく。

 そして一対一になったところで、私はさっき考えていた、二属性同時発動を試してみることにした。

 ……まず杖はしまおう、邪魔だし。


「ゲコッ」


「おっとっと、当たらないよーだ」


「ゲコォ!」


 弓に矢をつがえたところで、ささっと木の裏に隠れて矢を避ける。

 そして、私は両手を開き、右手に石、左手に水を思い浮かべた。


「……ッ!」


 一瞬、胃が回るような気持ち悪さを感じたけれど、その気持ち悪さはすぐに消え、手のひらの上には魔法陣が2つ発現していた。

 ありゃ、一回で成功しちゃった?


「んー、やっぱり私って天才なのかなー。天才魔法使いケートちゃん、ってね!」


「ゲコッ?」


「というわけで、『ロックショット』あんど『ウォーターボール』!」


「ゲコッ!?」


 片方を撃ったあと、もう片方を撃ちながら、空いた方の手でまた発動。

 それを繰り返し、都合三回で弓蛙の2体目も光になっていった。

 んー、やっぱり杖がないとダメージが大きく下がっちゃうなー。


 さてはて、セツナの方はっと……。


□□□


 side.セツナ


「セツナ! 極力通さないで!」


「がんばる! でも、そうすると奥のに手が出せなくなるから!」


「そっちは任せて!」


 弓蛙をケートに任せて、私は3体の蛙と向き合っていた。

 剣と槍に斧の3体で、厄介なのは槍かな?

 剣と斧の隙間から突いてくることがあるから、怖いんだよね。


「だから、最初は槍蛙さん」


「ゲコッ!?」


 剣と斧を避けたところに突き出される槍を、抜刀した刀で弾き、返す刀で一刀両断。

 ただ、この二足歩行蛙はさっきまでの蛙と違い、一撃じゃ倒せない。

 だから私はすぐ振り返り、後ろへと飛ぶ。

 すると先程までいたところに、斧の力強い一撃が叩き込まれた。


「ゲコォ!」


「あぶないあぶない。そんなの当たったら死んじゃいそう」


「ゲコッ、ゲコッ!」


「蛙さんなのに、ちゃんと足並み揃えてくるの、すごいなぁ……。攻めてくるタイミングもバッチリだし、練習したのかな?」


 そんなことを呟きつつも、剣を避け、斧を避け、間に差し込まれた槍を弾こうとして、横から入ってきた剣に退がる。


 一回の立ち会いで対応してくるなんて、本当にすごい!

 なんて、驚きつつ感動していた私の耳に、「ゲコォォ……」という、弓蛙の鳴き声が届いた。


「よし、ケートも頑張ってるし、がんばらないと!」


「ゲコッ!」


「少しだけ本気だからね!」


「ゲコッ!?」


 ドンッと踏み込んで、一気に槍蛙の懐まで入り込み、驚いている蛙を一閃。

 「ゲコォ……」と鳴きながら消えていった槍蛙には見向きもせず、私はすぐさま剣蛙へ迫り、すり抜け抜刀。


「ゲコォ!?」


「かーらーのー、振り返り斬りっ」


「ゲコオォォォォ!」


 スパンスパンと連続で居合いを繰り返し、残る斧蛙を前に一瞬の休憩。

 瞬く間に消えていった仲間達に驚く斧蛙へゆっくりと近づいて……その手に握っていた斧の柄ごと、斧蛙を切り裂いた。


「ゲコ……」


「もう一発……あれ?」


 二閃目をいれよう振り返った時には、すでに斧蛙は光になっていた。

 ……なんで?


「おっつかれー、セツナー!」


「あ、ケート。お疲れさま」


「最後の斧蛙はクリティカルヒットっぽかったね。武器ごとまっぷたつになってたよ!」


「くりてぃかるひっと?」


 どうやら、モンスターごとに弱点があるらしく、最後の斧蛙はその弱点にダメージが入ったんじゃないかーってことだった。

 そういえば、今まではお腹とかばっかり斬ってたけど、最後の斧蛙はいつもより場所が高かったかも。

 武器を切るつもりだったから……顔かな?


「うんうん! 動物系モンスターは顔弱点っぽいよねー。その方がリアリティあるし」


「そういわれてみればそうかも」


「にっひっひ、それよりもお嬢さん、聞いてくださいよ。なんと私……天才だったのです!」


「なに、いきなり」


 気色悪い笑みを見せるケートから、少しだけ離れた私に、ケートは「まぁまぁ見ててくださいよ」と、二属性同時発動を見せてきた。


「えっと?」


「どうだー、すごいだろー! ははははー!」


「す、すごいすごいー?」


「……馬鹿にしてる?」


 してないよ!でも、どうすごいのか分からないよ!


 と、伝えると、ケートはちょっとしょんぼりした顔を見せたあと「そうか、そうだったね……」と地面にのの字を書いていた。

 なんか、ごめんね?



 あの後も数戦ほどこなし、数の多い二足歩行蛙に慣れてきたところで、ケートが「よし!」と満足したような顔で私へと振りかえった。


「セツナ、そろそろ一度帰ろっか。アイテムも貯まってきたし」


「ん? うん」


「プレイヤースキルっていう、プレイヤー自身の技術でも、ある程度強い相手とは戦えるけど……やっぱり、装備とか整えないと、効率悪いしさ。いつまでも初期装備っていうのも嫌でしょ?」


 たしかに。

 というか、今着てる服って、防具っていうか……ただの服だし。


「防具も必要だし、武器も変えないとね。まあ、まだ始まったばっかりだから、生産プレイヤーも全然なんだろうけど」


「生産プレイヤー? なにか生むの?」


「ああ、えっとね、生産プレイヤーっていうのは、生産系スキル……例えば、【鍛冶】とか【木工】とかのスキルをメインにしてプレイしてる人達のことだよ。私達みたいな戦闘メインのプレイヤーから素材とかを買って武器や防具を作ったりしてるの」


「へー。いろんな人がいるんだねぇ」


 でも、今はまだゲームが始まったばかりだから、生産メインの人はあんまりいないかもってことらしい。

 少ししたら増えてくるのかな?


「だから今は、ひとまず素材を売って、NPCのお店で武器とか防具を買う感じになるかな。私は防具、セツナは武器ね」


「ん? 私も防具じゃないの?」


「だってセツナ、全部避けちゃうじゃん。それだったら防具より武器を買って、ダメージ増やしたほうがいいでしょ?」


「……むぅ」


 つまり、私は当面初期装備のままということらしい。

 着替えたいなー。


 そんなことを考えながら歩いていると、ケートが急に立ち止まり、私の手を引いた。


「ケート?」


「セツナ、あれ……」


 ケートが指を指した先、そこには緑色の巨体。

 そして、頭上に輝く光があった。

 つまり――。


「……蛙の、王様?」


 そう、王冠を被った巨大な蛙がいた。


-----


 名前:セツナ

 所持金:1,000リブラ


 武器:初心者の刀


 所持スキル:【見切りLv.1】【抜刀術Lv.4】【幻燈蝶Lv.1】

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