第3話 魔法使いケートちゃん!

「さぁ、どこからでもかかってきなさい!」


 ビシッと謎のポーズをとるケート。

 その前に、また一匹の蛙が姿をあらわした。

 たしか名前は……アルテラフロッグだっけ?


「先に説明しとくね。私は、【土魔法】と【水魔法】のスキルを取ったよ! だからこんな風に……『ロックショット』!」


 蛙の方に杖を向けたケートが、魔法の名前を叫ぶと……杖の前に黄色い魔方陣が現れ、拳大サイズの石が蛙に向かって飛んでいった。


「ゲコォ!?」


「続けて、『ウォーターボール』!」


「ゲココッ!?」


「だめ押しの『ロックショット』ォ!」


「ゲコォー……」


 ドスバシャドゴッと音がして、蛙は鳴くことしかできず、光になって消えていった。

 魔法の発動は、宣言してから少しかかるみたいだけど、ケートは当たったと同時に次の魔法を発動してたから、ここまでうまくハマったのかも?

 でも弾速はそんなに速くなかったし、たぶん避けようと思えば避けれそうかな?

 まっすぐだったし。


「どうだー、みたかー!」


「魔法ってこんな感じなんだね」


「ふふん。慣れるまでは発動に時間がかかるって書いてあったけど、全然そんなこともなかったかな? 一応【魔力操作】っていう、自分の魔力を扱うためのスキルも取っておいたんだけど、必要なかったかも」


 ケートはそう言って、杖をアイテムボックスにしまう。

 なんでも、魔法は杖を装備してなくても放てるから、らしい。

 威力は落ちちゃうらしいけど。


「そういえば、セツナのスキルって他はどんなのが出たの? 【抜刀術】とあと2個あるよね?」


「えっと、片方は【見切り】っていう、攻撃の予兆がわかるようになるスキル。でも、さっきの蛙は見てから動いたから……発動してなかったのかも?」


「えっと……私としては発動してたって言ってくれた方がよかったんだけど……そっか、まぁうん、それでもう一つは?」


「【幻燈蝶】っていう、レアスキル? 蝶になれるんだってー」


 自分で言ってもよくわからないけど、ケートもよく分からなかったみたいで、「え? 蝶?」って聞き返してきた。

 使えたらわかりそうなんだけど……これって、どうやって使うのかな?


「てか、レアスキル? いや、確かにあの選択ウィンドウにはなかった気がするし、レアなんだろうけど……意味がわからない……。実際に使ってみれないの?」


「んー、どうすればいいのかな……蝶になれーって念じてみたらいいのかな?」


「スキル名を口にしてみたら? 言葉にして発動するようなのもありそうだし」


「わかったー。えーっと【幻燈蝶】!」


 宣言した瞬間、フッと身体の感覚が霧散し、まるで空中に浮いているかのような……周囲の空気になったような、不思議な感覚に変化した。

 同時に暗闇のような、逆に真っ白な世界のような、どちらにせよなにも見えない。

 でも、不思議と『どこに何があるのか』が感じられた。


「えっ、え!? セツナ!?」


 あ、声は聞こえるんだー。

 でも、私がしゃべったりは出来なさそうだなー。


「大丈夫!? 戻れる!?」


 そういえば、喋れなかったら宣言できないよね?どうやって戻るんだろ?

 ケートの前にグッと集中したりしたら戻れないかなー?

 ふぬぬぬ。


「……あ」


 ギュギュッと引っ張られるような感覚のあと、私の身体からは不思議な感覚が消え失せ、もとの状態に戻っていた。


「よ、よかったー! 戻ってきたー!」


「わわっ、ケート!?」


「あのまま沢山の蝶々になって、どこか飛んでいっちゃったらどうしようって思ってたよー!」


「蝶々? 蝶々になってたの?」


 ギュッと抱きついてきたケートを剥がしつつ聞いてみれば、「そうだよー、赤透明の蝶々。触ってもすり抜けちゃうの」とのこと。

 どうやら【幻燈蝶】は、本当に蝶になれるスキルみたいだった。

 ……でも、それでどうしろと?


「セツナはなにかできそうな感じだった?」


「ううん。喋れないし、体は動かせないし見えないし。あ、でも何がどこにあるのかは何となくわかる感じだった」


「そうなの? んー……変なスキルだなぁ。MPは減ってたりする?」


「MP? えっと……え!? 残り20まで減ってる!」


 刀を振るのにMPは使わないはずだから、減ってるとしたらさっきの【幻燈蝶】くらいなんだけど、こんなに減るの!?


「一回で80かー。私の『ロックショット』で5しか減ってないって考えると、すごい燃費が悪いスキルだねー」


「ケートの魔法16回分……」


「それだけ消費するってことは、たぶん別の使い道があるんだろうけど、今は分かんないし……ひとまず、気分転換に蛙狩りしちゃいますか!」


「ゲコッ!」


 ケートがそう言う方が早いか……蛙の鳴き声が聞こえた方向から、舌が伸びてくる。

 しかし私は、その方向を見なくとも、ピキーンと直感が働き、蛙の舌を斬り飛ばした。

 あ、これが【見切り】かー。


「ナイス、セツナ! 『ロックショット』!」


「ゲコッ!?」


「隙が大きいなぁ……えいっ」


「ゲコォォォ……」


 舌を切られ、直後に石をぶつけられた蛙が、一刀両断されて光になる。

 うん、やっぱりそんなに強くないよね。


 それからの私達は、蛙を見つけては、遠距離から魔法を当てて、近づいてきたところを接近した私が斬り捨てるというスタイルで倒していく。

 周りに人がいないからか、私達は二時間程度でかなりの数の蛙を倒していた。


「MPが減ってきたから、ちょっと休憩しよー」


「はーい」


「どう? スキルレベルは上がった? 私は、【水魔法】と【土魔法】が2になって、【魔力操作】は3になったよ!」


「えっと、私はー【抜刀術】が3になっただけ、かな? やっぱり【見切り】が発動してないみたいだし」


 これでも、結構相手の攻撃を切り捨てたりしながら戦ってるはずなんだけどなぁ……。

 まあ、ピキーンって閃く感じが【見切り】だったら、あの一回だけなんだけど。


「あはは。セツナはほとんど自前の運動神経でこなしちゃってるから、そういったスキルはあまり使わないかもね。普通は、相手の攻撃が来たのを見てから対応するなんてしないし」


「そう? 【抜刀術】なら、全然間に合うと思うんだけど……」


「これだからリアルチートは……」


「ん?」


「なんでもなーい。それより、この後はどうしよっか? このままここで狩っててもいいけど、苦戦もしないから作業みたいになってるでしょ?」


 そう言って、ケートは杖で地面に地図を描き始める。

 もっとも、丸や四角で構成される簡易的な地図だけど。


「私達がいるのが、アルテラの西側にある『アルテラ湿原』。この先は雑木林になって、山になってる。たぶん方向によっては川とかに当たる可能性もあるけど……」


「お互い、木が多いところは戦いにくそうじゃない? ケートも魔法が難しそう」


「そうなんだよねー。だから提案なんだけど、山に向かわずに、雑木林の近くを南下していかない? 南は平原だから、山とか森に当たる可能性は低そうだし」


 アルテラの街の南は、確か『アルテラ平原』だったっけ?門から見えた範囲だと、山とかはなかったよね。

 まあ、どこに行っても……特に問題はないかな?


「うん。ケートに任せるよー」


「りょーかい! じゃ、まずは湿原を進んで、木が増えてきたら沿うように南下しよう!」


「はーい!」


 グッと背筋を伸ばしたケートが、先導するように歩き出す。

 私はそんな姿に置いていかれないよう、後ろを追いかけた。


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名前:セツナ

所持金:1,000リブラ


武器:初心者の刀


所持スキル:【見切りLv.1】【抜刀術Lv.3】【幻燈蝶Lv.1】

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