第2話 私の友達

「すごいリアル……」


 背後からはジャバジャバと水の跳ねる音が響き、前方には中世的な街並みが広がっていた。

 歩く人も簡素な布の服を身にまとっている人達ばかりで、ここが現実の世界とは全然違う世界なのだということを、これでもかと教えてくれた。


 そんな景色に感動していた……そんなとき。

 ピロリンという軽快な音と共に、私の前に小さなウィンドウが開いた。


「えっと……個人メッセージ? でも、ケートさんって誰? えーっと“噴水広場は人が多いから、合流は噴水広場正面の大通り沿いにある宿屋前で。by圭”……って、圭!?」


 驚きのあまり大きな声を出してしまい、私は慌てて口を塞ぐ。

 そんな私に周りの人は不思議な顔を見せつつも、すぐに興味を失ったのか、普通に去っていった。


「うぅ、恥ずかしい……。ううん、気を取り直して、宿屋の方に行かなきゃ! 広場の正面!」


 ふんっと気合いを入れ直して、私は噴水広場の前に伸びる大通りを歩く。

 すると次第に人が減り始め、合流場所の宿屋前に着いたときには、両手を伸ばして歩けるほど、まばらになっていた。


「はぁい、そこの可愛いお嬢さん! もしかして、私をお探しかなー?」


「……」


「あっ、無視しないで、お願い! 私、私ケートさんだよぉ!」


「……もう、分かってるわよ」


 そう言って私が圭……もとい、ケートの方へと顔を向ければ、ケートは心底安心したような顔で「良かったぁ……」と呟いた。

 そんなケートは、リアルの圭とあまり変わっていない。

 変わってるのは、髪の色が黒から茶色になってるのと、少し背が低くなってるくらいかな?

 あ、多分胸は少し大きくしてる気がする……それでも慎ましい程度だけど。


「何にしても合流出来て良かったー。それで、お嬢さんのお名前は?」


「セツナ。名前をもじったの」


「なるほどー! じゃあセツナ、とりあえずパーティー組んで、戦闘行ってみない? スキル構成とかはその時に、ね」


 ワクワクを顔に貼り付けたケートに笑いつつ、私も「仕方ないなぁ」と笑う。

 そんなわけで、私達はパーティーを組んで、アルテラの街の南門をくぐった。



 アルテラの街は、南に正門があり、門の先には広大な平原が広がっていた。

 ポツポツと木が生えてはいるものの、ほとんど遮蔽物もない、分かりやすく平原って感じだった。


「まずは武器を装備しないとね! メニューのアイテムボックスから取り出すの。あとついでに、所持金はボックスの右上の方に表示されてるよ!」


「なるほど。えーっと、私の初期武器は刀みたい。あとお金は1000リブラ?」


「刀みたいって……もしかして、セツナ……」


「ん? ガチャガチャみたいなのをやったら、【抜刀術】っていうのが出たの」


 私の説明に、ケートは「そっかーガチャったのかー、【抜刀術】かー」と納得したように頷いたあと、「【抜刀術】ぅ!?」と、私の肩を掴んで揺らし始めたぁぁぁぁ……うえぇぇ。


「……け、ケート、やめっ、やめ」


「あっ」


 気づいたような声とともに、パッと肩から手を離され、私は回る視界にぐったり。

 ま、まあ……圭はいつもこんな感じだから、慣れちゃったけどね……うぇぇ。


 ちなみに、刀の名前は『初心者の刀』で、攻撃力は10って書いてあった。


「あはは、ごめんごめん。んー、でも【抜刀術】なんてスキル持ってるのを見られたら面倒なことになりそう……。ここは挑戦する気持ちで、少し先のエリアに行こっか!」


「え、大丈夫? ケートも私もまだ戦ってすらないんだよ?」


「大丈夫大丈夫! 私のゲーマーとしての勘が、イケる! って叫んでるから!」


 それのどこに安心する要素があるのよ……。

 でもまぁ、楽しそうにしてるし、水を差すのもアレかな。


「はいはい。じゃあ行ってみるとして、どの方向に行ってみるの?」


「んー、このまま『アルテラ平原』に抜けて行くのもいいし、東の『東アルテラ森林』とか、西の『アルテラ湿原』もいいよね。でも街の北は山岳地帯だから、武器が刀のセツナには厳しいかな?」


「そうなの?」


「あーゆーところは、ゴーレムなんかが住んでるのがお決まりだからねー」


 ゴーレムっていうと、石で出来た巨人だっけ?

 さすがに刀で石は切れないよね。


「というわけで、最初は敬遠する人が多そうな湿原を攻めてみよう! セツナなら、多少足場が悪いくらいは大丈夫でしょ?」


「たぶん?」


「またまたー。まあ、とにかく行ってみよー!」


 ケートが力強く私の手を引いて、街の西側目指して突き進んでいく。

 その姿がとても楽しそうで、私は自然と笑みを浮かべていた。



 アルテラの街の西側に広がる、アルテラ湿原。

 そこは、池のような水溜まりと、苔や水草といった植物が生え広がる緑の楽園だった。

 現実でこんな場所があったら、観光名所になってそうだなー。


「見える限り、私達の他に人影なし! ここなら全力出せそうだねー!」


「むしろ、全力で戦わないと負けちゃうんじゃないかな……?」


「大丈夫大丈夫! 気軽に行ってみよー!」


 ずんずんと進んでいくケートの後を追い、道なき道を進んでいく。

 気を抜くと滑っちゃうそうだけど、このくらいならなんとかなるかな?


「そうそうセツナ、先に説明しとくね。メニューのなかにある、ステータスとスキルなんだけど、ステータスはHPとMPしか記載がないよ。筋力とかそういった他のステータスはマスクデータっていって、見えないようになってるんだけど、一応データとしては存在してて、ゲーム内で行動してると、勝手に上がっていくって感じかな」


「ふむふむ。HPとMPも上がっていくの? 今はどっちも100なんだけど」


「ううん、上がらないよー。それは数字としての100というよりも、パーセントとしての100って考えておいたらいいかな。わかると思うけど、HPは体力のことで、なくなったら死んじゃうやつ。MPは魔力で、魔法とかスキルを使うときに消費するの。MPはなくなっても死なないけど、虚脱っていう状態になって、一定時間すごくダルくなるんだって」


 なるほどー。

 さらにケートが教えてくれたのは、魔法とかスキルとかを使うときに消費するMPは、使っていくうちに減っていくらしい。

 慣れてくれば、多く使えるってことみたい。


「で、次にスキル。こっちは今持ってるスキルが表示されるよ。スキル名の後ろについてるLvっていうのが上がると、効果も上がるし、魔法とかのスキルなら魔法を覚えたりとかもするよ。モノによっては進化もするみたい」


 ケートの話に頷きつつスキルを開いてみれば、そこにはちゃんと【見切り】【抜刀術】【幻燈蝶】の三つが表示されていた。

 それぞれのスキルの後ろにLv.1ってついてるから、ここが変わっていくんだろうなー。


「スキルが増えてくると、装着スキルと未装着スキルっていうのに分けられるよ。装着スキルが最大10個で、未装着のほうは特に決まりはないんだって」


「じゃあ、たくさんスキルを持ってる方が、いろいろできて便利ってこと?」


「ううん。スキルの数が多くなると、スキルを育てるのも大変になるから、ある程度厳選して習得していった方がいいって公式サイトには書いてあったかなー。スキルは装着してない限り効果がでないみたいだから、いっぱいあっても、同時に使えるのは10個までだしねー」


 それもそっか。

 じゃあひとまずは今持ってるスキルでやっていって、足りないこととかやりたいことが見つかったら、増やしていくって感じがいいのかな?

 ケートがいうには、行動してればスキルウィンドウからスキル取得が可能になるらしいし。


「じゃあ、話が終わったところでー! モンスターだよ、セツナ!」


「ん? モンスターって、あの蛙みたいなの? 頭の上に赤いゲージがあるけど……」


「そうそう! あのゲージが体力ゲージだから、なくなったら倒せるよ! ささ、スパッとやっちゃってくださいよ、姉御!」


 誰が姉御よ。

 でも、幸い蛙はまだ私達に気づいてないみたいだし……試し切りにはちょうどいい、かな?


 大きさは座った状態で、大人の腰くらいの超大型蛙。

 緑色をした、オーソドックスな蛙って感じかな?


「えっと、【抜刀術】は居合い専門のスキルってキャラメイクで言ってたし、とりあえずそのまま近づいて……」


「ゲコッ」


「あ、こっち向いた」


「ゲコォォォ!」


 あ、舌が伸びてきた。

 なるほど、そういう攻撃なんだ。


「とりあえず、これはスパッと斬っちゃって良いよね」


「ゲコッ!?」


 伸びてきた舌を抜刀からの居合い斬りで一閃。

 斬り落とされると思ってなかったらしい蛙が、驚きで一瞬固まった。


「あっ、今かな?」


 ドンッと飛び出して、そのまますれ違い様にスパン。

 うん、手応え十分。

 そう思って振り返ろうとしたところで、『アルテラフロッグの舌を入手しました』というシステム音声が聞こえてきた。


「あれ? もう終わり?」


「舌を斬ってからとはいえ、一撃かー。さすがリアルチート……」


「え? 動きも遅いし、そんなに強くなかったよ?」


「そんなことないよ!? 舌が伸びたときは結構ビックリしたし、速かったよ!? 普通は初見で斬れないよ!?」


 またまたー。

 端から見てたら速く感じるってだけだよね。


「あ、これ絶対伝わってないやつだ。まあ、セツナだし……今さらかー」


「えー?」


「とにかく! 次は私の番!」


「ん、わかった」


 後ろに下がった私の前で、ケートはアイテムボックスからなにやら両手持ちサイズの木の棒を取り出した。

 片方の先端は太くねじれてて、反対側は細くなってる。

 ファンタジーな感じの杖?


「ふっふっふ、魔法使いケートちゃん、ここに爆誕!」


「へー、ケートは魔法使いなんだー」


「例えゲームのなかでも、動き回りたくないからねー! それに公式で、魔法使いは個々の特性が出やすいみたいなことも書いてあったから、試してみようかなって」


 そう言って胸を張るケート。

 ……やっぱりちょっと盛ってる気がするなー?


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 名前:セツナ

 所持金:1,000リブラ


 武器:初心者の刀


 所持スキル:【見切りLv.1】【抜刀術Lv.1】【幻燈蝶Lv.1】

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