第10話

朝ごはんを食べ終わって、学ランを着る。中学校はブレザーだったので新鮮で良い。高校生になるということを自覚する。


一応着てみた制服を見せるために、リビングでコーヒーを飲んでいる沙和ちゃんに声をかける。


「どう?沙和ちゃん」


俺がそう言うと、沙和ちゃんは少し驚いてからショートカットの髪を、クルクルといじりながら感想を述べる。


「まだまだ中学生だね。そんなんじゃ、今どきのJKは攻略できないよ」


今どきのJKに沙和ちゃんも入っているのだろうか。それならもうちょっと頑張らないとな。ワックスでも使ってみようか。


そんなことを思っていると、髪をクルクルしていた指を止めて、目を俺からそらしていうのだった。


「まぁ……私はいいと思うよ、ちょっと」


それだけ言うと、沙和ちゃんはすくっと立ち上がって逃げるように、和室へと入ってしまった。


え、褒めてくれたのか。いやいや、そんなわけない。そんなわけない。

でも沙和ちゃんがダサいと思ってないと、わかっただけでも良かった。


俺は制服のまま、晩御飯の時と同じように2人分の洗い物をする。正直、ご飯を作ってくれているのだから、洗い物くらい当然だと思う。


だが、沙和ちゃんはちがう。俺が洗い物をしているのを良しと思っていないらしい。和室から既に出てきていた沙和ちゃんは言う。


「……お姉ちゃんなんだから任せてくれてもいいのに」


沙和ちゃんは不満そうに腕を組んで、少しだけ頬をふくらませる。けして大きくはないさわちゃんの胸だが、腕を組むことで強調されて健全な男子高校生にとっては刺激的すぎる。


任せてもって俺の面倒を見てあげたい、そんな気持ちなのだろうか。


なんて母性が強いんだ…。でもそれは俺にではなく、俺たちの子供に向けて欲しい。俺は一人前の男として見てほしい。


「俺も高校生だから、皿洗いくらいさせて。それに一緒に住むんだからなんでも頼んで」


そう言ってみると、俺の事を完全に下に見た沙和ちゃんが俺の事を鼻で笑うようにして、人差し指をこちらに向けて煽ってきた。


「大人になったつもりかな?背伸びしちゃってー。本当に可愛い。まだまだ幼いなぁ」


そう言って、ブラックのコーヒーを啜っている。大人のつもりなのだろうか。少し顔を歪ませてから、余裕そうな顔をする。大人ぶってるのはどっちなのだろうか。


でも幼いなんて言われたままで、終われるか。俺は洗い物を終えると、沙和ちゃんが飲んでいたブラックのコーヒーを手に取る。


「え、ま、それ、私の…」


沙和ちゃんが何かを言っているが、大人の象徴として自慢していたものを顔色変えずに飲んだらかっこいいだろう。我ながらなんて幼稚な考えだろうか。


ブラックのコーヒーを一口飲む。口の中に程よい苦味が広がる。まぁ、普通に美味しい。両親がコーヒーを好きなので飲める分には飲める。


「どうだっ!」

「どうだって言われても……」


なんとも微妙そうな顔をしていた。なんでか分からないが、沙和ちゃんの耳は少し赤い。コーヒーは別に熱くなかったけど。


「ほら、もう行かないと入学式、遅刻しちゃうよ。早く行ってきなさい」

「お見送りしてくれないの?」

「大人なんでしょ?」


そう言って、軽く笑う沙和ちゃん。もうちょっとじゃれていたかったが、そろそろ本格的に時間がやばいので出ないといけない。


翔は玄関のドアを開けて、行ってきますを言ってから家を出た。一方その頃、沙和ちゃんはと言うと。


「いやいや、ませてる高校生相手に間接キスなんて考えるなんておこちゃまは私だぁ……」


というか、普通に翔とか子供だし。年下だし。対象外だし論外。ヤメヤメ。こんなこと考えるのをやめよ。


沙和は残されたコーヒーを飲み干すと、少しだけ顔を赤くして、コップの縁を眺めたらしい。


「いや違うからねぇ!?」


自分の考えにツッコミを一人でして、またため息をつく沙和ちゃんだった。


♣♣

尊すぎてやばい。

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