第9話

いつも使っている目覚ましのけたたましい音ではなく、お味噌汁のいい香りで目が覚める。眠たい目を擦ると、目の前にはエプロン姿をした天使がいた。


「おはよう、翔」

「天使が俺の目の前に…」

「はいはい。早く、顔洗ってきて目を覚ましてきてねぇー」


朝、寝ぼけている俺の戯言には耳を貸さずに朝食の準備をする沙和ちゃん。本当に彼女と一緒に住んでいるのだと自覚する。おこなっ


ソファから立ち上がって、洗面所に向かう。そしてふたつ並んだ赤と青の歯ブラシを見て思う。


「……もう新婚じゃん」


赤色の歯ブラシを一度取ろうとするボケを誰もいない洗面所で行ってから、今度はきちんと青色の歯ブラシをとる。


朝ごはんの前に歯磨きをするかどうかは人それぞれだろうが、俺はする派なのだ。ついでに顔に水をぶっかけてから、タオルで顔を拭く。


タオルからはさわちゃんの匂い、もとい柔軟剤の匂いがした。


普段なら持って帰るのだが、ここが我が家となっているので、いつでも好きなだけなのだ。


こんな犯罪者予備軍みたいな思考をしていたら、いつかぼろを出すかもしれないので首を振って考えるのをやめた。


「いい匂い……」

「そう?まぁ、いつも食べてるから翔みたいに感動できないけど」


そんなことを言いながら、ダイニングテーブルの椅子を引く。朝食はご飯とサラダ。納豆にお魚。そしてお味噌汁というおばあちゃん家の朝ごはんのような充実したものだった。


「これから毎日、俺にお味噌汁を作ってくれるの……?」

「誰が翔のお嫁さんになるか。でも私と一緒に住んでる間は作ってあげるよ」

「よし、このまま一生、住んでやるぞぉ!」

「……ヒモにならないことをお祈りします」


そんなことを言いながらご飯を食べていく沙和ちゃん。結構、朝から食べるんだなぁと思う。よく食べる女の子は好きだからいいんだけど。沙和ちゃんのことだから運動部に入っているんだろうな。


俺は中学と同じバスケ部だろうか?別に違う部活に入ってもいい。小さい頃は沙和ちゃんに負けてたけど、今なら勝てる気がする。


「ち、ちなみに運動してるから太らないんだからね。けっこう、食べてるけど……」

「そ、そんなことおもってないですよぉ?」

「翔の顔に出てたから。わっかりやすいんだからぁ」


そんなことを言って笑う。食べていた箸を置いてこちらを向いて優しい声で言う


「入学式、親として出席してあげよっか?」

「……過保護?というか沙和ちゃんは俺の彼女として横にいて欲しくて、別に親になんてならなくていいけど」


何も高校生になってお母さんがいないから、嫌だなんてことは無い。俺が否定すると、沙和ちゃんは取り繕うように笑いを浮かべた。


「過保護じゃなくて……。私はお母さんいなかったのちょっと寂しかったから。周りは知らない人ばっかりだったし」


怖かったから、とつけたす沙和ちゃん。そりゃ、知らない人ばかりのところに行くのは怖いだろう。ましては知らない場所だし。島の外だし。でも……。


「俺には沙和ちゃんがいるから、怖くない。好きな人と通う学校は楽しくないわけないし」

「だ、だから、しゅ、好きな人とかぁ!そんな簡単に言わないの。そういうのは……まぁあれだよ……うん」


口ごもってしまう沙和ちゃん。恥ずかしいのを隠すようにお味噌汁をすすった。


俺も可愛い沙和ちゃんの姿をみて思わず、にやけきってしまったキモイ顔を隠すためにお味噌汁をすすった。


♣♣

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