第28話 パワーでs……。 あ、なんでキャンセルするんですn……の!!
「起きてくださいですわ、お家、着きましたわ」
心地のよい声と揺れに起こされる。
また、今日もあの夢を見てしまった。背中にびっしょりと付いた寝汗が気持ち悪い。
ただ、それでも生きているから目を開けた。
目を開けると、優しい目をしたお嬢様と目が合う。透き通った瞳に彼女の純白の肌と相まって吸い込まれそうだ。
「起きましたか? 家に帰ってきましたわよ」
「凉坂さん、おはようございます」
思っている以上にガラガラな声しか出なかった。
短時間の睡眠だったからか、いつもは悪い寝起きがなんだか今日はいい感じだ。早い段階から意識がハッキリしている。
「怖い夢でも見ましたの? なんだかうなされているみたいでしたわ。それに、何だか悲しそうな顔をしてましたの」
そうか、僕はたった数十分間でそんな状態だったのか、自分では自覚ないんだけどな。途中までは楽しい夢だったし。
「大丈夫、心配をかけたっぽいね、ごめん」
「本当に大丈夫ですの?」
心配されていることが彼女の真剣な瞳から伝わってくる。
そんなに心配しないで欲しい。今優しくされたって、同じだけの感情をきっと僕は返せない。
「啓さん、今日ははやくお休みになられた方が……」
彼女は何も悪くない、でも彼女の優しく心を侵略してくる言動に少し腹が立つ。いや、その優しさをちゃんと受け入れられない自分にもっと嫌気が差す。
「本当に大丈夫だから」
「でも、大丈夫な人はそんな顔をしてませんわ! 私いい方法がありますの、怖い夢や嫌なことを感じた時はパワーですわ! 力でぶっ壊すんですわ」
世の中、力だけじゃ解決しない事もある。それを今彼女に解くのが面倒くさい。今は少し一人にして欲しい。
何も知らないくせに。
「パワーでs」
「お二人とも、もう車を止め終わっているので早く出て頂いてもよろしいでしょうか?」
長く話しすぎたのか、メイドに諭される。外に出ると、頭が冷えたのか冷静になった。さっきまでの自分が急激に恥ずかしくなる、そろそろ大人にならなきゃいけないんだから人に当たっちゃダメだよな。
「そうですわね」
言われた通り、車を出る。
もう夕日も沈みかけていて、辺りはすっかり暗くなっていた。冬の冷たさを少しだけ残した春風が頬を掠めて過ぎ去っていく。
「啓さん、入り口はそっちではありませんわよ!」
凉坂さんに止められて、思い出す。そういえばこの人たち一応今日から一緒に住むんだ。不安だ。あと、どの入口なんだろう、家の中に入れそうな場所が何カ所も見える。
「こちらでございます。どうぞお二人ともお入りください」
メイドが慣れた手つきで案内をする。
こんな大きい家にメイド一人というのは中々バランスが悪いのではないかと一般人ながらそんな事を思った。
「啓さん、一緒に入りましょう!」
笑顔で手を差し伸べられる。さっきまで不貞腐れてて、この手を取らないのは凉坂さんに悪いよな。
凉坂さんの左手に優しく右手に添えた。
「温かいですわね、ふふっ」
笑いながら家中にエスコートされる。
「お帰りなさいですわ!」
「お帰りなさいませ。お嬢様、ご主人様」
急に振り返り、迎えの挨拶を言われる。
驚いた時、上手い返しって中々ないよな。まあここはお嬢様に習って何も捻らずに正面突破で。
「ただいま」
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