第29話 嫌ですわ!わたくしも料理したいですわ!!したいですわ!!!
「では、料理をさせて頂きます。啓様は何か苦手なものはございますか? 言っていただければたっぷり入れますので」
「美月、パクチー苦手だから入れないd……入れるな」
「はい、分かりました」
どうやら今日から夕飯は美月が料理してくれるらしい。
「でも美月には悪いけど、流石に親がご飯作っててくれると思うから一回帰るね」
「そうですか」
料理に余程の自信があるのか、食べるのを断られて寂しそうな顔をしている。申し訳ないな。
「じゃあ一回帰るわ」
いつの間にか凉坂さんがぶち抜いた壁の部分に綺麗なドアが付いていた。そのドア潜り抜けて実家へと戻る。
「ただいま」
「あら、お帰り、なんで帰ってきたの?」
明るい声色や母親の性格上、悪意は全くないんだろうが、親とは思えない言葉だ。
「そろそろ飯の時間かなって」
「あら、今日から啓のご飯は作ってないわよ、凉坂ちゃんか使用人さんに作ってもらいなさいよ」
「なんて、薄情な親なんだ」
「薄情だなんて、親に向かってそんな事言うなんて悲しいわ。でも良かったわあなたが凉坂ちゃんと仲良くできるみたいで」
「なあ、母さんは凉坂さんといつ知り合ったんだ?」
「昔よ、昔、まあ私から話すようなことじゃないから気になることがあるなら、彼女に自分で聞きなさいよ」
「母さん、何か隠してる?」
「親は子に隠し事なんて100個はあるわよ、貴方が凉坂ちゃんと一緒に住むのを許すのはいい経験になるからだと思ったからよ」
親が完璧な人間でないことに気が付いたのは数年前、それでも親の行動は99%以上僕の事を考えての事だ。母さんだって馬鹿じゃない。
「じゃあ、向こうで食べることにするわ」
「じゃあまた、適当なときに帰ってきなさい」
手を振って返事をした。
美月の飯を食べることが何かの経験になりますように。
小奇麗な扉を恐る恐る開く。同じ敷地内だがやはり家と言うには違和感しかない。
「た、ただいま」
「あら、啓さんお帰りなさいですわ! 早かったですのね!」
金髪のお嬢様がトコトコと大型犬が迎えに来るようにこっちに駆け寄ってきた。
「母さんから使用人の料理を食べろって言われちゃって」
「実は美月の料理はすっごくおいしいんですの! 啓さんも楽しみにしているといいですわ!」
そんな料理の上手いメイドを手伝いたそうに、凉坂さんはエプロンを付ける。
「美月の料理結構楽しみ、凉坂さんも料理するの?」
「私は美月の手伝いをしようと思いましたの!」
「いいえ、彩様はゆっくり休んでいてください。食事の用意はメイドの立派な仕事です。ソファーで休んでいてください」
キッチンで既に作業を始めていたメイドが焦ったように口を挟む。
「嫌ですわ! 私も手伝いたいんですわ! 啓さんも一緒に説得してください」
子どものように駄々を捏ね始めるお嬢様が隣にいる。僕の今日一日でめちゃくちゃ成長した直感が言っている。
『凉坂さんに料理をさせるな!!!』
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