12話-貴族と精霊魔道甲冑(2/2)

なかなか帰ってこないドミニクを呼びに行くいい口実が出来たと奥に引っ込もうとすると丁度ドミニクと鉢合わせる。

・・・これはすぐ後ろで話を聞いてたな・・・?


「旦那!ウチのような貧乏店にはミスリルロングソードの在庫なんてないっすよね?」


「あるぞ?」


「ですよね!ないっすよ・・・え?あるっすか?本当に?見栄を張らなくてもいいっすよ?」


「見栄じゃねーよ!ホレ」


鞘を抜き刀身を見せてくるが鉄剣ではない白銀の輝きを放つ。

魔力の籠った刀身は間違いなくミスリル由来だろう。


「・・・どこで盗んできたっすか?こんなものは無かったはずっす!」


「人聞きの悪いことを言うな!床板外したところに隠してたんだよ!」


「売り物を隠してどうするっすか!」


「うぐ、そうだ!盗難防止だよ!表に出してたら盗まれるかもしれないだろ!」


「だからといって接客担当に内緒にしてたら意味ないでしょ。一生売れないっすよ?」


「ま、まぁ売れなかったらそれはそれでしゃーねぇだろ。その時は俺が一生持っておくだけだ!」


「はっはーん?これは思ったより出来が良くて手放したくなくなったパターンっすね?

まぁこの場に持ち出して来てくれたのでチャラにしましょう」


「まぁな!とりあえず客を待たせるのはよくねェ!おーい!ニコラ様!ミスリルロングソードを持って来たぜ!」


その声に振り向くニコラ様。まさか本当に在庫があるとは思わなかったのだろうか、顔に驚きが浮かんでいる。暇をしていたのかお付きのセバスさんが短剣を抜いて主のニコラ様へ見せているところだった。

セバスさんは短剣使いなのかな?しかしこっちは無表情で驚いてる様子もなく残念だ。


「本当か!店主殿!」


嬉しそうな声を出しこちらを振り向くニコラ様。

・・・?

何か違和感がある。そうだ。先ほどまで柔らかな笑顔を浮かべていたはずが、主人の前で何故?視界の端にセバスの手にした短剣が光を反射し輝く。


何事かと視線を向けると手首を返し短剣の刃の向きが上を向きに変わり主であるニコラの首に吸い込まれようとしているところだった。


「ニコラ様!避けて!」


叫ぶがまさかの人物からの攻撃により避け切れそうにない。


『壁石よ!セバスを取り込め!』


二人組の背後の壁石から無数の手が現れセバスに殺到するが間に合わない。

身体能力強化をかけ駆け出すがこれも・・・間に合わない!


そのままニコラ様の首へ突き立てられ・・・


ザシュ!


え・・・?

全員の顔が驚きに変わる。

そう、危害を加えようとしたセバスもだ。

手に持っていた短剣は根本から切断され柄の部分だけを握っている。

そこに立っていたのはカイトシールドとロングソードを手に持ち、振り切った体勢をとっている全身鎧だ。


唖然とした表情のまま無数の手達によって壁に引きずり込まれる。

今は顔だけ出ている状態で身動きが取れない。

万引き対策によく使っている魔法だ。死にはしないし拘束力には実績がある。


「せーちゃんナイス!」


「助かった・・・のか?貴殿は?」


「何が起きたんだ?」


展示品だと思っていた全身鎧が急に動き出し混乱しているニコラ様と、

何が起きたのか混乱しているドミニクに説明をする。


「ニコラ様の命を狙ったセバスの短剣を切断した全身鎧の人は店員兼売り物の精霊魔道甲冑のせーちゃんです。声帯がないので喋れないのはご了承ください」


「あ、あぁ、それは構わないが、精霊魔道甲冑とは何だ?名前からして人ではなさそうだが」


「はい。魔鎧のように精霊を鎧にエンチャントしたものですが、精霊の意志で動かすことのできるものですね。ざっくり言うと精霊に鎧という肉体を与えたってとこです。出来立てほやほやの新商品ですよ?」


「精霊様を!?その、精霊様は自由気ままな性格と聞くが大丈夫なのか?

この店でずっと鎧に扮していたのを見ると大丈夫なのだろうが」


「あ、テイム済みなので安全性もばっちりですよ。・・・テイム済み魔物と同じく引き渡し後は何かあっても購入者の責任になりますけどね」


「そうだったのか。テイム済みなら安心できるな。精霊様をテイムということ自体初めて聞いたが。精霊様。命を助けていただき有難うございました。是非お礼をさせていただきたいのですが何かご希望の品はございませんでしょうか?」


せーちゃんは首を振る。


「ニコラ様、申し訳ないですけど精霊に物欲だとかそういうものはないですよ。

不老不死の存在で暇を持て余しているのでなにか役目を与えてもらえることがご褒美ってとこですかね?」


「ふむ。では鎧の持ち主を守ってくれということも褒美になるのか?」


「ですね!宿っているものを丁寧に扱って貰えると喜ぶので鎧も定期的に磨いてあげると尚よいと思います」


「そうかそうか。何か食料などは必要なのか?」


「う~ん、食料はいらないですね?魔力は空気中や地脈から勝手に吸い上げますし。人の魔力だとおやつ程度にはなると思いますよ」


「なるほどな。偶に捧げるとしよう。ではこの精霊魔道甲冑を頂こう」


「よ・・・宜しいのですか!?」


「あぁ、命の恩人だしな。恩を返すことと私の護衛の強化が同時に叶うならば買わないという手はないな」


「有難うございます!精霊魔道甲冑一式で一千万ガネですけどどうされます?」


「おや?そんなに安くていいのか?では後ほど家人に持ってこさせよう」


「お買い上げありがとうございます!」


ドミニクが呆れた顔で見てくる。ええい!そんな目で見るな!

剣と盾もセットで売り払ったことくらい気にするんじゃない!

・・・ちょっと割高だけど。


「ではせーちゃんのテイム権限を移行させますね」


「頼む」


掌を裂き血を流し、グラスに入れる。


「この血を飲んでくださいっす。それで契約が成立です」


「分かった」


ごくり

躊躇うことなくニコラ様が飲み込むとせーちゃんの胸元に浮かんでいた文様が違う紋章に変わる。

・・・ん~?どこかで見たことがあるような?


「これで譲渡成立です。お疲れさまです!・・・ところでミスリルロングソードはどうされます?一応見てみますか?」


「・・・いや、今回はやめておこう。セバスを引き渡さないといけないからな。あまり長居するわけにもいかないだろう?というかアレはどうやって連れて帰ればいいのやら」


どうやら石壁に囚われ口も塞がれているために呼吸しか出来ない状態のセバスをどうするか気になっているようだ。


「あぁ、開放も魔法でパパっと出来るのでご安心を!全身拘束してしまえるので万引き対策とかにも便利なんですよねあの魔法」


「普段から使ってるのか・・・あんな魔法を。まぁそれならいい。外に待機してる護衛がいるからな。呼んでくる」


入口のドアをあけて手招きすると一般人に扮した人族の男が現れる。

ブロンドヘアーに茶色目の中肉中背の中年の男。一番街でよく見る容姿をしている。

なるほど。一切の個性がない。見ただけではまず記憶に残らないだろう。

上手く隠しているが魔力がえらく多いから一般人ではないということは分かるが。

手際よく指示を出し、セバスの拘束を解除と同時に縄でぐるぐる巻きにして馬車に積み込まれる。


「世話になったな」


「いえいえ。お買い上げありがとうございました!」


「おう!せーちゃんを大事にしてやってくれな!せーちゃんも元気でな!」


せーちゃんはコクリと頷く。


「ああ、任せてくれ!ではな!また来る!」


ガラガラガラ・・・

来た時とは違う御者の手で帰路へ着く。


「しかし良かったのかな?本当にあの金額で」


ニコラは御者の護衛に話しかける。


「宜しいのではないかと?売り手がその金額で良いと言っているわけですし」


「それはそうなのだが・・・おまけについてきた剣と盾だけで4~500万はするだろ。それに加えてこの精霊魔道甲冑だ。まだ出回っていない新技術に加えて憑いている精霊はネームドだぞ?

実質エルフ以外でも精霊魔法が使えるのと同義だ。どう考えても桁が違うだろ」


「それはそうですが・・・でしたら今度訪ねた時にあの者たちが騒いでいた総ミスリルのロングソードでも購入されればよろしいのではないですか?」


「ふぅむ。それも良いかもしれんな。それでも全然見合った金額にはならんが。というかラルフ、護衛なんだからお前が助けてくれよ」


「ちゃんと準備はしてたのでもう少しで動くところでしたよ?

しかしあれは焦りましたね。店の裏から壁ごとセバスの腕を切り落とそうとしたらいきなり鎧が動くとは。」


「そうだったな。あれには驚いた。だがそのおかげで良い出会いがあったのだ」


「それはようございましたな。意志を持つ精霊の武具とはとは。ご兄弟にバレると面倒なことになりますよ?」


「あぁ、それは全力で隠すから大丈夫だ。飾りとして寝室にでも配置しておけばよかろう?」


「そうですね。ですが本当に大丈夫なのですか?精霊をテイムするということ自体、聞いたことも無いので」


「大丈夫だ。私が主となったことでこのせーちゃんと魔力パスが繋がってな。考えていることがわかるようになった」


「ほぅ?考えていることが・・・まるで熟練のテイマーと従属獣のようですね」


「ああ、だから私だけはせーちゃんが安全だと認識できる。これは結構なアドバンテージだと思わんか?」


「それは・・・確かにそのように働く場合もありましょうな。しかしそのせーちゃんという名前はどうなのですか?いささか安直というか・・・イテッ!」


せーちゃんが弱い魔力を飛ばしぶつける。


「ほら、せーちゃんがご立腹だぞ?どうやら気に入ってる名前のようだから謝っておけばどうだ?これから同僚になることだしな?」


「そうですね。せーちゃんさん?どうもすみませんでした」


せーちゃんはコクコクと頷く。


「お?許してくれたようだぞ?良かったなニコラ」


「はい。許していただいてありがとうございます。

あ、それとあの二人組との縁も大事になさったら宜しいかと思いますよ?」


「それは当然だと思うが?他の貴族連中が目を付けてない穴場だからな。

チャールズが自慢してたからそのうち噂が拡がるだろう。唾を付けとくに越したことはない」


「ええ、そうですね。あれだけの武具を打てるならどこかのお抱えになるのもそう遠くないでしょう」


「だなぁ。先に取り込んでしまいたいところではあるが。お前の目からしても良い武具だったのか?珍しいな」


「はい、ドワーフの中でも上位の腕があるのではないでしょうか?店内をちらっと見ただけですが何本か魔剣もありましたよ?」


「本当か?まさか店の半分が鍋やらフライパンやらに占領されてる店にそんなものがまだあったとはな」


「ええ、まだ実戦を経験してないようなまっさらな剣だったのできっとあそこで作られたのだと思いますよ。精霊魔道甲冑などを作れるようですし。あれはドワーフの仕業じゃないでしょうからエルフの方ではないでしょうか?」


「あのちっこい方か・・・まぁ、長命種だけあって実年齢は分からんか」


「まぁそれはまた今度会ったときに聞けばいいとして、このままお城に向かえばよいですか?」


「そうだな。セバスには聞かないといけないことも多いしな。城へ向かってくれ」


「了解しました」


馬車は王都の中心に向かっていく。

王の居城、デベネノア城へ向かって。

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